ビジネスマン令嬢の端的かつ手を汚さない復讐劇
「ライラ! 今ここに、この僕は君との婚約を破棄するっ!」
酒と社交ダンスが交わされる、華やかなパーティーの中。第1王子・シュバルトの声が、会場に良く響いた。薄々勘づいてはいた。あの男が、私に飽きていることに。私は一応、尋ねてみる。
「……理由はなんでしょうか。シュバルト様」
「お前は可愛げがないのだよライラ。仕事ばかりで、他人を顧みる気が一切ない」
「……そんなつもりはなかったのですが」
「お前にその気がなくても、僕はずっと嫌いだったよ。お前のことが」
端的に、私とシュバルトの関係性を説明しておこう。貴族とはいえさほど位の高い令嬢じゃない私と、王族のシュバルト。私が持っていたビジネスのアイデアを、シュバルトが『共同経営』という名目で横取りした。そして、私を働かせ始めた。最初は気にしていなかった。なんだかんだ王族の妻になれるなら、親にも良い思いをさせてあげられるからだ。しかし、この仕打ちか。
「僕はショットと幸せになるからな。とっとと出ていけ、ライラ!」
「……かしこまりました。シュバルト様」
ショットという名の女は、もちろん会場に呼ばれている。彼女は「シュバルト様~!」と媚びるような声を出していた。私は飽き飽きしながら会場を出る。すると、第4か第5くらいの王子であるツバキがてくてくついてきた。子供のように小柄な彼が、おどおどしながらついてくる。
「……あの、ツバキ様。なんのおつもりでしょうか?」
「えっ、あ、あの……ちょっと、気の毒に思って……」
「……同情するおつもりですか?」
「え、いやあの、気を悪くされたなら……」
なんだか面白くなってきた。私は目の前のツバキに対し、ふとしたイタズラ心を発揮してみる。
「そんなに同情してくれるなら、私のお願いを聞いていただけます?」
「い、いいですけど……」
「私の自慢話をさせてください。シュバルト様との、ビジネスに関しての」
「はっ、はい!」
なんだかおどおどしすぎである。一応、位としてはツバキの方が圧倒的に上なのに。まぁいい。私はとりあえず、1番最初の方から話を始めた。
「始まりは、王都と近場の集落を結ぶ、馬車道を作るという計画でした」
「は、はぁ……」
そうして、私はぽつぽつと喋り始める。整備された馬車道を作ることで、王都への経済効果も見込める。そんな内容の書物を書いたら盗まれた。それだけの話なのだが……
「シュバルト様は見栄っ張りですから、道路を作ることで王都と集落の間を30分で結べると発表したのです」
「なるほど。そんなに早くできるのですか?」
「まぁ、最上級の馬を20往復させた1番良いタイムを発表させただけですが」
「な、なるほど……」
確かにそれは見栄っ張りだ、と顔に書かれていた。反応が面白くなった私は、もっと追加でしゃべってみる。
「まぁ、馬車道を作るのには相当な金額がかかりましたよ。ざっと、金貨2万枚分」
「ちょっとした城が建つじゃないですか……それなら、きっと良い道路が産まれたのでしょうね」
「8個ある『仲介ギルド』にほとんど持っていかれました」
「それってピンハネと呼ぶのでは?」
おっと、ツバキは随分と勘が良い。私は他にも、色々と喋ってみた。しばらくの間王都の役員を走らせ、通行者数を水増ししたこととか、広告宣伝費が事前の予想の10倍かかったこととか。まぁ、色々悲惨な事情を明かしてみた。
話が終わった後、ツバキは言った。
「……ライラ様は、随分と知恵が回るのですね。すごいです」
「いえいえ、そんなこと言わずに」
「あの……そこでお願いしたいことがあるのですが……」
「なんでしょうか?」
ツバキは顔を真っ赤にしながら、こう言った。
「あの、もう少しだけ長くお話したいので……ついていってもいいですか?」
もしかして、この人は私のことが好き……? まぁ、どっちでもいいや。今の私はフリーの身。この人はなんだか勘が良いし、ちょっと付き合ってあげてもいいだろう。
「えぇ、いいですよ」
◆◆◆◆
そんなこんなで、数か月が過ぎた。第1王子がどうなったのかは正直知らない。今の私はツバキと時々喋ったりする、程よい距離感のままで過ごしているからだ。
高い丘の上、王都の茶屋の中。ツバキは不思議そうな顔をして、私に尋ねてくる。
「ところでライラ様。例の馬車道の話ですが……」
「なんでしょうか」
「あの馬車道、前までは普通に良い道でしたよね?」
「まぁそうですが」
「でも、ライラ様の話によれば、建設の段階でトラブルが多かったように見えます。じゃあなぜ、前まではうまく行ってたのか」
おっと、難しい質問だ。それを端的に説明するのは至難だし……まぁ、簡単に答えておこう。
「あの馬車道について1番分かっているのは私です。私が、陰でちょっと頑張っていたのですよ」
「……どんなふうに頑張っていたのですか?」
「それはまぁ、ツバキ様がもう少しビジネスに詳しくなったらお話します。複雑な内容なので」
「そんなぁ」
私は丘の上から、荒れ果てた馬車道を見た。第1王子シュバルトとその妻ショットは、馬車道事業の急速な低迷を理由に相当な罰を受けたらしい。
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