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竜王、街に出る

 の目には今、ゆっくりと流れてゆく街の景色が映っておる。


「どうだい? 小さいけど良い街だろう?」


 余を抱きかかえたポルテの声が上から降って来た。

 ポルテと余が住んでいる家は、中央から離れた一画にあるようじゃ。さらに付け加えると、ポルテの家は周囲の家屋から少し離れた場所にぽつんと建っておる。

 ポルテはずんずんと建物が多く並ぶ方へと歩いていく。

 街の中心にやってきたポルテと余のそばに、住民どもが集まって来おった。


「あら、その子が噂のトカゲちゃんなのね」

「すごーい、大きなトカゲ!」

「相変わらず奇妙なものに手を出すねえ、キミは……」


 すでに余のことは話題になっていたのか、興味津々に余の姿を眺めておる。

 不遜にも余を撫でようとする者もあったが、さすがに暴れるわけにもいかぬ。大人しく身を任せておいた。今だけじゃぞ、人間どもめ。

 どうやらポルテは少々変わり者という扱われ方のようじゃ。まあなんとなくそんな気はしておったがの……。

 とはいえ、住民との付き合いはちゃんとあるようじゃし、さっきの反応からして余の存在も受け入れてもらえそうじゃの。


 再び歩き出したポルテ。心地良い揺れを感じながらも、余は人間だけでなく街並みにも注意を配る。


 人口はせいぜい数百人といったところかのう。

 村よりはもちろん大きいが、都市というほどでもない。

 余の記憶にはない街じゃ。

 街の周囲を覆う壁も、下級モンスターが防げれば上等といった程度のものに見える。

 住民を含めて、街全体がのどかな雰囲気じゃ。


 余の支配権からかなり離れた場所にあるのかのう?

 余が勇者一味に敗れたあの時、たしかにずいぶんと走った気はするが、そんなに遠くまで行けるものであろうか?

 それとも余が気づかなかっただけで、魔法の力によってどこかに転移させられていたのかのう?

 先日の女魔法使いは飛行の魔法なんかも心得ていそうじゃったし、あの女が現れたからといって余の根城の近くであるという証左にはならぬ。

 ぐぬぬ……ここはどこなのじゃ……せめてこいつらに尋ねることが出来たらのう。


 そんなことを考えていると、一人の精悍な男がポルテのそばへとやって来た。


「よう、ポルテ。久しぶりだな。……そいつか、お前が拾ったってやつは」

「うん、そうだよ。可愛いだろ?」


 余をぐいと突き出すポルテに対して、友人らしき男は皮肉げな笑みを返す。


「……まあ美的感覚は人それぞれだ」


 なんだか、腹の立つ言い方じゃのう!


 ぷりぷりする余を知ってか知らずか、男は急に真面目な顔になった。


「そういえば、コレットとは会ったんだよな? この前帰ってきてたのを見かけたが」

「うん。僕の家に寄ってくれたよ」

「その時、何か言ってなかったか?」


 ポルテは男の探るような発言に首を傾げた。


「何かって?」

「竜王との戦いについてさ」


 ……!


 唐突に自分のことを言及され、余は身じろぐのをやめてこの男の発言を聞き漏らすまいと意識を集中する。


「何も聞いてないよ。ほら、コレットは僕の前ではそういう話はあまりしないからさ」

「そうか、相変わらずお前に心配をかけたくないんだな……少し気になることがあったんでな。コレットの口から何か聞いてたらと思ったんだが」

「気になることって何?」

「この前街を出て遠出した時に気づいたんだがな……最近のモンスターの動きがさ……ちょっと変なんだよ」


 なんじゃと……?


「どんな風に?」

「なんというか……統率が取れてない感じなんだ。大小さまざまな集団がてんでバラバラに暴れてるケースが目立つ」


 く……! 余が不在になった影響か……!


「うーん? たしかにそんなことは今までにあまり聞いたことがないね。何かあったのかな?」

「そのせいで小さな被害が多くなってる……知性の低いモンスターがむやみやたらに襲い掛かってきたりしてな……お前も街を出る時は気をつけろよ?」

「分かったよ。ありがとう、教えてくれて」

「これくらいお安い御用さ……おっと、いかん。そろそろ行かなきゃな。じゃあな、ポルテ!」

「うん、またね!」


 男と別れた後、先ほどのやりとりについて考えているのか、ややうつむきがちに歩を進め始めたポルテ。

 とはいえ、思考の海に沈んでいるのは余も同じじゃ。


 勇者たちがこの前の戦いについてどう喧伝けんでんしているのか分からぬが、余が討たれたという情報は広まっておらぬらしい。

 勇者視点で考えると……竜王と一戦し、苦戦の末に致命的な打撃を与えたはずだが、肝心の竜王は生死不明で行方知らず……といったところかの。まあたしかにそれでは使命を果たせたとは言えぬな。

 モンスターの統率がとれていないというのも気になる。余がおらずとも、連中を束ねる四天王さえ健在ならそこまでの混乱は起きぬはず。やはり、奴らも討たれたのか……?


 気が付いた時には、歩みを止めたポルテが余の顔を覗き込んでいた。


「ちょっと買い物していくから、ここで待っていてくれるかい?」


 そう言うと、余は地べたに置かれた。余の反応をじっと見守るポルテ。

 さすがにうなずくわけにもいかぬから、興味なさげにひとあくびしてその場に伏せることにする。

 ポルテは了承を得たと思ったのか、お店の中に入っていった。


 ……なお、ポルテが出てくるまで、余は通行人によってこれ以上ないくらいにちょっかいをかけられるのであった……。


 ぐぞお……どいつもこいつもトカゲ扱いしおって……覚えておれよ人間ども……こんなちっぽけな街、本来の余なら小指一振りで消せるのじゃからな!!

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