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竜王、奮起する

「あのポルテとかいう人間ですが……このままで良いのですか?」


 ヴァミュウが生活に加わって数日が経ったある日の昼時。

 不満そうな態度を隠すこともなく、ヴァミュウは台の上からを見下ろしながら疑問をぶつけてきた。


「このままで良いのかとは、どういう意味じゃ?」


 ヴァミュウはすぐには答えず、さらに一段高い台へとジャンプした。余はその姿を追いかけるため首を巡らす。


「はっきり言えば、今のあなたはあの男のペット同然ということですわ。もう少し竜王らしく行動して欲しいものです。四天王の一人として、今のあなたの姿を見るのはあまりに忍びない」

「……それはおぬしも同じじゃろう?」


 痛いところを突かれた余は苦し紛れにそう答えるのが精いっぱいである。しかしそんな余をヴァミュウは鼻で笑った。


「わたくしはあなたとは違います。あの男は、わたくしをいつも丁寧にブラッシングしてくれますわ。あの男とわたくし、どちらが主従であるか、考えるまでもないこと」

「くっ……」


 くやしいが……確かに余よりも扱いが良い気がする……! いつの間にか家の中にキャットタワーまで作られてるし!


「あの男のブラッシングを受けていると心地よい気分になります。わたくしが力を取り戻した暁には、あの男を下僕げぼくとして使ってもよいくらいですわ」

「そ、それは許さぬ。あの男は余が直々に処刑する予定なのじゃ。その時こそ、あの男は自分が軽く扱っていた相手の正体を知ることになり、後悔しながら死んでいくことになるであろう!」

「なるほど。その時に竜王の矜持きょうじを示す、ということですね? 承知しました。……いつになるかは分かりませんが」

「それは余も知りたいところじゃ……何しろ、こんな事態は初めてじゃからな……」

「ふふ……あなたがそんな不安な姿をさらけ出すのも新鮮で楽しいですが……あまり落ち込まれても困りますし、あなたに良いものをお見せしましょうか」

「良いもの? なんじゃ?」


 ヴァミュウは余の問いには答えず余の前に飛び降りて来ると、器用に二本足で立ちあがった。

 なにやら意識を集中しているのが分かる。余は何も言わずにそれを見つめた。

 やがて、左右の前足のそばにそれぞれ赤と青の光が生み出された。彼女の瞳そっくりの色を持つ光が。


「なんと! 力を取り戻したのか!?」

「ええ。もちろん、本来の力に比べるとわずかなものですが」


 驚く余にヴァミュウが満足げな顔で頷く。

 かつての彼女はそれぞれの光から赤と青の光線を撃ち出して敵を焼き焦がし、あるいは氷柱に変えていた。

 本来のヴァミュウは、四天王の名に恥じない実力の持ち主だったのである。今の姿からはまったく想像できないが。まあそれは余も同様か。


 やがて赤と青の光は消失し、ヴァミュウも二足で立つのをやめていつもの体勢に戻った。

 それと同時にふう……と大きく息を吐く。かつては容易く行使できていた力も、今の姿だと負担が大きいようじゃな。

 しかし、両の目は疲労を感じてないかのように力強く輝いておる。二色の眼差しで余を見つめながらヴァミュウは続けた。


「このような姿になったので少し不安でしたが……いずれは力も、そして本来の姿も完全に取り戻す日が来るはずですわ」

「うむ! おぬしがそうならば、余にも同じことが起こるはずじゃな! ひょっとすると、余が気づいてないだけですでに変化が起きておるかもしれぬ!」


 今の光景を見た余の瞳にも希望の光が灯っておることじゃろう。ヴァミュウはそんな余を茶化すように微笑んだ。


「ふふ、元気になられたようでなによりです……竜王の矜持を示すためにも、わたくしよりも早く力を取り戻して欲しいものですわね」

「わ、分かっておる! 今からでも色々試してみることにしよう!」

「楽しみにしておりますわ……」


 やりとりが終わったちょうどその時、猫の姿を探すポルテの声が聞こえてきた。


「あら、あの男がわたくしを呼んでおりますわ。今日もブラッシングをしてくれるようですわね。それではしばらくおいとましますわ」

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