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竜王、戦う

 混乱する人ごみでごった返す道の脇を進み、家屋が連なっている場所ではその屋根の上を走り。

 はどんどん騒ぎの中心地へと近づいていく。

 あたりから聞こえてくる人間どもの会話で判断するに、やはりモンスターの襲撃のようじゃ。壁が破壊され侵入を許してしまったらしく、すでに街の外周部は建物などがいくつも崩壊してしまっているとのこと。


 避難勧告が早かったのであろう、幸い人的被害は出ておらぬようじゃ……。


 ……うむ? ……今、余は何かおかしなことを考えていたような気がするが……まあよい。


 やがて、うごめくモンスターの群れが見えてきた。ずいぶんと数が多い。

 そこらにある建物を好き放題壊しては、中にある装飾品を手に入れて仲間に見せびらかしたりと、思いのままに行動している。そのせいか、連中が通って来たところは全て瓦礫の山となり、火と煙がそこらであがっておる。

 ほとんどは小鬼の姿をした雑兵のようじゃが、何体かそれなりの力を持つモンスターが混ざっておるのう。

 リーダーは……体躯の大きいあやつか。頭には二本の角が生え、肌は赤銅色。体には革と金属で構成された鎧をまとい、手に持つ重厚な刀を肩に担いでおる。戦闘を得意とする鬼の一族じゃな。どこかで見た覚えがあるのう。それなりに名のあるやつか。


「待てい!!」


 余は大声を張り上げながら瓦礫となった建物の上に陣取ると、モンスターの集団とリーダーらしき鬼とを睨みつけた。

 かつての人型をとっていた余の姿しか知らぬのであろう。その鬼は立ち止まりはしたものの、うさんくさげにこちらをじろじろと見るばかりじゃ。もちろん配下たちも同様である。


「あ? 何だお前は? 見たことのない奴だが……俺の部下になりたいのか?」

「何だとはずいぶんと無礼であるな? 余のことが分からぬか?」


 知らぬこととは言え、不遜な態度をとった鬼を正面から見据えて啖呵を切った。

 それと同時に、ただの竜などには到底出すことのできない威圧感が余から放たれる。

 気圧されたのかしばらく戸惑っていた鬼であったが、やがて。


「……!? ま、まさか、おま……いや、あ、あなた様は……りゅ、竜王様!?」


 余の正体に気づいた鬼が慌てて数歩下がって距離をとり、素早くひざまずいた。

 配下のモンスターたちも、よく理解しないままそれに倣う。


 くく、久しぶりじゃが、平伏されるというのは気分が良いのう……。


 余は笑みを浮かべつつ、目の前のモンスターどもを端から端まで睥睨した。

 一通りねめつけて満足すると、再びリーダーである鬼へと視線を戻す。

 鬼は緊張した面持ちで顔を上げ、口を開いた。


「ご、御無事だったのですね! ずいぶんと小さいお姿になってしまわれて……」


 うるさいのう。


 心の中で毒づく。


「そ、それで、竜王様がいったい何の御用でしょうか?」


 恐る恐る尋ねるリーダーの鬼に、余は不快さを隠そうともせず口を開いた。


「わざわざ言わねば分からんのか? この破壊行為を今すぐやめるのじゃ!」

「……は? ……それは一体、なぜでしょうか?」


 ……あ。


 理解できない、という顔を見て気づく。

 し、しまった。

 モンスターとして明らかに異質な行動をとっているのは余なのである。

 人間の街は破壊し尽くすもの。人間は老若男女殺し尽くすもの。

 ごく一部の例外を除いて、それこそがモンスターの行動原理と言っても過言ではない。

 褒められることはあっても、責められるなど思ってもみなかったのじゃろう。不審の表情がありありと浮かんでおる。


 な、なぜ余はあんなことを言ってしまったのじゃ? ……モンスターの頂点に立つ竜王じゃというのに!


 口ごもる余の姿を見て、鬼の配下であるモンスターたちもざわめきだす。


 あ、そ、そうか、余はきっとこうしたかったのじゃ。


 気を取り直し、余は居住まいを正してモンスターの群れを前にもう一度口上を述べる。


「ここは……余の別荘とする予定なのじゃ。人間どもも労働力として必要である。であるが故に、貴様らのような下賤の者が足を踏み入れてよい場所ではない。早々に立ち去るがよい!」


 うむ、そうじゃ。言葉にするとしっくりくる。そのためにこの街と人間どもを守る必要があったのじゃ!


 驚愕を顔に貼り付けて余をじっと見つめていた鬼は、何かを得心したように小さく笑みを浮かべた。


「ほう……別荘……人間も生かしておくと……なるほどなるほど。よく分かりました!」


 鬼は笑みを浮かべたまますっと立ち上がると、刀を手に配下へと大声を張り上げた。


「お前たち、よく聞け!」


 やれやれ……あとはリーダーが配下に言うことを聞かせれば、この場はひとまず解決か。


 内心ほっと一息を吐く。


 しかしそんな余に向けて、あろうことか鬼は刀の切っ先を突きつけた。


「こやつは……竜王さまの名をかたる不届きものである!」


 な、何じゃと!?


「斬れい! 斬り捨てい!!」


 その言葉をまずはリーダーの自分が示そうというのか、鬼が刀を上段にかかげて振り下ろすと、光り輝く刃が余に向かって放たれた!

 余は慌てて横っ飛びで回避する。光の刃はさっきまで足場にしていたところに命中し、崩壊した建物をさらなる瓦礫に変えた。

 かつての余ならばともかく、今の体であれを食らっていたら深手となっていたであろう。明らかな殺意がこもっていた。


 おのれ! 峰打ちで済ませてやろうかと思っておったが、もはや容赦せぬ!


