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ダンジョン運営奮闘記  作者: 優樹
魔王会議編
22/46

1.魔界への招待

第二章開始です。

再びお付き合いいただければ幸いです。

 魔王になってから五ヶ月、地道にダンジョンを拡張し続けた結果、遂に魔界門とゲートを繋ぐだけの魔力が結界陣に蓄えられた。

 予想よりも早くなりましたね、とはメリルの言である。

「すぐに魔界とゲートを繋ぐのか?」

「いえ、魔王様を魔界にご案内したいのは山々なのですが、まずは商会の方にゲートを繋いで補給を行おうかと」

「商会?」

「はい、魔界にあるトレンティア商会という、人間界のダンジョンへ物資を補給する担当の商会です」

「俺、金持ってないけど……」

 侵入者達から奪った人間界の通貨ならそこそこあるけど、魔界の買い物では当然使えない。そう考えると甲斐性なしもいいとこではないだろうか。

「魔王様はまだ運営資金を受け取っておりませんからね、ですが大丈夫です、魔貨なら私が持っておりますから」

「え、運営資金とかもらえんの?」

 初耳だ、地方交付税みたいなもんだろうか。

「はい、年に一度魔界から支給されます」

「じゃあうちも探せばあんのかな」

 でも引越しの際に魔貨なんて見かけてない気がする。

「ランドゲルズ様は魔貨の大半を買い物に使われてしまったようですから」

「何買ったんだじいさん……」

 いくらダンジョンの規模が小さいとはいえ、結構な額が毎年入ってきていたのではないだろうか。

「……ええと、私の人生です」

「は?」

 ひょっとして、奴隷売買みたいな……

「いえ、違います、私の生涯賃金を魔貨で支払っていただいたのです」

 顔を曇らせた俺にメリルが慌てて補足する。

「まじかよ!?」

 合法的な人身売買? 一体いくら支払ったら人ひとりの人生なんて買えるんだ。

「は、はい、私もあまりに高額だったため、驚きました。支払っていただいた金額の大半は母宛に送付しましたが、それでも手元に十分な額の魔貨があります」

「でもそれってメリルのお金なんだろ? ダンジョン運営に使うのはちょっと悪い気が……」

「いえ、いいのです、どうせ人間界にいたら魔貨を使う機会なんてないのですから」

 そうは言うけどやっぱり悪い気がする。ここは一時的に借りることにしよう。

「来年の運営資金が入ったら使った魔貨はちゃんと返すからな!」

「私は構わないのですが……いえ、わかりました、ありがとうございます」

 俺の気持ちを察してくれたのか、メリルは微笑を浮かべて頷く。

 それにあれだよな、メリルのお金に頼りっぱなしになるってことは、財布の紐を握られているってことだ、つまり何か欲しい物があったらその都度メリルを頼らなくてはいけないってことで、それは所謂尻にしかれるってことだ。小遣い制のサラリーマン以下の存在みたいな感じだな。ヒモだヒモ。

