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アメリカ篇 前章2

「神を信じるですか?」


「ああそうだ。君は、神を信じている方かい?」


 即座に切り返される。その質問の意図が読めない。そして、その本心も。だから、出たのは、ため息と。繰り返してきた答えだった。


「あなたたちの教えでは、異教徒は神の名をかたったとして、地獄で永劫の責め苦を受け、救いの瞬間に立ち会うことなどできない。――とされていますよね。その質問を、異教徒の最たる魔女に行うというのが、どうも気に入らないのですが。ええ。私はあなた方の狭量な神とは違う別の神を崇めていますよ。

 これでよろしいかしら?」


 あえて、煽る様に言い切る。さてどう反応するか。

 少しの沈黙。その口元に描かれたのは、鋭い笑みだった。


「それは結構なことだ。私も神を信じていない。あえて言えば、世界をデザインしている数式。これを作ったものを神と呼称するのならば、それと会って話をしてみたい思っている。

 同じ無神論者として、意見が合いそうだ。」


 はぁっと、あいまいに返事を返す。それの何が気に入ったのか、ノイマンは上機嫌に話を進める。


「人はすべからく呪われている。君が死の間際に発した言葉の意味を、もともとは、皆知りたがっていたのだけどね。おそらく、今は失われている合理的な思考が取り戻されれば、――もはや、そのことに、誰も触れることはしないだろう。

 だからこそ聞きたいと思ったのだ。」


 探求の炎は消えないだろう。だが――自分にも安易に口に出したという非があるとはいえ、その意味を告げることはできなかった。


「私の言葉に、私が答えを言うのは簡単です。しかし、それはお得意の数式で解き明かせばよろしいではないですか。ましてや、私の言葉などに、深い意味などありませんよ。」


 先ほどまでの穏やかな気配が嘘のように春の日に伸びる影は、急に冷たさを増していく。それは、背筋を凍らせるほどに寒さをもって身にまとわりついてくる。そのまなざしは変わっていないはずなのに、魔女としてある、この現身すらも凍てつかせる。思わず、シーツの下で心臓の上に手を置く。鼓動を確認し、それの維持に努める。

 長い長い沈黙が、穏やかな陽光で、寒さが緩む部屋の空気をずたずたに切り裂いていく。いつまでそれが続くのかと思索した。まさにその瞬間だった。その空気が一気に緩んだ。


「深い意味などない……か。――残念だ」


 それだけを言うと、ノイマンは立ち上がった。その顔には明らかな落胆の色が見える。数字に神を見る断言した彼が、見せたのは、明らかな人間的な期待外れを現す色だった。だが、その底に潜む探求の灯は消えていない。彼は、まだあきらめてなどいないのだろう。そして、その探求の意味を私は知ることなどできないでいた。


「ミス.メルル。準備が――あっ、ノイマン主席」


 やってきたのは、見慣れた国防総省の職員だった。その職員を持っても、ノイマンがここにいたのが、驚きとして捉えられたようだった。


「こちらにいらっしゃったのですか。先ほどから、姿が見えないと皆が探していました」


「そうだったか。離席から、ちょうど、21分27秒を経過したところか。確かに主宰の一人が外すのは君らの責になるな。よし、戻るとしよう。

 魔女メルル。貴重な話とリンゴをありがとう。

 どうやら、お互いの条件に対する前提条件の抽出精度が足りなかったようだ。今度会ったときには、もう少し証明に精査した条件を提示したいと考えている。期待して待っていてほしい」


 その顔色に先ほどの落胆はおろか、こちらを圧するような気配は全く感じられなかった。それどころか、平坦な声色が、耳に入ると、私は安心してしまっていた。


 1940年4月5日 15時22分


 ホワイトハウスの医務室から、いくつかの会議に引っ張り出された私が、解放されたのは、ランチの時間をとうに回ったころだった。その足で、いつもの国防総省(職場)へと向かっていく。道沿いのペーパースタンド。店主に5セントコインを渡し、遅まきながら新聞を読む。どの新聞も書いてあることは同じ。避けられないドイツとの全面戦争、そして、ドイツの同盟国である日本が見せる太平洋上での挑発的な行動。きっと来るであろう、大戦の気配。それは、主戦場から最も遠いはずのここ、ワシントンでも感じられるようになってきている。

 大きく息吐くと、読み終わった新聞をダストボックスに投げ入れる。おそらく、明日にはいい着火剤になってくれていることだろう。

 それが、焼却炉の中だけに留まってくれることを願う。


 ワシントン郊外にある、小さなオフィス。掲げられているのは、白頭鷲の国章。この小さな国務機関。ここが、私のオフィスだ。対複合脅威戦術機関。Multi-Incident Defense Directorate。通称”M.I.D.T”戦術だけでなく、神秘、最新科学などの全てをもって害なす意思を持つ者たちがもたらす危機からアメリカを守る。

 第一次世界大戦で超人たちが、戦場に現れたことを危険視して作られた国防総省直下のまだ新しい組織だ。

 設置理由は実に立派だが、反してその規模は小さい。

 それには理由がある。ちょうど今、その危機の最中だから。現在進行形で存在している危機。それに対応するための予算を投じ、作戦を立案する。今は、攻勢を主とする戦争の真っ最中で、予防防衛を主任務とするこの部門は、冷や飯食いとして笑われていた。

 ドアを開く。いつもの閑散として静寂に満ちたオフィスがあると考えていた。


「だからね。爺さん。あんたがいうようなものはこの世界には存在しないの。軍は暇じゃないんだぞ」


 怒号が飛び交っていた。

 雑然とした、室内に、いつもの部下と、見慣れぬ老人。


「若造が!

 ドイツが、上空2万メートルを飛行する化け物を作っているのは明らかなんじゃ。石頭め。お前じゃ話にならん。上を出せ!」

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