断章 2
1936年2月25日 20:33 オハイオ州ビッグプレーリー近郊
手を引かれて、階段を上る。2日ぶりの屋根裏部屋。天窓が一つの簡素な部屋だが、僕ら兄弟にとっては、最高の秘密基地だ。
「見ろよ。これ」
「うわっ。こんなすごいの良く見つけたね」
古びた望遠鏡。そして、それを固定する台座。ここに入るなって言って、兄の言葉。
その意味が、ようやく分かった。
「これで見えるはずだ」
レンズを布で拭く。その先には、月が輝いていた。
望遠鏡をのぞき込む。その先には、宇宙が広がっていた。
1時間ほど2人で、望遠鏡をかわるがわるのぞき込んでいた。星が瞬くたびに勝手に名前を付けて遊び、木製を見ては、驚き。見たことのない大きな星を見ては、ワイワイと語り合った。
「なあ、大きくなったらさ。あそこに行ってみたいな」
やがて、疲れて、古びたベットに腰かけて、そろそろ寝ようかと思った時だった。不意に、兄がそんなことを言い始めた。僕は、眠たかったけど。うん。と大きくうなづいた。
「じゃあさ、俺が、機長で、お前は筆記係な」
「ええ~お兄ちゃんばかりずるいよ。僕も宇宙船運転してみたいよ」
あははと、笑い、ガシガシと頭を撫でられる。すこし、痛かったけど、嫌いじゃなかった。
その日から、兄は猛勉強を始めた。まるでその夢を叶えたいと本気で思っているように。
それでも、僕と遊ぶ回数は減らさず。優しくて頼りがいのある兄であることは間違いなかった。
でも、きっとそれは、自分のことをよく知っていたからだと思う。
1938年 兄は学校で倒れ、小さな病院に運ばれた。高熱とけいれんを繰り返す兄の回復を祈ることしかできないままに、時間だけが過ぎていった。
1940年 僕の身長は、兄の身長を追い抜いた。奇跡的に回復した兄は……成長が止まってしまった。兄を気遣うように、父は、良い病院のあるワシントンDCの親せきを頼り、しばらく意の間居を移した。そこで仕事を見つけ働き始めた。
兄は、その間も、勉強を続けていた。
もう、僕とは遊ばない――遊べないのだとしても。
兄の名はニール。僕の名は……。




