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嘘くさい本当

作者: 来夢

「ごめん・・・ごめん、あのさ、別れない?」

こんな話を持ち出しているというのに、君はいつもと変わらなかった。

「へ?何で?」

漫画みたいな反応で、目の前のココアを飲んでいる。


あまり暖かくなさそうなアウターを羽織って、ボーダー柄のインナー下にふわふわした茶色の服を着ている。下は寒いからかジーンズと、多分ブーツであろう黒い靴。長めのジーンズに隠されてよく見えない。

「何で別れるの?・・・嫌いになった?」

不安そうな顔ではいるが、あまりに軽すぎて微妙すぎて、ここは喫茶店だが周りの客も何を気にする様子も無い。

「その、だって嘘くさすぎるんだよ」

「は?」

君はポカンとした表情になった。『全く話が見えていない』という時は、こういう表情をするのだろうか。

「それ!!その反応!別れようって言ってるのに、反応薄すぎない?」

確かに「付き合って」と言ったのは君だった。

好きだよ、と言ったのも君だった。

でも、全部が素直すぎて、本心が読み取れないのだ。

君は誰にでも―本当に誰にでも「カッコいい」とか「可愛い」と言うし、視線がいつも僕にあるかというとそうでも無くて、見つめている人が僕じゃないこともある。

女子だけならまだしも、男子にだってそういう言葉や視線を送るから、余計心配なのだ。


「この人は本当に僕を好きでいるのか?」と――。


「そう・・・?そうかな、普通だけど。ごめん・・・」

漫画みたいな答え、声の感じは下手なドラマみたいに嘘っぽい。

別に感情を隠すのが上手いってわけじゃない。

悲しかったときは悲しそうな顔してるし、嬉しいときは笑顔だし、不安なときは相談してくれたりもする。

だけど、彼女の中に「怒り」という感情が無いように思うのだ。

もっと言えば、「嫉妬」とか「好奇心」とか「動揺」。


だって普通、彼氏の部屋に他の女入れてたら、怒るとかするだろ?

だって普通、バレンタインに彼氏が他の女から沢山チョコ貰ってたら、嫉妬するだろ?

だって普通、彼氏が他の女の親しげにしてたら、動揺するだろ?


なのに、君は―否、僕が浮気してたわけじゃない、たまたまだ、たまたま―そういう現場を目撃しても、「あの人誰?」とも「そんなに貰って、誰かに気があるの?」とも聞いてこない。

怒った視線も感じない。

僕のことを信じてるといえばそれでおしまいだが、人間はそんなに都合よく人を信じられるものだろうか?

僕なら、無理だ。

彼女が他の男と話してたら嫉妬する、誰?って聞いてしまう。

彼女がラブレターでも貰えば、破り捨てたい勢いで付き合わねぇよなって言ってしまう。


「僕のことどう思ってるの。どうでもいいんなら、そんな気持ちで付き合いたくないし。生憎僕はそんな軽いノリで付き合うような性分じゃないしね」

でも、彼女も一見しただけじゃ軽いノリで付き合うタイプには見えないし、彼氏とっかえ病にかかってるようにも見えないし、二股かけてるようにも見えない。

だから、これといって目立つ非の打ち所が無いのだ。

「そんな・・・そんなことない、好きだよ」

君が言うと、どうしても白々しく聞こえてしまうのは、好き、という言葉の重みを忘れてしまったから。

言いにくい言葉のはずなのに、君は聞いてる方が恥ずかしくなるほど軽く、その言葉を音にする。

「・・・ごめん・・・ほんとにそれ、思ってる?嘘っぽい。だから、・・・」

語尾をにごして、僕は席を立った。

「ごめん」何故かそう言った君が、追ってくることは無かった。



翌日見た君は、目を赤くしていた。

泣いたのかな、と思ったが、泣いたのは泣いたけど僕のことでは無いらしい。

イライラしたので、これ見よがしに他の女と喋れるだけ喋ってやった。

でも、時折彼女の方をみても何もなかったように誰かと雑談を交わしているだけだ。

所詮それだけの存在だったというだけだろう。別れてよかったのかもしれない。


帰り道。僕は家まで1kmあるか無いかの道を歩いていた。

「ねぇ、雨宮(あまみや)君」

名前を呼ばれなければ無視してやろうと思ったが、立ち止まって振り向く。

そこには、昨日フったばかりの君が居た。

「何?」

「・・・昨日言えなかったけど、別れなくないよ」

またドラマみたいな抑揚で、君は言う。

だから、だから嘘っぽいのに。

「何で?だって、僕のこと好きじゃないでしょ?」

「は?な、なんで!うちはずっと雨宮君のこと好きだよ!雨宮君がうちのこと嫌いならしょうがないけど、でも、そんなんじゃない気がしたから」

取ってつけたような台詞なのに、どうしてか彼女は勘がいい。

そう、僕は別に君を嫌いになったわけじゃないよ。

「嘘だろ、だって、昨日、泣き出しもしなかった。怒りもしなかった。どうでもいいからじゃないの?」

「そんなわけないでしょ。・・・泣いたよ、それに・・・」

泣いた?嘘だ。

「飼ってたハムスターが死んだから泣いたって聞いてるけど」

「あんなの、嘘に決まってるじゃん」

返す言葉が無い。こんな台詞を言われても、僕は疑ってしまう。

下手な女優が主演のドラマに見えてしょうがないのだ。

「つか、なんでそんなに演技みたいなの?」

「・・・演技?」

「間の取り方も、言い方も、文法も、言葉も、全部台本に書いてあること言ってるみたいだ」

思ったままのことを言う。

すると君は意外な答えを言った。

「え、方言が嫌いだから。・・・怒るのは、きっと醜いし嫌われることだから」

君の自論はきっと、怒る=嫌われるの方程式でできているんだろう、と思わせる台詞だった。

「・・・うちね、ちょっと油断するとすぐいじめられるんだよ?だから、絶対怒りたくないし、悪口だって極力言いたくないし、偽善者でもいいから、リアクションだって取ってつけたようだけど・・・だっていじめられっ子が彼女なんて絶対いやでしょ」

君は下を向いていた。何かを思い出しているようだった。

そんなこと知らなかった、聞こうともしなかった。

彼女を好きじゃなかったのは僕の方だったのかもしれない、と今更思った。

「大丈夫だと思うよ・・・。ごめん」

僕はそっと近付く。

そういえば、彼女は「ねぇ、『雨宮君』」と名前を呼んだ。

あれも、相手を振り向かせるため・・・そういう意味じゃなくて、実際の意味で、だろうか。

僕はそっと、下を向いたままの君を抱き寄せた。

グダグダですみません・・・。

突発的に思いついたお話。意外に長くなってしまいました。

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