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竜王、よろこぶ

 カンカンカン……と耳障りな音がどこからか聞こえてくる。

 朝方に実施したトレーニングで疲れ、寝床の箱の中でうたたねをしておったは、それによって眠りから引き戻された。


「……うるさいのう……一体なんであろう?」


 余はわずかに身じろぎすると、答えを求めるかのように箱の外へと視線を投げた。その先には白い猫の姿が見えるだけである。

 寝ておったのはヴァミュウも同様のようで、ちょうど今立ち上がったという風情じゃ。くああと可愛らしいあくびをしておる。

 先ほどの音だけでなく、何かを削ったり擦ったりするような別種の音も断続的に聞こえていた。出所でどころは玄関のようじゃ。


 やれやれ、すっかり目が覚めてしまったわい。竜王の安眠を妨害するなど、常ならば処刑されても文句は言えぬぞ?


 余はのそのそと箱から這い出て、ヴァミュウのそばに行く。

 寝ぼけまなこだったヴァミュウも、ようやく意識がはっきりしてきたようで、余に話しかけてきた。


「いったい何事でしょうか?」

「わからぬが……ポルテが何かしておるのか?」


 音の性質と大きさからして、来客のノックなどではないようじゃが……。


「気になりますわね……覗いてみましょうか」

「そうじゃな」


 興味が湧いた余とヴァミュウは、小走りに駆け寄ると首を揃えて玄関を覗き込んだ。

 玄関ドアの前でポルテがかがみこみ、何か作業をしておるようじゃ。

 手にはハンマーが握られており、あたりにも工具や木片などが散らばっている。


「ああ、これかい?」


 何事かと遠巻きに眺める余とヴァミュウに気づいたのか、ポルテは手を止めて余たちに微笑んだ。


「君たち用のドアだよ」


 ……?


 余は疑問を貼り付けてポルテを見る。

 もちろんそれに応えるというわけではないだろうが、ポルテは小さな板を手に取り、余たちに見せびらかした。


「これを玄関ドアの下部に取りつけて、君たちが通れるようにするのさ」


 そう付け加えながら、すでに穴が開けられている玄関のドアを指し示した。


 なんと!


「こ、これが……噂に聞く猫用ドアというやつですわね! さすがポルテさま! 素晴らしいお気遣いですわ!」


 ヴァミュウが余だけに聞こえるような小声で歓喜の声をあげた。

 もちろん嬉しいのは余も同様である。ヴァミュウは猫用ドアと言ったが、ドアのサイズ的に余が出入りすることも可能のようじゃ。


 先ほどヴァミュウはポルテの気遣いだと口にしたが、実態はおそらく違う。

 余たち――特に余――が外に出たがって、ことあるごとにドアをカリカリ引っ掻きまくったおかげであろう!

 そう思って改めて見てみると、玄関のドアにはいつの間にか相当数の傷跡がつけられておった。

 いつの間にやら余の爪も、ずいぶんと鋭くなっておるからのう。

 己の前足に視線を向けつつ、そう心の中でひとりごちる。

 ポルテが玄関に小さなドアをつけようと決意した気持ちも分かるというものじゃ。


 まあこれくらいは大目に見るがよい、ポルテよ。

 なにしろおぬしには散々な目にあわされたからのう!


 口元に隠しようもない笑みが浮かぶ。

 睡眠を邪魔された不機嫌さも、どこかに吹き飛んでいきおったわ!

 ポルテも余たちが喜んでいるのが分かったのか、ふたたびドアに向き直ると上機嫌で作業を再開した。




 ややあって完成した小さなドア。

 余とヴァミュウはポルテが見守る中、何度もそのドアをくぐり抜けて使い勝手を試した。

 盛り上がっている余たちを見下ろして、ポルテはにこにことしている。


「ちゃんと、ご飯時には帰って来るんだよ」


 余とヴァミュウが外に出るようになって間もない頃、ポルテはいつも迎えにやってきた。

 余たちの姿を見つけると、安堵したように駆け寄ってきたものだ。

 今では余たちがドアの外に出ても、必ず自分のところに帰って来ると信じているのであろう。

 その笑顔にはわずかな不安も感じられなかった。

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