 リーダーの鼓舞により、配下の小鬼どももそれぞれ立ち上がり、得物を手にこちらへと駆けてくる。


 こんな連中に手向てむかわれるとは、嘆かわしいのう。竜王の威厳も地に落ちたものじゃ!


 余は小さな体で跳ね、押し寄せる雑兵どもの中に突っ込んだ。

 左右の爪で瞬く間に数体を切り伏せる。

 小鬼たちが振り回す剣や大槌は、余にかすりもしなかった。


 横あいから襲い掛かろうとしていた連中には口から炎を吐き、たちまち精鋭らしき者を焼き尽くす。他の小鬼どもは燃え落ちる仲間を見てたじろいだ。


 ふはは、どうじゃ。余のドラゴンブレスは。


 続けざまに業火を見舞うと、モンスターの群れは熱を恐れて近づけもしない。


 が、そんな折。

 離れたところにいる別の一団が、余に向けてそれぞれ手を突き出した。

 かざした手にいくつもの光が生まれているのが見える。


 く……魔法の使い手があんなに多く……さすがにすべては捌ききれぬ……!


 その時、赤と青の光がいくつも走り、魔法を放とうとしていた集団を燃やし、あるいは氷漬けにした。


「援護しますわ」


 ヴァミュウか!


 いつの間に駆け付けたのか、白い猫が余の隣で力を振るう。


「騒ぎを起こされたせいでポルテさまに会うことができませんでした……わたくしの怒り、その身で受けなさい! 下級モンスターども!!」


 赤い光と青い光が乱舞し、数多の敵を討つ。

 余はその間を駆け、雑兵どもを切り裂き、氷柱となった哀れな小鬼にもとどめをさした。

 街の一画を侵していたモンスターの群れは、瞬く間に数を減らしていく。


 しかし、まだリーダーの鬼は健在である。あれを倒さねば終わるまい。

 余は、取り巻きどもをドラゴンブレスで丸焦げにし、二本の角を持つリーダーの鬼と対峙する。


「く、くそっ……くそっ……なんでだよ!! あんたはもう死んだんだろ!! おとなしくくたばりやがれ!!」


 冷静さを失い、力任せに刀を振り回すその姿にわずかな憐憫れんびんを覚えてしまう。モンスターとして間違ったことをしていたわけではないのだから。

 余の手で直々に始末してやろう。それがせめてもの手向たむけじゃ。


 何度も叩きつけられる刀を華麗にステップで回避しつつ、一度後方へと大きく飛んだ。

 間合いを取った余は、再び宙へと舞い上がり、両の前足を前方にそろえて体をきりもみ回転させ、鬼の胴体を目掛けて勢いよく突っ込んだ。

 これが新たに余が生み出した必殺技。


 名付けて、竜王スクリューアタックじゃ!!


 頭上に再度振り上げられた刀が斬撃となるよりも早く、巨大なすいと化した余が鬼と交錯する……!

 鬼の鍛えられた肉体と鎧による抵抗も束の間。

 その抵抗ごと上半身をぶち抜いて、余は鬼の背後に着地した。


「ぐ……が……」


 鎧ごと大きな穴が開いた自分の体を信じられないとばかりに見下ろしたあと、鬼は数歩よろめき、やがて地面に倒れ伏した。

 リーダーの死を見て、残る小鬼たちの間に動揺が広がる。もう一息じゃ。


 が、しかし。

 余もかなり消耗しておる。ヴァミュウも同様のようじゃ。これ以上の戦いはちと厳しい。

 あとはハッタリでもかまして追い払うしかないか?


 と思っていたちょうどその時。

 まだ残る雑兵の一体を、どこからか飛んできた魔法の光がえぐった。

 連なる瓦礫と煙の向こうから、人間たちの声と多くの剣戟音が聞こえてくる。視界が悪くて気づかなかったが、いつの間にかそちらでも戦闘が発生していたようじゃ。

 警備隊か何かじゃろう。侵入したモンスターを撃退するため来てくれたに相違あるまい。

 リーダーも討たれた小鬼の群れはもう烏合の衆じゃ。あとは人間たちに任せるとするかの。

 今のうちに、ここから離れねば。余たちが戦ったと気づかれるわけにもいかぬ。


 余とヴァミュウはうなずき合うと、急ぎこの場を後にした。

 やがて、安全であろうと思われる建物のそばに二人で身を隠す。

 余もヴァミュウも汚れ、疲れきってはいるが、大きな怪我はないようじゃ。


「やれやれ……お互いにずいぶんと力を使ってしまったようじゃな……」

「ふふ、その通りですわね……しばらくはろくに動けそうもありませんわ……」

「これでは、街を出るのを延期せねばならぬのう……」

「ええ、まったく……残念ですわ……」


 空々しい言葉を吐いた余にヴァミュウがあっさり同意した。

 ちっとも残念そうに見えないヴァミュウに笑いがこみ上げる。

 またこの街でしばらくペットとして扱われる日々が続きそうだというのに、この清々しさは一体なんであろうか。


 ……おや、余とヴァミュウを探すあの男の声が聞こえる。

 余たちがいなくなったことに気づいて駆けつけてくれたのか。

 ふふ、愛されておるのう……。


「やむを得ぬ……またしばらくは、この街と、ポルテのお世話になるとするかのう……」


 余とヴァミュウはポルテの姿を求めて、その声の方へゆっくりと駆けだしたのであった。




第一部完といったところですが、当初予定していたぶんは全て書き終えました。

これにて一旦完結となります。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
最後まで読ませていただきました。 最終的には、竜王はポルテのもとで世話を受ける生活を受け入れたのですね。 戦闘シーンも迫力が伝わってきてよかったです。 素晴らしい物語をありがとうございました。
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