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竜王、たそがれる

 今日はポルテが忙しいようなので、とヴァミュウの二人で街中を散歩中じゃ。


 ある時、ポルテの前で玄関ドアをカリカリと引っ掻き、外に出たいという意思表示をしたことがあるが、ドアの傷が増えてはたまらないと思ったのか、ポルテはドアを開けてくれた。

 それ以来、余単独で、もしくはヴァミュウと一緒に街を歩くことがたびたびある。


 今日も意気揚々と外に出て歩くことしばし。

 近ごろは余の上にヴァミュウが乗り、のそのそと余が闊歩する形で行進することが多くなっておる。

 そうしておるともちろん街の者どもがやってきて、話しかけたりおやつをくれたり撫でて行ったりする。

 今ではすっかり街の名物じゃ。

 余はもちろん、いつの間にか街の住人として扱われているヴァミュウに対しても、害意を抱くような者はいなかった。

 余もヴァミュウも、こやつらから与えられるおやつの影響もあってか、この街にやってきた頃からかなり成長した。特に余の体躯はずいぶんと大きくなり、今やっているようにヴァミュウを背に乗せて楽々動けるほどである。

 余に至っては、明らかにポルテなんぞより良いものを食わしてくれるものだから、こやつらが与えてくれる食べ物を天の恵みとばかりに期待しておるくらいじゃ。


 しかし、そういった触れ合いをするたびに思うのである。人が良いにもほどがある……と。

 余はこれまでに数多の人間どもを死に追いやってきた竜王で、ヴァミュウはその直属の四天王じゃというのに……。

 余たちが成長して力を取り戻すということは、もちろん人間たちにとって最悪の事態である。

 そうと知らずに敵に塩を送っておるのじゃから、実に愚かとしか言いようがない!


 ……。


 やがて人通りの多いところを抜け、余とヴァミュウが再会した公園へとやって来る。

 この時間はあまり人もおらぬようじゃ。やれやれ、やっと少しはのんびりできるかのう。


「なんだか、複雑な気分ですわね。かつては人間たちに恐れられていたわたくしが、こんな形で優しいまなざしを向けられるとは」

「……そうじゃな」


 先ほどの賑わいを思い出したのか、ヴァミュウが余に心情を語り始めた。彼女と同じく思うところがあった余は、言葉少なに答える。

 やがて木陰に辿り着いて足を止めた余の上から、ようやくヴァミュウが降りた。

 話題を転換するにはちょうど良いタイミング。

 しかし、ヴァミュウは余の隣に並んだ後も、先ほどの心情について語るのをやめなかった。


「あなたの四天王として活動していた頃も、他の仲間や配下たちから畏敬の念を抱かれることはあっても、愛されるということはありませんでしたからね」

「それは余も同じであるがな。といっても、おぬしは余を敬うことすらなかった記憶があるがの。しかもここ最近は余の上に乗っかることが多いしのう」

「あら、今はともかく、かつてもそうでしたかしらね。ごめんあそばせ」


 ヴァミュウはふふふと笑う。

 しかし、やがてその笑みも引っ込み、赤と青の瞳はどこか遠くを見つめだす。


「でもきっと、街の住人がわたくしたちの本来の姿を知れば、わたくしもあなたも、無事では済みませんわね」

「……じゃろうのう」


 以前、余に杖を突きつけてきた女魔法使いの姿を思い出す。

 人間としては、あれが当然の反応なのだ。

 モンスターは人間を襲い。人間が自衛のためにモンスターを殺す。

 もちろん、場合によっては人間が一方的にモンスターを殲滅することもある。

 連綿と続けられてきたこの世の営み。

 余がモンスターだと聞かされた後も態度が変わらぬポルテがおかしいのである。


「夢……なのかもしれませんわね」

「む?」


 ぽつりと漏れたつぶやきに余はヴァミュウへと顔を向けた。白い猫はそのまま前を見据えて続ける。


「あなたとわたくし、こうして幼生体となったことも。この街で愛されていることも」

「ふむ。死の間際には過去の出来事が次々と絵のように浮かぶというが、それと似たようなものかもしれぬの」

「なるほど。本来のわたくしたちは、今ちょうど勇者たちに討たれている最中さなか……ということですか。それは面白いお考えですわ」


 自分で口にしたというのに、ヴァミュウの言説におかしな気分になる。もしそれが本当なら、こんな悩みを抱かずに済んだかもしれんの。

 もちろんそれは幻想であると、竜王の五感がそう告げている。

 余はふたたび前を向き、ヴァミュウと同じ景色を見ながら言葉を続けた。


「じゃが、いつか夢から覚める時が来るじゃろう」

「……ええ」


 夢から覚める時……それは、余とヴァミュウが本来の力を取り戻す時。

 ヴァミュウの返事の遅さが、彼女の内にある迷いを表していた。似たような気持ちが、余の中にも芽吹きつつあるのかもしれぬ。

 しかし、それを口に出すことはしない。

 余は竜王で、ヴァミュウはその四天王なのだから。人と共に暮らすことが許されぬ、モンスターなのだから。


「今起きていることも、心に湧く感情も、全てただの気まぐれ……そう思うがよい」

「ええ……一体誰の気まぐれなのかは、わかりませんけども」

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