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竜王、なだめる

 久しぶりにコレットがポルテを訪ねてきている。

 今日は立ち寄っただけなのか、戸口のそばで立ち話をしているだけで入って来る様子はない。

 としてはあまり顔を合わせたくない相手であるし、それは一向にかまわぬのじゃが……。

 問題は余の隣にあった。


「ねえ、竜王?」

「な、なんじゃ?」


 地の底から響いて来るようなおどろおどろしい声に、余はびくびくしながら返した。

 赤と青の瞳が、仲良く会話する男女をじっと凝視しているのが分かる。


「あの女は……たしかわたくしたちを討った勇者の仲間でしたわよね……」

「う、うむ」

「それが……なぜポルテさまとあんなに仲睦まじく話をしているのです!?」


 ついに、叫ぶような声がヴァミュウの口から吐き出された。

 まさかこんなことになるとは……あの女魔法使いの来訪を呪いつつ、余はただ事実を話すに努めた。


「あ、あの女はコレットといってな。ポルテの幼馴染だそうじゃ……」

「お、幼馴染!? 幼馴染とは、つまりアレですか!? 子供の頃一緒に育って、二人だけの思い出をいくつも共有しているという、あの!?」


 顔をこちらに向けて目を見開き、激高するヴァミュウに余はこくりとうなずく。


「なんという……なんということ……」


 わなわな、と白猫は体を震わせる。


「わたくしの肉体を魔法でえぐったことは許せても、ポルテさまと幼馴染であるという事実は許せません!!」

「痛めつけられたことは許すのか……」

「比較したらと言う意味ですわ!」


 呆れたような余の声に、当然のように怒りの声が返って来た。

 憤懣やるかたなしとばかりに、ヴァミュウはくるりと体の向きを変え、余のそばを離れて駆けていく。

 ヴァミュウが向かった先には、猫用ドアがつけられたのとほぼ同時期に設置された爪とぎ用の柱が置いてある。


「ああ、憎い憎い憎い……! 許せない許せない許せない……!」


 その柱に向かって、激しく両の前足を乱打するヴァミュウ。


 こやつ……過去の戦いにおいて余が負傷した時すら、敵に対してそんな怒りは見せなかったくせに……。


 余は刺激しないようゆっくりとヴァミュウに近づき、どうしたものか少し迷ったあげく口を開く。


「その……なんじゃ……慰めにもならんかもしれんが……人間どもの間ではこんな話があっての……」

「はあ……はあ……なんでしょうか?」


 置かれて間もないというのに、早くもずたずたになりかかっている爪とぎからようやく顔を離し、こちらに振り返るヴァミュウ。

 余に向けられた双眸そうぼうが、つまらない話を聞かせたらあなたもこうしますが? と言外に言っているようですごく怖い。


「人間どもの間でまことしやかに伝わっておる話じゃが……幼馴染の女は、最終的に意中の男とは結ばれぬジンクスがあるそうじゃ」

「……!! く、詳しく教えてくださいな……!」


 顔だけを余に向けていたヴァミュウがたちまち全身で向き直る。

 まるで砂漠で救いのオアシスを見つけたかのように、目をぎらぎらと輝かせていた。

 余の簡単な説明を、ヴァミュウは貴重な水を一滴も漏らすまいというような真剣な面持ちで聞いておる。


 やがて説明を終えた余は、ヴァミュウの反応を窺ってみるが……。


「なるほど……最終的に、ぽっと出のヒロインに奪われると! つまりわたくしのような女に奪われて幼馴染であるあの魔法使いは地団駄を踏むと! そういうことですわね!?」


 どうやら、先ほどまでの怒りは霧消したようである。

 余はこっそりと安堵した。

 ヴァミュウの瞳には、まだ何か別種の危険な光がちらついている気もするが……。

 とりあえず解決した、ということにしておきたい。


「ふふ……そういう事実があるなら一安心ですわ!」


 ヴァミュウは脱兎のように駆け出し、ふたたび玄関が見えるところに行くと会話している男女を覗き見る。


「ああ、教えてくださったこと、感謝しますわ! 今のわたくしではあの女を始末することは難しそうですし……つい道を踏み外してポルテさまと心中することもありえましたから!」


 やばいことを言っておるのう、こやつ……。


「でも、そんな結末が待っているのでしたら、いつまでだって耐えることが出来ますわ!」


 あくまでもジンクスであって、未来は不確定なんじゃが。


 という補足はせずに、口をつぐむことにする。

 そんなことを迂闊にしゃべって、本当にポルテともどもいなくなられても困るからの。

 この場はなんとか無事にやり過ごしたものの、色々な意味でコレットにはもう来ないで欲しいと願うばかりであった。

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