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第12話 夢で見たもの

 カーターが献金の誓いを立て、エイカンは、教会付属の修道院へと運ばれて治療を受けることになった




 エイカンは僧坊の一室に寝かされた。


 助祭が入れ替わり立ち替わり訪れては、光をエイカンの首元にかざし続けた。


 エイカンが目を覚ましたのは、三日目の朝。


 まだ痛みは残っていたし、体を起こすこともできなかったが、とにかく、どうにか一命は取り留めた。




 エイカンは助祭たちがかざす光の熱の中で、ずっと、夢うつつでいた。




 ある夜。




 エイカンは夢を見た。


 夢、だったと思う。


 


 真っ暗な空間の中に、ダリオン様がいた。


 そのダリオン様と向かい合うように、すこし離れた場所には青い光をまとうネネ様。


 ふたりはエイカンに気がついて、ダリオン様はあの自信に満ちた笑顔で、ネネ様は慈愛に満ちた微笑みを浮かべて、こちらを見た。




 ダリオン様が、こちらに来いと手招きをした。


 エイカンは一歩踏み出そうとして、ためらった。


 ダリオン様が、あの腐臭を放つ赤い光をまとっているように見えたのだ。




 後ろから、聞いたことのある、地響きのような低音の声が聞こえてきた。




『エイカン……


 私の言いつけを守れ




 私の英雄を、人界の王たらしめよ




 そなたの力で……


 そなたの助けで……』




 振り向くとそこには、少女かと見違えるほど美しい少年が立っていた。


 あの、少年だ。


 ネネ様の畑で目覚める直前、夢の中で出会ったあの美しい少年。


 真っ赤な光をまとっている。




 その光がどんどん強くなり、ダリオンに向かって伸びていく。


 暑い。周囲に腐臭がただよう。




「ダリオン様!


 ここは私が!


 お逃げください!」




 エイカンは叫んだ。


 だがダリオンは、静かに、エイカンに向かって微笑むだけだった。




 少年がダリオンの方へと歩きはじめた。


 赤い光はどんどん強くなっていく。




 ネネ様は無事か!?


 エイカンが振り向くとネネはひとり胸の前で手を組んで、淡々と神に祈りを捧げていた。


 青い光に守られてはいるが、それはあまりに弱々しく、この場を支配しようとする赤い光の前には無力に見えた。




──ネネ様を、護まもらなければ




 エイカンは、ネネ様に向かって走った。


 そしてネネを庇うように、彼女の前に立ちはだかった。


 


『エイカン!


 そなたを呼んだのは、この私ぞ?


 何をしている?


 こちらへ来い。


 こちらへ来て、私の英雄を助けるのだ』




 少年はダリオンの傍に立っていた。


 真っ赤な光に包まれたダリオンの目に光はなく、ただ立ち尽くす人形のようだった。




「なりませぬダリオン様!


 その者から離れてください!


 ダリオン様は、その者は……その者は……!」




 言葉に詰まるエイカンを見て、少年が勝ち誇ったようなうすら笑いを浮かべた。


 


『何を心配しているのだ? エイカン。


 何を恐れる? お前らしくもない。




 さあ、来い!


 私、ダリオン、そしてお前で、三界すべてを手に入れるぞ!』




 真っ赤な光が広がって、エイカンとネネを包み込んでいった。


 エイカンは、この光が彼女を冒すのを防ごうと、思わずネネを抱きしめた。


 




   ◆




 


 エイカンはガバリと跳ね起きた。


 首の後ろがズキリと痛んだ。


 夢か……


 夢にしては、あまりにリアルだったが……


 


「お目覚めですか? エイカン殿」




 聖衣をまとった男が声をかけてきた。


 まだはっきりしない頭で考えた。


 この人は教会の? 助祭か、あるいは神官様だろうか?




「こ、ここは?……」




「グレイス村の教会ですよ。


 魔物に襲われたあなたを、村の人たちが担ぎ込んできたのです。




 さあ、横になって。


 傷口を見せてください。


 それだけ動けるなら、もうだいぶ良くなっていそうですがね」




 エイカンの首の傷跡をあらためていた教会の神官が、満足げにうなずいた。




「だいぶ良くなっていますね。


 まだ、痛みますか?」




「ええ。少し」




「ならば治療を続けましょう。


 こちらに首を向けていただけますかな?」




 言われた通りにすると、神官がエイカンの首に、光を宿した手をかざした。


 熱い。そして、耐えがたい腐臭がする。


 エイカンの視界が赤く染まっていく。


 エイカンは驚いて跳ね起きた。


 


 神官が驚いて、エイカンを見つめている。




「神官殿……なぜ、赤い光を?」




「何をおっしゃっているのですかエイカン殿。


 神の光は、赤いものです。


 


 エイカン殿は、記憶を失っておられるとか。


 神の光のことも、お忘れでしたかな?」




 違う。


 この神官は嘘をついている。


 神の光は、青く穏やかで温かい光だ……


 


 エイカンは、夢で見た青い光、それと同じ、ネネが放つ光を思い出して、ひとり密かに戦慄した。


 


 


 


 


   ◆


 


 




 それから三日ほどで、エイカンはすっかり元気になった。


 助祭が傷口をあらためて、そしてこれなら大丈夫だろうと、エイカンがグレイス屋敷に戻ることを許可してくれた。




「しばらくは、栄養のあるものを召し上がってください。


 いきなり体を動かしてはいけません。


 稽古や訓練は、すっかり体調が戻ったと感じてからになさってください」




 まだ首筋に違和感は残っていたが、もう痛みはなかった。


 エイカンは、自ら歩いてグレイス屋敷へと戻っていった。


 


「ネネ様」




 畑を耕すネネを見つけて、エイカンは声をかけた。




「エイカン様っ!」




 ネネが振り返り、手にしていた鍬を放り出して、エイカンに駆け寄ってきた。




「おかえりなさいませっ! エイカン様っ!」




「ご心配をおかけしました。


 それにとんだ迷惑を……」




「迷惑だなんてとんでもない!


 ああ、無事でよかった……


 もう、すっかりよろしいのですか?」




「ええ、まあ。


 まだ少し違和感はありますが、痛みは無くなりました。


 教会の皆さんにはよくしていただきました」




「まあ! 良かったですね。


 もうお屋敷の外でお休みになるのはダメですよ?


 今日から、夜は客間で過ごしていただきます」




 ネネがどんなに強く勧めても、屋敷で眠ることを、エイカンは頑として受け入れなかった。


 


 うら若き少女が一人で暮らす屋敷に、自分のような男が上がり込んではネネ様の評判に傷がつく。




 何度言っても、その一点張りだった。




 しかたなく、ネネは納屋の結界を広げることにした。


 エイカンがどれだけ寝相が悪くても、結界の外に足をはみ出さないように。

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