竜王、再認識する
何やら、長い夢を見ていたようである。
目を覚ました余は、しばらく夢と現の狭間でぼうっとしていた。
ここは、あの男が箱で作った余の寝床か……。
なんとなしに顔を動かすと、視界に入った前足が余に現実を突き付けてくる。
ああ、夢の中の余は人型をとって豪華な城に住み、大勢の下僕どもにかしずかれていたというのに……。
現実世界の余はトカゲと間違われるような小さい竜の姿で、このような粗末な箱の中に身を潜めておる……。
これが悲哀というやつか……知りたくはなかったのう……。
昨日はあまりに色々なことがありすぎた、今でも信じられぬ。
勇者どもに討たれたかと思えば、生き延びた代わりに幼生体の姿になり、やがて人間に保護される始末。
その人間には虫を食べさせられたりお漏らしをあああああああああああああああああああああ!!
……あやうく、また嫌な記憶を反芻させるところじゃった。
じっとしておると悪いことばかり考えてしまいそうじゃし、とりあえず動くかの。
落ち込んでいても始まらぬ。
余は竜王じゃ。
この程度のことでくじけておれぬわ。
必ず、再びあの栄光を取り戻す!
もちろん勇者どもにも意趣返しじゃ!
もそもそと四肢を動かし、余は寝床の箱の中から身を乗り出すと、家の床へと足をついた。
窓から朝の光が差し込んでおる。
余は窓辺に行き、その光を一身に浴びた。暖かい季節なのは幸いじゃな。
「やあ、おはよう」
かけられた挨拶の声に振り向くと、余の飼い主を気取る憎い男の姿があった。
起きてきおったか人間め。
昨日の屈辱の数々、決して忘れぬぞ。
余が元の姿に戻った時が、貴様の最期じゃ。覚悟しておけよ。
泣こうが叫ぼうが容赦せぬ。この手で嫌というほど切り刻んでくれる!
男を睨みつけ、心の中でそう誓うことで気力がふつふつと湧いて来るのが分かる。
そうじゃ! いつか必ずその日が来ることを希望にして、今日も明日も頑張って乗り越えるのじゃ!
「朝ごはん、すぐにとってくるから、ちょっと待っててね」
……。
朝ごはん、という言葉が何を意味するのか。
もちろん余には痛いほど分かっている。
後生じゃから……。
もう虫はやめてくれぬかのう……。
ステーキやポテトを食わせろとは言わぬ……!
おぬしが普段食べるようなものでいいんじゃあ……!!
余は、先ほど己を奮起させるために燃やした男への怒りすら忘れて、家主にすり寄りズボンの裾にすがりつく。
そんな余の姿を見て男はしゃがみこむと背中を優しく撫で、嬉しそうに微笑んだ。
おお、もしや余の気持ちが分かって!?
「大丈夫。すぐに戻って来るから。美味しい虫をたくさん食べさせてあげるからね!」
ああ、まったく伝わっておらぬ!
にこやかに惨たらしい宣告を済ませると、男は意気揚々と玄関のドアを開け、外へと出て行ってしまった。
ああああああああああああああああああ!!
余は心の中で叫びながら、狂おしい気持ちを慰撫せんがため、その場をぐるぐると何度も回るのであった……。
……もちろん、虫が山盛りになった朝食から逃れられなかったのは言うまでもない。




