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『君の笑顔が好きだった!』  作者: 優貴(Yukky)


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第40話 『恋人になった翌日、世界の見え方が変わる』

翌朝。

昨夜からほとんど眠れなかった。

ベッドに入っても、目を閉じるたびに思い出す。

屋上の風。夕日に染まる横顔。震えた声。

「……これからよろしくね」

そう言って、阪上玲緒菜 がそっと触れてきた指先の温度が、まだ残っている気がした。

桐谷兼次郎 は朝のホームルームよりかなり早く教室に着いていた。

いつもなら誰もいない時間。

窓は半分開いていて、昨夜の雨の湿気が少し残っている。グラウンドからサッカー部の掛け声が聞こえ、朝日が机に斜めに差し込んでいた。

教室に一人。

でも落ち着かない。

理由は一つしかない。

今日から、昨日までと違う。

玲緒菜は「好きな人」じゃなくて、「付き合っている相手」になった。

その事実が現実味を持つほど、妙に緊張していた。

後ろから扉が開く音。

振り返る。

一瞬、胸が跳ねた。

でも入ってきたのは 天野太将 だった。

天野「……早」

桐谷「普通」

天野「普通のやつは一番乗りで窓見ながら五分固まらねえ」

桐谷は無視する。

天野は席に鞄を置いてから、にやにやしながら寄ってくる。

天野「で?」

桐谷「何が」

天野「昨日屋上呼ばれてただろ」

桐谷「見てたのか」

天野「見えるわ」

その後ろから寺田。

寺田一将

「二名同時屋上移動確認」

桐谷「お前ら暇か」

天野が顔を近づける。

天野「付き合った?」

直球すぎる。

桐谷は一瞬だけ止まる。

隠す意味もない。

でも口にするのは妙に恥ずかしい。

桐谷「……まあ」

二秒沈黙。

天野「マジかよ!!」

声がでかい。

教室に響く。

桐谷「うるせえ!」

寺田が淡々と頷く。

寺田

「想定範囲内」

天野「え、昨日!? 昨日言った!? お前から!?」

桐谷「……」

天野「顔赤い!」

その瞬間、また扉が開く。

玲緒菜。

会話が止まる。

天野は一瞬で察して後ろを向く。

寺田は何も言わず席に戻る。

でも肩が少し揺れている。笑っている。

玲緒菜はいつも通り入ってくる。

でも、教室に入った瞬間に桐谷を見つけて目が止まる。

そして一瞬だけ頬が赤くなる。

昨日までとは違う。

その視線に意味があると知っているから、桐谷も逸らせない。

玲緒菜は席へ向かう途中、一度だけ小さく会釈した。

ほんの少し。

誰にも気づかれないくらい。

でも桐谷にはわかった。

その仕草だけで胸がうるさい。

一時間目。

現代文。

先生の声が聞こえる。

でも意味は頭に入らない。

前の席で玲緒菜がノートを取る。

ペンを持つ指。首筋。髪が揺れるたび、意識が持っていかれる。

(昨日までどうやって普通に見てたんだ)

