「タツヤはいいヤツだ」と、ねこは溜息をつく。
「うえーん!」
タツヤが泣いてる。ジイジにバレないように人差し指のケガを絆創膏で隠して泣いている。
わたくし、ねこは知ってる。タツヤはいいヤツということを。
(にゃ〜)
わたくしを拾ってくれた。冷たい牛乳を魚型の醤油差しに入れて飲ませてくれた。ちょっと塩っぱかった。
でも、タツヤは分からないなりに必死にわたくしを助けてくれた。
だから、この傷も、きっといじめっ子から友達を守ったとか、そういう理由が有るのだろう……不器用だから。タツヤは。
仕方ないなぁ。
「にゃあ」
もふん、していいよ。
タツヤにだけ、特別ね。
そしたらタツヤ、こう言った。
「へへ、秘密だよ、きなこ……ジイジのコンビーフ盗み食いしてたら指切っちゃった」
わたくしきなこ、びっくり!
タツヤ、いいやつじゃなかった。コンビーフはジイジが野球観戦のときに食べるおやつ。それを横取りするなんて!
タツヤは、泥棒の一歩手前になろうとしている。
「にゃー!」
更正するんだタツヤ!
わたくしは、タツヤに頭突きをした。そしたらタツヤはヘラヘラ笑いながら、わたくしの前にコンビーフをひとすくい持ってきて、
「きなこにもあげる。黙っててくれるよな」
なんてことを言うものだから、わたくしはキレてコンビーフを叩いた。
「あー! 勿体ない! 高いんだぞーコンビーフ〜」
ふん、そんなの知らない。泥棒から貰うコンビーフは無いというものだ。わたくしきなこを侮るな、タツヤ。
「にゃぁおおぉ〜!!」
「わぁ、ジイジ来るじゃん! きなこ黙れー!」
顔をガシガシ触られる。わたくしには『止まる』スイッチは無い。機械じゃないのだから。
ジイジが来るまで「グルルル」と笑うわたくし。
(叱られろ。そして更正するんだタツヤ!)
ジイジは、そんなわたくしたちを見て、
「仲ええのう、タツヤ。きなこ」
そう言って笑った。食べかけのコンビーフをスルーして炭酸飲料を飲むジイジ。
「にゃ〜」
ジイジ、タツヤを叱れー!
あと、炭酸飲むと骨が溶けちゃうぞー!
◇
その後、ジイジはまたコンビーフを買いに行った。しかもタツヤ用の分まで買ってきた。甘やかしすぎなんじゃないか。
「ジイジ、だいすきだー!」
タツヤがそう言えばジイジは嬉しそうにお小遣いも渡す。
(なんか、なんだかなぁ……)
ほんと、タツヤは都合のいいヤツだから、困ったものだ。
「にゃ〜」
ま。わたくしのおやつも美味しいので、よしとしよう。
おしまい




