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ダンジョン運営奮闘記  作者: 優樹
魔王降臨編
18/46

18.決戦-前半-

一つの区切りが見えてきました。

「ふっ」

 俺は手に持った木剣を、セレナへと振り下ろす。

「動きが素直すぎる!」

 それはセレナが持った木剣に容易く弾かれ、俺はたたらを踏む。体勢を崩したその隙にセレナの木剣が突きつけられ、試合はもう何度目かわからないセレナの勝利となった。

「その身体能力は驚異的だけど、戦いはからっきしだねぇ、魔王サマ」

「本当に、正直自分でも能力の高さを持て余しているよ」

 調査団殲滅すると決めた日以降、俺は自身でも戦えるようにセレナから戦闘技術を習っていた。

「アタシも誰かに習った訳じゃないから、我流だよ?」

 武器の扱いを教えてくれと頼んだ俺に対してセレナはこう言ったが、それでも丁寧に教えてくれている。

「まあ、本番では力をセーブしないで戦えば、フェイントがなくたって相手を圧倒出来るだろうけどね」

 初めて本気で木剣を振られたときは、剣筋も何もかもデタラメだったのに殺されるかと思ったと、セレナがぼやく。

 そうなのである、俺の身体能力は思ったよりも高スペックだったらしく、本気で武器を振るえば技術も何もないくせに、身体能力だけで人間を圧倒できてしまう。

「でも、正しい剣の振り方や身のこなしを身につければ、もっと強くなれる」

 そのためにセレナから戦い方を習っている。

「それに、今の魔王サマの戦い方じゃ、先に武器の方がぶっ壊れちまうしねえ」

 人間の武器は人間が使う想定で作られている、当然俺のような化け物じみた力で振るわれたりすることは想定されていない。

 現在ダンジョンにある武器は侵入者から奪ったものしか無く、無茶に使えばすぐに壊れてしまうだろう。正しい使い方、武器に負担をかけない使い方を学ぶ必要がある。

 最悪素手で戦うことも考えたが、流石に鎧の上から拳でぶっ叩くような真似はしたくない。

 ちなみにメリルの話では、魔界には魔族が使うためのかなり頑丈な武器防具が売っているそうだ。もちろんお値段もそれなりに高額という話だったが。

 魔界門とゲートを繋げられない現状では、ただの無い物ねだりにしかならないのが悲しいところだ。

「それじゃあ、また一戦頼むよ」

「あいよ」

 こうして俺は、日々訓練に励んでいる。


 セレナとの訓練以外に、メリルとの魔法訓練も継続している。

 普段のような魔力の扱いを練習するのではなく、調査団と戦うために必要ないくつかの上級呪文を中心に習っている。

 特定の魔法は魔力を注ぎ込めば注ぎこむほど威力がどんどん上昇していくという特徴がある。破壊力に効果範囲、効果時間などだ。

 今回習っている魔法は、魔力の調節は二の次で、とにかく威力を追求したものなっている。

 下級魔法は魔力の集中と詠唱が正確ならば、効果の強弱はあれ大体の魔法は発動する。しかし、中級以上はそうもいかない、本人の適性──得意属性や苦手属性──も関わってくるし、種族的なもの──魔族は闇魔法が得意で天使は光属性が得意など──も影響する。

 今俺が習っているのは、広範囲に影響を及ぼす魔法で、主に水属性と地属性のものだ。

 系統的にはメリルの得意な属性ではなく、特に水属性はメリルも使えない魔法のため、習得はやや難航している。しかし、今回の作戦に火属性魔法は適さないため、俺は必死になって覚えようとしていた。

 ちなみに、ダンジョン内部で練習するには危険な魔法のため、侵入者がこないタイミングを見計らって地表で練習している。

 そういえば以前メリルがセレナに渡した(と言っていた)魔力結晶だが、あれは結界陣を使って作り出した物だ。結界陣が集めた魔力を結晶の形に保存するもので、今のダンジョンの状況からあまり大量の魔力を使うわけにはいかないが、セレナの補佐としていくつか作る予定になっている。

 魔力結晶があればセレナも魔術ではなく魔法が使えるんじゃないかと期待したが、元々魔力をあまり持たない人間では、いくら魔力結晶を使ったところで魔族が使うような魔法は発動出来ないらしい。発動させること自体が困難で、発動したとしても体にかかる負担が非常に重い、とメリルが説明してくれた。

 じゃあ逆に俺たちが魔術を使うことは出来るのか?と訊いたら、恐らく出来るでしょうが、基本的に魔術は魔法の劣化版なので、意味はないと言われた。なるほど納得。


 ダンジョンの方にも変化がある。遂に第三層の開拓が終わり、引越しが完了したのだ。俺達の活動拠点も第三層へと移り、今まで第二層だった部分には魔物とトラップを配置する予定になっている。