 などと考えていたら、メリルが俺を睨んでいた。

「何か失礼なことを考えていませんか」

 じろりと俺を見つめる切れ長の瞳。とても迫力があります。

「い、いえ、そんなコト、ありませんヨ」

「動揺しているようですが」

「ごほんっ、ちょっと口の中が乾いてな!」

「……まあいいでしょう、それで、話を戻しますが、商会とゲートを繋ぐということでよろしいですか?」

「ああ、それでいい」

「では、結界陣の調整を行いますので、少々お待ち下さい」

「わかった」


 しばらく後、メリルが結界陣の調整を終わらせ、遂に魔界とゲートを繋ぐことになった。

「後は魔王様が起動のための魔力を注ぐだけでゲートが開きます」

「ゲートってどれくらい開いてるんだ?」

「そうですね、およそ数時間は開きっぱなしかと。もちろん途中で閉めることも出来ます」

「すぐ閉じたら魔力の節約になったりすんの?」

 次に開けるのはいつになるかわからないし、節約が出来るならそうしておきたい。

「いえ、魔界へのゲートを繋ぐのに最も大きな魔力を使うので、すぐにゲートを閉めてもあまり節約にはなりませんね。一度繋いだ後は維持に少々の魔力を使うだけですから」

「そうか、残念」

 まあすぐに閉じたら用事も済ませられない気がするし。そこは気にしない方がいいか。

「じゃあ、やるか」

「はい、よろしくお願いします」

 魔力を集中し、呪文を唱える。

「<<開け魔界への門>>」

 詠唱を行うと結界陣に膨大な魔力が集中し、陣の中央から黒い”もや”が立ち上る。

 もやは少しずつ大きくなりながら形を変化させていき、数分後には巨大な黒い門となった。

 そして少しずつ門が開くと、そこにはどこかの建物の中が映っていた。

「いらっしゃいませ! トレンティア商会へようこそ! 何がご入用ですか?」

 門が完全に開いてから数秒後、どこからか走り寄ってきた魔族の受付嬢らしき人物が、来店の挨拶を述べていた。


「魔王様?」

 しばし呆然としていた俺に、メリルから声がかかる。

「はっ!」

 我に返った俺をメリルが気遣わしげに見る。

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ、ちょっとびっくりしただけだ」

 なんかちょっとイメージが違ったというか。いきなり店の中に繋がるとは思わなかった。

「そうでしたか、では、商談に入らせていただきますので、しばしお待ちください」

「わ、わかった」

 俺では魔界の買い物事情に詳しくないので、事前にメリルが商談を担当することに決まっていた。

「私はダンジョン<奇人の住処>のものですが……」

「ああ、<奇人の住処>様ですか、前回は半年ほど前のご利用でしたね」

「ええ、今回は色々と補充をしたく思っていまして」

「なるほど、では何を……」

「食料と家具、衣類に……」

 細かい話に入ったメリル達を横目にしながら、ゲートやその向こう側にあるトレンティア商会の店内を眺める。

 ゲートの大きさから考えても、かなり大きな部屋につながっているようだ。天井まででも十メートルくらいはあるだろうか。巨人でも通れそうだ。

 そうやって色々と眺めていると、急にメリルに呼ばれた。

「魔王様、よろしいですか?」

「ん、ああ、なんだ?」

「魔王様が使う剣を買おうかと思うのですが」

「俺の?」

「ええ、人間から奪った武器では、すぐ壊れてしまうでしょうから、もっと良い物を使われるべきだと」

「あー、そうだな、そうしよう」

 一瞬また剣を振るうことに抵抗を感じたが、ダンジョンの皆を守るために使う武器は必要だと思い直す。

「では、剣の用意をお願いします、全て魔王級で」

「かしこまりました! 少々お待ち下さい!」

 そう返事をして、受付嬢が去っていく。

 遠くなっていく受付嬢の背中を見ながら、俺はメリルが言った言葉が気になったので聞いてみる。

「魔王級ってのは?」

「はい、魔界の武器は頑丈さの指標に級が設定されており、それぞれの級によって、頑丈さ……この場合、物理的な頑丈さだけではなく、魔力的な頑丈さも指します……が、決まっているのです」

「魔王級ってのはどんくらいなんだ?」

「下から下級、中級、上級、超級、特級となっており、魔王級は超級の別名ですね」

「ほー、なんで魔王級って呼ばれるんだ?」

「昔は下級なら小悪魔級といった名前がついていたのですが、魔法の体系と合わせるために名前が変更されたのです、それでも魔族の中では魔王級の魔力を持つものは別格として扱われるので、魔王級という名称だけは今でも使われているのです」

「なるほどね」

「魔王様の使用に耐えられる武器となれば魔王級以上しかありませんので、その中からお選びください」

「……それはいいんだけど、そんだけいい武器だと高いんじゃないの?」

「お気になさらないでください。本来であれば防具の方も購入したかったのですが、いきなりではサイズやデザインを決める問題もありますので、今回は見送らせていただきます」

