竜王、走る
「のう、ヴァミュウよ」
ポルテが不在の日。
一緒にお留守番をしている白い猫の姿を見上げて、余はとうとう切り出した。
「なんでしょう?」
ヴァミュウはキャットタワーの上から余を見下ろす。
赤と青のオッドアイをまっすぐに見つめながら、余は淡々と言葉を続けた。
「そろそろ、この街から出て行こうかと考えておる」
「……!」
雷に打たれたように、身体を硬直させるヴァミュウ。
何も言わずにじっと見続ける余の姿に、本気であると分かったのであろう。
ふぅ、と小さな息を吐き出した。
「……そうですわね」
ヴァミュウは床に降りてきて、余と目の高さを等しくする。
「それで、いつ出発なさるつもりですか?」
「明日の夜明けとともに、じゃな」
さすがにヴァミュウも驚きを隠せなかった。目を大きくしてしばらく余を見つめ続ける。
「ずいぶんと急ですわね……」
「もう準備はしばらく前に整っておった。それはおぬしも分かっておるじゃろう……」
今、はっきりと理解できた。余とヴァミュウは、ただ出発を引き延ばしていただけなのである。
ヴァミュウは沈思黙考し、やがて。
「今日一日、ポルテさまと共に過ごしてもかまいませんか?」
すがるように、小さい声でそうつぶやいた。
ポルテは外に出ているが、目立つヴァミュウを見た住民がきっとポルテの場所に導いてくれるじゃろう。
「ああ……もちろんかまわぬ」
ヴァミュウの声が震えていることに気づかぬふりをし、余はその申し出を許可した。
「お心遣い、感謝しますわ……」
そう言うと、ヴァミュウはくるりと反転して余のそばを辞す。
やがて玄関の猫用ドアを開け、ポルテの姿を求めて出て行った。
ヴァミュウがポルテのいるこの街に残ると言い出すかもしれぬと不安ではあったが……さすがに四天王として名を連ねていただけのことはある。
最後には、やはりモンスターの側に立つことを選んだ。
さて、問題は余である。
最後の一日くらい、何かポルテの役に立つことをやっておいても良いかもしれぬな。
とはいえ、この姿では掃除もできぬし、どうしたものか。
……などと、竜王にしてはちっぽけな悩みに悶えていたその時である。
何やら、外がずいぶんと騒がしくなっていることに気づいたのは。
「なんじゃ?」
しかし、余の疑問に答えてくれるような者はここにはいない。
余もいつものように猫用ドアを拝借して家の外へと出る。
そのまま壁を伝って家の屋根に登った余に、驚きの光景が飛び込んで来た。
なんと、街の一画から火の手が上がっておる!
遠くからはかすかに人間どもの悲鳴や、なにかが崩落する音などが風に乗って聞こえた。
ただごとではない。
これはまさか……モンスターどもの襲撃か!?
余は急ぎ屋根の上から飛び降りると、何かが起きている現場へ向かって全力で駆け出した。




