竜王、運動する
今日は、公園にやってきておる。
街の住人も慣れたのか、もう余の姿を見かけてもそこまで大騒ぎすることもなくなった。
こちらとしてはありがたいことじゃ。
特にクソガキどもときたら、余の体をぺたぺたと無遠慮に触りまくってくれるからのう!
まったく、ガキが可愛くないのは人間もモンスターも同じじゃ。
余を運動不足にしたくないのか、ポルテは広場に余を放して距離を取り、手を叩いて待つという行為を繰り返しておる。
余としてもポルテの家の箱の中でじっとしておるのは性に合わぬからの。この前のように街の外の情報も知れるかもしれんし、屋外に出るのは願ったり叶ったりではある。それにこういったトレーニングも、成長に必要かもしれぬしな。……本当にペットのようで、屈辱じゃが。
そんなことを考えながらも、ポルテに向かってえっちらほっちら歩を進める。この体にもずいぶんと慣れてきた。
褒めてくれるポルテを見上げながら、その向こうにある空を見る。今日の空模様も晴れで、外出日和じゃ。
一番望んでおるのは、街の外に出向くことなんじゃがの……。
余がポルテに見つかったのは、街の外にある森の近くであったはず。せめてそのあたりに行ってみたいものじゃが……。
ただ、さすがにポルテも余をふたたび街の外まで連れて行くことはないじゃろう。
目を盗んで余だけで外に出ることは出来るかもしれぬが、この前の男が話していたように、下級モンスターが見境なく暴れているとあってはのう……。
ああ、もどかしい。
運動を繰り返した余は疲れたとばかり、近くの木陰で寝そべることにした。
ポルテも余の気持ちをおもんばかったのか、何も言わずにそばに座る。
余を撫でる手は丁寧で心地よい。
色々とあったが、幼生体となって最初にこの男と出会ったのは幸運と言ってよいかもしれぬ。
多少歯車が食い違っておれば、勇者たちから逃げ延びたところをモンスターどもに襲われて、あっけなく躯となっていたことも大いにありえるからの。
そのことだけは感謝してやってもよいぞ、ポルテよ。
……と、何やら遠くで小さな子らが手を振っておる。
どうやら、ポルテを遊びに誘っておるようじゃ。
ポルテは余をうかがうが、余は知らんぷりで応えることにする。さすがにガキどもの遊びに付き合うのは疲れるからの……。
ポルテは余の背をぽんぽんと叩くと、立ち上がって子供たちの方へと向かった。
やれやれ、呆れるくらい面倒見の良い奴じゃ。
だからこそ、余のことも甲斐甲斐しく世話してくれるのかもしれんの……。
余は弛緩した全身を地べたに預けた。
くく、我ながら、ずいぶんとだらけきった格好じゃ。
「あらあら……竜王ともあろうものが、みっともない姿ですわね」
……!?
突如聞こえた、モンスターが意思疎通に使う日常言語。
余は、臨戦態勢をとるかのように四肢に意思をみなぎらせ、すばやく頭を起こした。
年若い女の声音に挑発するかのような物言い……腹立たしくなるくらいに覚えがある!
「その声……まさか……ヴァミュウか!?」
余の口からも同様の言語が飛び出す。幼生体に戻ってからというもの久しく使ってなかったが、この姿でも言語を発することに支障はないようである。
「いかにもその通り。四天王が一人、ヴァミュウ……だったものですわ」
がさり、というかすかな音を立てて茂みの中から現れたのは。
一匹の小さな白い猫であった。