急に全部近く感じる。

視線が合うだけで、意味を持ってしまう。

休み時間。

玲緒菜が席を立つ。

女子グループと話しながら廊下へ向かう。

その時、一瞬だけ振り返った。

桐谷を見る。

そして少しだけ笑う。

昨日までの「友達への笑顔」と違う。

完全にわかってしまう。

天野が即座に机を叩く。

天野太将

「おい今の何だよ」

桐谷「知らねえ」

天野「完全にお前に向けた顔だったろ」

寺田も冷静に分析。

寺田一将

「限定笑顔」

桐谷「分析すんな」

昼休み。

いつもなら天野たちと食べる。

でも今日は違った。

玲緒菜が振り返って、小さく言った。

玲緒菜「屋上、来れる?」

たったそれだけ。

でも断れるわけがない。

天野がすぐ反応する。

天野「え、俺らは?」

桐谷「知らん」

天野「ひど」

屋上。

昼の日差しは柔らかい。

少し風が強い。

フェンス越しに空が広い。

誰もいない。

玲緒菜は先に座っていた。

お弁当箱を膝に乗せている。

こっちを見る。

少し照れて笑う。

玲緒菜「来た」

桐谷「呼んだろ」

昨日と同じ会話。

でも意味が違う。

桐谷が座る。

距離は近い。

昨日より近い。

肩が触れそうなくらい。

しばらく無言。

二人とも弁当を開く。

でも食べる手が遅い。

玲緒菜がぽつり。

玲緒菜「なんか変」

桐谷「何が」

玲緒菜は頬を少し赤くしながら言う。

玲緒菜「……昨日まで普通だったのに」

桐谷「まあ」

玲緒菜「目合うだけで恥ずかしい」

その言葉に詰まる。

玲緒菜「桐谷くんは?」

即答できない。

でも嘘もつけない。

桐谷「……同じ」

玲緒菜が少し笑う。

安心したみたいに。

玲緒菜「よかった」

少し風が吹く。

髪が揺れる。

玲緒菜が耳にかける。

その仕草だけで目を逸らしたくなる。

玲緒菜は箸を持ったまま少し黙る。

それから小さな声で。

玲緒菜「朝さ」

桐谷「ん」

玲緒菜「教室入った時、いたじゃん」

桐谷「いたな」

玲緒菜は少し俯く。

玲緒菜「なんか……嬉しかった」

また胸が跳ねる。

玲緒菜「一番に見つけちゃった」

その声が柔らかすぎて、言葉が出ない。

桐谷「……俺も」

玲緒菜が見る。

桐谷「お前来るまで落ち着かなかった」

一瞬、玲緒菜が固まる。

そして耳まで赤くなる。

玲緒菜「……急にそういうこと言う」

桐谷「本当だし」

数秒。

風だけが吹く。

玲緒菜が視線を逸らしたまま笑う。

玲緒菜「……無理」

桐谷「何が」

玲緒菜「好きって言われたあと、それ言われるの」

桐谷は一瞬止まる。

そのまま玲緒菜を見る。

玲緒菜は顔を上げる。

目が合う。

逃げない。

桐谷「じゃあ言うなよ」

玲緒菜「言う」

即答。

桐谷「なんで」

玲緒菜は少しだけ意地悪そうに笑う。

玲緒菜「反応見たいから」

初めて見る表情だった。

からかっている。

でも頬は真っ赤。

本人も余裕ないくせに。

桐谷は少し笑う。

桐谷「お前も大概だな」

玲緒菜「桐谷くんにだけ」

その一言で、また全部持っていかれる。

昼休み終了のチャイム。

二人とも立ち上がる。

でも、すぐ歩き出せない。

玲緒菜が少しだけ近づく。

制服の袖が触れる。

玲緒菜「……ねえ」

桐谷「ん」

玲緒菜は周囲を確認する。

誰もいない。

それでも声は小さい。

玲緒菜「手」

桐谷「……え」

玲緒菜は頬を赤くしながら、視線を逸らす。

玲緒菜「昨日、指だけだったから」

意味を理解した瞬間、心臓が一気に速くなる。

玲緒菜「ちょっとだけ」

桐谷は言葉もなく頷く。

そっと手を出す。

少し震えていた。

自分でもわかるくらい。

玲緒菜もゆっくり手を出す。

白い指先が近づく。

一瞬止まる。

でも逃げない。

重なる。

手のひら。

指が触れる。

温かい。

その瞬間、二人とも息を止めた。

玲緒菜「……っ」

桐谷も何も言えない。

柔らかい。

小さい。

でもちゃんと握り返してくる。

玲緒菜は顔を真っ赤にしながら、小さく笑う。

玲緒菜「……すごいね」

桐谷「何が」

玲緒菜「手つなぐだけなのに」

少し間。

玲緒菜「こんな緊張するんだ」

桐谷「……だな」

しばらくそのまま。

昼の風だけが二人の間を抜ける。

でも手は離さない。

やがてチャイムが二回鳴る。

本当に戻らないといけない。

玲緒菜が少しだけ名残惜しそうに手を離す。

指先が離れる最後までゆっくり。

玲緒菜「……授業行こ」

桐谷「うん」

階段を降りる。

並んで歩く。

少し距離を空ける。

学校ではまだ誰にも言っていない。

だから普通に見えるように。

でも。

階段の途中。

玲緒菜の小指が、そっと触れた。

一瞬だけ。

わざと。

桐谷が見る。

玲緒菜は前を向いたまま、笑いをこらえていた。

桐谷「……おい」

玲緒菜「なに?」

しらばっくれる。

でも耳が赤い。

桐谷は何も言えず、少し笑った。

恋人になった。

それだけで世界は変わらないと思っていた。

学校も、授業も、空も同じ。

でも違った。

目が合うだけで意味がある。

並ぶだけで心臓が速い。

手が触れるだけで一日が変わる。

昨日までの普通は、もう戻ってこない。

でも不思議と、それが嬉しかった。

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