竜王、再会する
「な……」
猫のような獣の耳と尻尾をはやした獣人。
それが四天王であるヴァミュウの姿だったはず。
しかし、余の眼前に現れた今の姿は……。
「お、おぬしも……魔法の力で幼生体になった……のか?」
「ええ、その通りですわ……追い詰められてやむを得ず、禁忌とされていた魔法を使ったのです……こんな結果が待っているとは思いもしませんでしたが」
白い毛並みの小さな猫は、一旦言葉を切ると憂鬱そうに嘆息した。
「……恥ずかしい姿ですけど……まあ今のあなたよりはマシですわね」
自嘲を終えた白猫は、赤と青のオッドアイを余に向けてくる。
「その色違いの瞳、そしてその周りをすべて見下すような態度……たしかにヴァミュウで間違いないようじゃな」
「お褒めいただき恐悦至極……ですわ」
高慢だったのは以前からじゃが、今はかつてよりも尊大な感じを受けるのう。
そう思っている時、はたと気づいた。
大きなトカゲと両の目の色が違う白い猫……あまり認めたくはないが、どう考えても余の方が格下に見えるではないか!
その事実がこやつを増長させておるのかもしれぬ。
そんな腹立ちを抑え、余はずっと気になっていたことの答えを求めて尋ねた。
「他の者たちはどうなったのじゃ?」
「……さあ……分かりませんわ。わたくしもあの場から逃げ延びるのが精いっぱいでしたから……」
「そうか……」
残念ながら、返って来た答えは捗々しいものではなかった。
まあこうしてヴァミュウが生きておるのじゃし、残りの四天王も生存していると考えてよかろう……そう思いたい。
「それで、あなたは何をやっているのです? しばらく様子をうかがっていた感じでは、あの人間に飼われているように思えたのですが?」
「飼われているつもりはない! 爪を研いでいると言ってもらいたいものじゃ!」
「たしかに今のあなたでは、外の下級モンスターに襲われた時にひとたまりもないでしょうね。もっとも、それはわたくしも同様ですが……」
心外とばかりに声を荒げる余を、ヴァミュウは肩をすくめるかのような態度であっさりと流す。
まったく、飼われているなどとは、なんという暴言か!
……いや確かにそう見える気もしなくもないが、心だけは独立独歩なのじゃ!
などと憤慨していた余は、先ほどのヴァミュウの発言を思い返して、肝心なことを尋ねた。そう、外のことである。
「ヴァミュウよ。おぬしはどうやってこの街に辿り着いたのじゃ? 今の口ぶりからすると、おぬしにとっても外は安全ではなかったようじゃが……」
「ええ。下級モンスターどもときたら、高貴なわたくしの正体にも気づかず襲い掛かってきましたわ。身軽さだけはあったのでなんなくいなしましたが、倒すなんてとてもとても。そういった連中から逃げ回っているうちに、安全そうなこの街に辿り着いたのです」
「では、この街の地理なども分からぬのじゃな?」
「ええ。残念ながら、そのあたりを気にする余裕はありませんでしたわね……」
「ううむ、そうか……」
四天王と連絡を取れれば事態は好転すると考えていたものの、どうやらそれは甘い考えだったようである。
孤島で救助船を待っていたところに板切れが流れ着き、しがみついていた遭難者が新たに増えただけ、といった感じじゃな。
今になって気づいたが、ヴァミュウの体毛もところどころ汚れている。辿り着くまでの苦労が窺えるというものじゃ。
これではヴァミュウをお供に外に出ても、モンスターの獲物が二体増えるだけであろう。
これからどうしたものか。
余が口を開けて、新たに言葉を発しようとしたその刹那。
「ただいま戻ったよ……あれ?」
ポルテの声が近くからかけられる。
どうやら、子供たちとの触れ合いから戻ってきたようじゃ。
会話に夢中で気づくのが遅れてしまった。
余は慌てて言葉を飲み込み、口を閉ざす。
とはいえ、先ほどまで使っていたのはモンスターの言語であるし、聞こえたとしてもポルテには分からぬと思うが……。
変な鳴き声だと思われて注意を引くのも困る。例えば、余が発した言葉をあの女魔法使いにそのまま伝えてしまう、とかな。
その際に竜王などのニュアンスが混じっていたら、さすがにあの女も余のことを詳しく調べようとするやもしれぬ。そんな危険がある以上、普段は使わないに越したことはあるまい。
ヴァミュウに視線を向けるが、わかっていますわとも言いたげな涼しい目つきが答えだった。
「こんにちは。ひょっとして友達になったのかな?」
ポルテは余の前にいる白猫の前でかがみ、なるべく視線の高さを合わせようとする。
ヴァミュウはポルテを見上げつつ、その器量を推し量ろうというのかじっと見つめるばかりであった。
……そこはお約束通り、にゃあと猫の鳴き声を出せ! 怪しまれるじゃろうが!!
「ずいぶんと汚れちゃってるね……うちにおいでよ。綺麗にしてあげる」
ポルテはヴァミュウに腕を差し出す。
ヴァミュウはしばし逡巡していたようだが、やがて自ら赴き、その腕につかまった。
ヴァミュウが何かやらかすかと不安であったが……。
余の飼い主……い、いや! 余に住まいを提供している人間ということもあって、ヴァミュウも手荒なことをする気はないようじゃ。
ポルテは喜び、余と一緒にヴァミュウも抱きかかえると家への道を歩き出す。
「わたくしもこの姿でうろつくのは危険ですからね。しばらくこの人間の家に隠れているとしましょう」
ヴァミュウは間近にいる余にのみ聞こえるように囁く。
特に反対する理由もなく、余は無言でうなずいた。
帰宅するとポルテはさっそくヴァミュウの体を丁寧に拭き、汚れを拭う。
されるがままだったヴァミュウはやがて、まさに高貴な白猫という風情になった。
ヴァミュウは綺麗になった自分に満足して、踊るように軽快なステップを踏む。
やれやれ、まるで本当の猫のようじゃの。
ポルテはやがて一人で出かけると、しばらくして帰って来た。
どうやら、余の食材と一緒にヴァミュウの食材も調達してきたようじゃ。
やがて食事の時間になり、ポルテは二人ぶんの皿を用意した。
ヴァミュウの前に出された皿の上には、焼かれた小魚が置かれ……。
もちろん余の前の皿に載せられたのは、いつものように虫の特盛である。
召し上がれという声を受けて、余は多種多様な虫たちをむさぼった。
ふと視線を感じて顔を横に向けると、虫を食べる余をドン引きしながら見つめるヴァミュウの姿があった。
うぐぐ……余だっておぬしのような姿なら、こんなものを出されずにすんだはずなのじゃ……!
自分の身の上を嘆きながらも、余は空腹を満たすために食事を続けたのであった。