 この世界に来てから三ヶ月近く、住み慣れた第二層から移動して、大量の本や研究資料が運び出された元執務室を見ていると、こんなに広かったのかという思いが湧いてきてなんとなく寂しい気持ちになる。

 だがこれにもいずれ慣れていくのだろう。現時点で既に第四層の開拓はスタートしているし、今後もダンジョンが拡張していく限りは何度も引っ越すことになるのだから。

 第三層の開拓が終わったことによる影響は他にもある。結界陣の魔力吸収量が多くなり、弱い魔物であれば前よりも多く呼び出せるようになったし、それよりも少し強い魔物──今の戦力でいうとスケルトンメイジなど──も呼び出せるようになった。

 まだまだ下級の域を出ない魔物達だが、戦力が増加するのは素直に嬉しい。

 それに防衛にも有利になる。今までは第二層が居住地だったため、無理をしてでも第一層で侵入者達を撃退する必要があったが、今後は第二層にも魔物やトラップを配置出来るようになるので、防衛効率が上がるとメリルが言っていた。

 侵入者から奪った使わない装備などを宝として第二層に設置しておけば、それらがダミーとなって第三層から目を逸らす役割にもなるし、宝箱自体に罠を仕掛けることも当然可能だ。今後はより戦術の幅が広がることになる。


 また、効果は未知数だが魔物達の合同訓練も行なっており、アンデッド系と亜人系でチームを分けて連携の練習をさせてみている。

 アンデッド系の魔物は指示通り動くものが多いため、連携にそれほど問題はなさそうだ。臨機応変に対応させるには、メリルのような指揮官が細かく指示を出す必要があるが。

 しかし、亜人系は知能の問題か好き勝手動くものが多く、あまり成果は上がっていない。言語が異なるのも問題があるようだ。俺やメリルの指示はダンジョン内の魔力を通して出しているので、意味がそのまま伝わるのだが、口頭での指示しか出せないセレナでは、まともに意思を伝えることすら叶わない。こちらはある程度割り切って運用するしかなさそうだ。

 代わりに武器を持たぬ亜人には、侵入者から奪った装備をいくつか渡して武装から戦闘能力の強化を図る。今までが棍棒や石製の武具だったりしたので、随分まともになった。防具もつけてないものがほとんどだったため、負傷率の低下に一役買ってくれるだろう。

 ちなみにランドリザードマンは表皮が結構硬かったので、武器のみ渡しておいた。

 ギャッギャッ、ブヒブヒ、シャァァァと、はしゃいでいた? ので、きっと喜んでくれたんだろう。

 そうして準備を整えだしてからひと月近く、ついにダンジョン調査団がやってくるのである──


……


 ある日、新しい日課となった素振りをしていると、メリルが走りこんできた。

「魔王様! 買い出しに出ていたセレナから、調査団がキリネ村に到着したと情報が入りました!」

「わかった、すぐ行く」

 キリネ村はダンジョンに一番近い村だ。前にセレナから教えてもらった。

「ついに来たか……」

 俺はごくりと生唾を飲み込むと、会議室へ急いだ。


 会議室に到着した時、既にメリルとセレナ、それからアーシャが待機していた。

「魔王様が来られましたので、急ぎ状況を整理します」

「頼む」

「本日、いつも通り変装してセレナが買い出しに行きました。その際に街道を行軍してくる兵士たちの姿を見かけ、村の住人に所属を確認したところ、ランドール王国のダンジョン調査団だと判明しました」

 ランドール王国は辺境の地フェニアに存在する都市や、以前セレナ達が住んでいたという商業都市チャントを治める王国だ。人間の国の中ではそこまで大きい規模ではない。

「セレナが確認したところによると、兵力は最低でも百五十名以上、補給部隊などを含めるともう少し多いかと思われます」

「百五十名? 予定よりもかなり多いな……」

「はい、計画を多少修正する必要があると思います」

「大筋は変更しなくて大丈夫か?」

「問題ありません」

 メリルが頷く。

「こちらへの到着予想は早ければ翌日、遅くとも三日以内に来ると思われます」

「敵の行動予想は?」

「まずはダンジョン周辺に野営地を築くでしょう、それから魔術師や学者達が、ダンジョン周辺を探索、ダンジョンの規模や魔物の生息状況を確認します。その後に第一次調査隊を編成し、ダンジョン内に突入してくるものと思われます。もしかしたら兵力に余裕があるため、調査隊を早めに投入してくるかも知れませんね」

「まずは野営地を築くまで俺たちは手が出せないな」

「ええ、そうなりますね。彼らの動きを監視して、ダンジョンの中と外から一気に殲滅出来るタイミングで仕掛けます」

「タイミングとしては補給部隊が合流したらかね?」

 セレナ問う。

「無論です、一人でも取り逃がすことは許されません」

「じゃあ予定通り、メリルは魔物を率いて防衛を頼む。俺とセレナは調査団が到着する前に外で待機するぞ。アーシャはリーゼと一緒に第三層で待機だ。最悪の場合結界陣まで逃げこめ」