 武器があるなら当然防具もあるか……一体いくら装備にお金を使うんだろうと、ちょっとひきつりながら頷く。

「戻ってきたようですね」

 見れば、受付嬢が後ろに巨人を従え、戻ってきているところだった。というか、本当にいたのか巨人。

「おまたせいたしました!こちらになります!」

 巨人が様々な剣の入った箱を下ろす。軽く数十種類はあるだろうか。

「それでは魔王様は武器をお選びください。私は運ばれてきた他の品をチェックいたします」

「わ、わかった」

 選ぶっつってもどうやって選ぼうかなぁ……と思いながら、目についた普通の長剣を手にとって見る。

 ぶんぶんと振って、なんとなくしっくりこなかったので別の剣を手に取る。

 ぶんぶん、ぶんぶん、ぶんぶん。

 しばらく無言で剣を振り続ける。

 どれもいい剣なんだろうけど、どうもしっくり来ない。セレナとの練習では木剣しか使っていないし、調査団と戦ったときは侵入者から奪ったロングソードを使っていた。その後は武器をとっかえひっかえ壊しながら使っていたけど、自分が使いやすい武器というのはよくわからない。

 悩みながら剣を振るい続けていると、剣や荷物を持ってきた巨人が面白そうに俺を見ていた。

「なんか用かい?」

「武器の選びかたニ、お悩ミのようですかラ、助言でモと思いましテ」

「そりゃありがたい、聞かせてくれよ」

「魔王様ハ、かなリ筋力があるト思われまス、ですかラ、重い武器をもつト、良いのでハないでしょうカ」

「重い武器か」

 確かに今までは片手で持てる剣しか振っていなかった。両手剣は使ったことがない。

「これとかどうかな」

 選んだのは両手持ちのトゥハンドソード、刀身がかなり長い。

「おお、確かに重さを感じる」

 振り回すとぶおんっ、と風が巻き起こる。

「でもなんか上手く振れないな……」

 体が慣れていないので仕方ないのかも知れないが、どうも無理やり振り回してる感がある。

「日本刀とかあったら使ってみたいのに」

 日本男児が使う剣といえば日本刀。それは男のロマンだ。扱いが難しいことなど練習で克服してみせる。

「ニホントウ?」

 巨人が俺の言った言葉に興味を示す。

「ああ、なんつったかな、折り返し鍛錬法とかっつー製法で作られた鋼を使う、片刃で反りのある剣なんだが……」

「詳しイ製法ハわからなイのですカ」

「残念ながら」

 この世界のどっかにないかな、日本刀。

「まあ無い物ねだりしてもしょうがない。今はこっから選ぼうじゃないか」

 また俺は剣を振りだす。


 しばらく後、無事に武器を選び終えた俺のもとに、メリルが戻ってきた。

 ちなみに結局選んだのは、片手でも両手でも使えるというバスタードソードだ。重さは少々物足りないが、それでもトゥハンドソードよりは振りやすい。

「魔王様、こちらのチェックは終わりました。支払いに入ります」

「俺はこの剣にするよ」

「バスタードソードですか、いいのではないでしょうか」

 メリルが頷く。

「では、荷物はダンジョン内の指定の位置に運んでください」

「かしこまりましたー! すぐに作業に入らせます!」

 受付嬢が元気よく答えて、連れてきた従業員たちに指示を出す。

「これで荷物を運び終えたら買い物は終了か」

「はい、次回はまた数ヶ月後になるでしょう」

「気の長い話だな」

 そうやってメリルと雑談をしていると、受付嬢が俺達の方に戻ってきた。

「お客様! そういえばお客様に書状を預かっておりました!」

 そう言って俺に手紙を渡してくる。

「なになに……<奇人の住処>新魔王様まで……」

 手紙を見てみると、確かに俺宛のようだ。

「魔王会議への招待?」

 なんだかまた、面倒そうなことがやってきそうだ。


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