竜王、食事をする
しばらくして、人間の男が帰ってきた。
「お待たせ。ご飯、とってきたよ。すぐに準備するからね」
余にそう声をかけながら、男は台所へと向かう。
男の手には袋が握られていた。あの中に余の膳となる食材が入っているのであろう。
ふむ……余の好みを理解してくれていると良いのじゃが……人型の姿をしていた頃は、人間と同じような食事をとっていたのじゃ。豪勢な食卓に香ばしい肉やら野菜やらがたくさん並んでのう……。
先日までそこにあった、栄光の日々をつい思い出してしまう。
はやく、力を取り戻さねば。その方法は分からぬが、きっと食事をして栄養をつけることも大事なのじゃろう。
男は台所から間もなく姿を現した。右手には先ほどの袋が、左手には木製の皿が握られておる。
……準備すると言っておったのに、ずいぶんと早いのう。ひょっとして調理済みの食材でも買ってきてくれたのであろうか? それなら好都合である。空腹のままずいぶんと待たされたからのう。
やがて余の前に木製の皿が置かれた。無礼なことに、床に直置きである。己の姿が呪わしいわい……。
余は悲しい気持ちになりながら空っぽの皿を見つめた。
うう、何を出してくれるかは知らんが、犬のようにがっつかねばならんのか……せめて食べさせてくれぬかのう……。
しかし、余がそんなお気楽なことを考えられたのはここまでじゃった。
「さあ、お食べ」
男が皿の上でひっくり返した袋の中から、大量のコオロギやら甲虫の幼虫やらが出てきたからじゃ!
う、うああああああああああああああああああああああああ!?
た、たしかに知性がなかった幼年期はこういったものを喜んで食っておったかもしれんが、今の余にこれはつらい……つらすぎる……!!
ステーキとか……ポテトとか……そういうのを所望したい……!
ぐ……しかし、本能はどうやらこれを求めておるようじゃ……口からよだれが出てきおる……それに食べなかったら怪しまれるかもしれぬし……心を、心を殺して食うのじゃあ……!
余は用意されたそれに向かって一歩を踏み出し、見下ろす。
粗末な皿に山と積まれた、ある意味でカラフルな装い。大半は未だに蠢いている。
う……ぐ……。
……ゆけっ! ゆくのじゃ! 余は竜王である!!
余は意を決して顔を突っ込み。
……殺せっ!! 己の心を! 殺すのじゃああああああああああああ!!
……。
…………。
余は、無心になって食べた……。いや、無心であろうと努力した、が正しいか……。
ともかく、おぞましい感触が口内や喉を通り過ぎていくのを、必死に意識しないように努めて食事を続けた。
この体のおかげか、食べられる味に感じたのがせめてもの救いか……。
「良かった……美味しそうに食べてくれてる。思った通り虫が好物なんだね。これからも頑張って捕まえてくるからね!」
絶望が加速しそうな声が上から降って来る。うぐぐ……完全に勘違いされておるではないか!
……やはり、ステーキやポテトが提供されるまで絶食を貫くべきだったのかもしれぬ……。
後悔してももう遅い。
余はこれからの食生活に暗澹たる気分になりつつも、空腹を癒すためにひたすら口を動かしたのであった……。