「了解しました」「あいよ」「わかりましたぁ」

「俺たちが仕掛けたらメリルも前線に出て戦ってくれ、それまではなるべく通常通り防衛頼む」

「心得ております」

「よし、じゃあダンジョンを守るために戦うぞ!」


……


 調査団が到着して数時間、私は会議室で遠見の魔法──リモートビューイング──を使い、調査団の様子を観察していた。

「野営地の設置に入ったようですね」

 兵士たちはダンジョン周辺に魔物がいないことを確認したのだろう、ダンジョンに程近い泉の近くで野営地を設置している。

「それに、設置地点も大体予想通りですか」

 いくつか野営地の設置地点を予測していたが、そのうちの一つと合致していた。

「魔王様達も確認出来ているでしょう、後はタイミングを見計らうのみですね」

 すると、そこで一部の兵士達がダンジョンに向かい出した。

「おや、随分と調査に動くのが早いですね」

 人数にして三十名程だろうか、学者は含まれておらず全員が兵士のようだ。

「では、緒戦開始と参りましょうか」

 私は魔物達の指揮を執るため、会議室を後にした。


 私はまず兵士達の様子をみるため、第一層には魔物を配置せず第二層で待機することにした。

「……妙ですね、調査というよりはまるで宝を漁りに来た冒険者のような動きです」

 兵士達はダンジョンの入口でいくつかのグループに別れると、そのままダンジョンの探索を開始した。その姿は調査というよりは、完全に宝を探しているもののそれだ。

「素直に撃退するとしてもやや人数が多いですね……これで調査隊が打ち止めなどということはないでしょうし、ここは私が出るべきでしょうか」

 その場合、姿を見せないようにするか、見せても皆殺しにするかのどちらかになる。

「あまり調査とは関係のない一団のようですが、念のため姿は見せないようにして撃退しましょう」

 ちょうど良く、分かれていたグループが再び合流し、第二層へと向かうようだ。まあ第一層にはダミーの宝もろくにないし、魔物もいない。トラップはいくつか仕掛けてあるが、全て回避されてしまったようだ。

「そうですね、あれでいきましょう」


……


 いくつかのグループに別れて第一層をある程度探索した兵士達は、再び合流すると第二層へ向かい出した。 第一層には目ぼしい宝はなく、兵士達は一様に不満顔だ。

 だがまだまだ探索はこれからと気合を入れ直し、先へ進む。

 そしてやや窪地になっている部分に差し掛かった時、それは起こった。

「何か声が……?」

「隊長! 急に何かがっ」

 注意の声をあげた兵士を確認しようと隊長の男が顔を向け確認しようとすると、瞬く間に視界が霧のようなものに塞がれていた。

「なんだこれはっ……ごほっ」

 瞬間、目と鼻、そして空気を吸い込んだ喉から肺にかけて粘膜を焼かれるような激痛が走った。

(毒かっ、まずい、離れなければ!)

 空気をわずかに吸い込んでしまったため、痛みで声を出すことが出来ない。それでもとにかくここから離れようと動き出した時、魔物達の声が響いた。

「「「「「「カタカタカタカタ」」」」」」

「「「グルルルル……」」」

「「「アァァ……アァ……」」」

(おのれえぇ! 罠だったか!)

 他の兵士達も気づいたのだろう、動揺が伝わってくる。しかし、驚くほど声はあがらない。皆少なからず毒を吸い込んでしまったのだろう、声が出せないのだ。

(こんなところで死ぬことになるとはな……)

 この絶望的な状況から逃げることが出来ないとわかって、諦めが体を支配する。

 死へと向かう戦いが始まった。


……


「<<瘴気の源よ、毒の雲となって彼の者達を包み込め>>」

 発動する魔法は中級闇魔法ポイズンクラウド。指定地点に爆発的な勢いで広がる猛毒の雲だ。毒耐性を持つものには効かないが、精鋭でもない一調査隊の兵士全員が毒対策しているなんてことはないだろう。

「行きなさい」

 そして追い打ちに毒の効かないアンデッドモンスターによる攻撃。スケルトン達とゾンビドッグ、ゴーストだ。

 だが全員が毒にかかってしまったのか、視界も連携も塞がれ、毒によって呼吸もままならない兵士達はほとんど抵抗らしい抵抗も出来ずにやられていき、驚くほど静かに兵士達は全滅した。

「呆気無いですね、こちらも何体かやられると思ったのですが」

 魔物達の被害はゼロ。闇雲に振り回された武器が当たったものもいるが、軽傷だ。

「まあ、目的は達成出来たので良しとしましょうか」

 メリルはそう独りごちて、第三層へ戻った。


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