竜王、驚愕する
「ヴァミュウ! 見よ! 余もどうやら力を取り戻し始めているようじゃ!」
余はブラッシングを終えて戻って来たヴァミュウに対し、口から小さな炎を吐き出して見せた。
いわゆるドラゴンブレス。
竜王である余にとっては、基本中の基本ともいえる力である。
今は全力でもランプに灯した火程度の大きさしかないが、それでもドラゴンブレスを吐けたという事実は変わらない。
本来の力が戻ってきさえすれば、このポルテの家くらい一息で覆いつくせるような、広大な灼熱の炎を吐くことができる。
喜び勇む余であったが、ヴァミュウは大した興味も示さない。
心ここにあらずと言った感じでどこか遠くを見つめている。
「……反応が薄いのう。どうしたのじゃ?」
ヴァミュウに尋ねても、相変わらずこちらに視線を向けることすらしない。
まったく、せっかくやる気になって特訓を繰り返し、ついに力の一端を再び発現できるようになったというのに。ヴァミュウも我が事のように喜んでくれると思ったんじゃがな……。
まあよい。今は自分の力を取り戻す道筋が見えたことが何より大事である。
「ふふ、力を全て取り戻した暁には、あのポルテにおぞましいほどの苦痛と死を……!」
「竜王……」
「む?」
ようやく声を発したヴァミュウを見ると、その両の瞳が剣呑な光を湛えていた。
「そのような蛮行、このわたくしが許しませんわ」
「は、はあ!? い、いったい何を言っておるのじゃ?」
あまりにも予想外の言葉が出てきて、余はたじろぎ驚きの声を返すしかなかった。
ほんのつい先ほどまで、ポルテに竜王の矜持を示すと息まいていた余を応援してくれておったろうに!?
どことなく熱っぽい表情を浮かべながら、ヴァミュウは言葉を続ける。
「わたくしは、ポルテさまにすべてを捧げようと決意しました」
「は!? ポルテ、さま!?」
ヴァミュウの目は赤と青だが、この時の余の目は白と黒であったろう。
人間のポルテに敬称をつけて話すヴァミュウを、あっけにとられて見返すしかない。
「もしあなたがポルテさまを傷つけようとするのなら、四天王の名を捨てることも惜しくはありません」
こ、こやつ……小さな猫の姿だというのに、四天王だったころと変わらぬようなプレッシャーを余にぶつけてきおる……!
さきほどからの言葉が冗談ではなく、すべて本気も本気だということがありありと分かった。
まさに一触即発かというちょうどその時。
「ちょっと出かけてくるねー!」
玄関の方からポルテの声が聞こえると、たちまち凄味のある気配が霧散した。
今までの表情が嘘のように、ヴァミュウの顔にたちまち大輪の花が咲く。
「ああ、ポルテさまがお出かけされるようです……お見送りにいかなくては! ……いえ、お許しいただけるならお供しなくては!」
「……」
急ぎ足で余の前から立ち去るヴァミュウを、呆然と見送った。
「ど、どういうことなのじゃ……あのヴァミュウをあそこまで手なずけるなど……余ですら出来なかったことじゃぞ……」
わずかな時間であの変化は何なのか。
まさか、ポルテは勇者をも上回るような恐ろしい奴なのであろうか?
余はそんな疑問を抱えたまま、その日を過ごしたのであった。




