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3/3

3.vs鳥

キェーッ!」

 コカトリスが規制を上げ、足を振り上げ突進してくる。その姿はまさにドロップキック。

 ガンッ。盾「のように構えたガラスがコカトリスの攻撃を防ぐ。

 その間に、本当に破片のような形でしかないガラスの剣で反撃を試みるが、殺傷能力も薄く、致命傷を与えられない。

「なんだこいつ…」

「コカトリスです。蛇の頭と鳥の尻尾を持つ凶暴な魔物。本来なら森の奥でこっちには見向きもしないはずなのですが…。」

 え?鳥の尻尾?もしかして猛禽的な部分が尻尾なのか?こいつ

 刃と爪が重なり合う。無駄に硬いし無駄に速い。上位の魔物らしいが、それも頷ける。

 

 煌めく結晶を打ち出すが、それも全て打ち返される。なんだこの化け物、おおよそ鳥とは思えない。

 そうこうしているうちに、コカトリスが宙に舞い上がる。鳥であるおかげで滞空時間は長い。

 何をされてもいいよう盾を構える。

「避けてっ!」

 セノの声も一足遅く、猛スピードで弾丸のようにコカトリスが落ちてくる。どうやら頭突きらしい。

「うっ」

 その衝撃は盾だけでは抑えきれず、盾が砕け、衝撃が骨に響く。

 が、

「そこっ」

 それでもなお、剣を振るう。刃は確かにコカトリスに命中し、突き放すことに成功する。

「はぁ…はぁ…」

「大丈夫ですか?今回復を…」

「今はいい。すぐに次が来る」


 歪な剣を正面に構え、突進を待つ。

 突進の構え、来る。その時はそう思った。

 だが、現実は違った。

「蛇ぃっ!?」

 本体であるはずの蛇が伸びて来たのだ。

 蛇の頭が急接近する。嫌な予感があった。

「もしかして……」

「避けてください、毒です!」

 そう聞いた瞬間、構えを解きガラスを射出し宙を舞う。太陽の光に結晶が反射し輝く。水飛沫のような光景だった。

 実際は触るだけで血だらけになる超危険地帯なのだが。


 蛇の頭を何とか避ける。しかしそれは頭一個分だけ。

 ビュン。俺の真横スレスレを緑の紐、蛇の頭が抜ける。しかし次追ってくるのは。

「もう一個分か!」

 もう一つの蛇の頭だ。

 避けきれない。瞬間的にそう悟る。

 ならばせめて。そう思い蛇の頭を掴む。

「痛っ」

 噛まれる痛み、なかなか話さず、注射器のような鋭さが続く。この感覚は、毒を注入されているようだ。前世でハブに噛まれた時に似ている。だからこそ断定的ではあるが、毒を注入されているのだとわかる。


「飛べよ化け物…!」

 だが、今はそんなこと関係ない。毒を注入された以上、毒が回るまでに決着をつけなければならない。

 だから言葉が通じるかもわからない魔物に、飛ぶことを促す。

 飛んでくれればいいんだが…。

「!」

 急激な上方からの空気圧。どうやら、本当に飛んでくれたようだ。

 そして

「今度は下か!セノ!避けて!」

「へ!?」

 急降下。俺を地面に叩きつける気か。好都合。

 ガラスの破片を無理やり宙に舞わせ、そこを通る。残念ながら俺の体も無事じゃ済まないが死ななきゃ問題ない。

 煌めく粒子が眩しい中、ガラスの中を通り抜ける。

 流石に痛いな…。だが、それはコカトリスも同じ、いやコカトリスの方が体積も大きい分、ダメージも大きいようだ。

 その証拠として、コカトリスの羽はボロボロ、体は血だらけである。

 空に現れた煌めく結晶の幻想的な空気を抜け、ついに地面へ到着する。俺を下にして。


 何とかセノは退避したようだ。

「キェッ…!」

 蛇の頭をぶった斬り、自分の腕を解放する

 そして、コカトリスは動かなくなった。

「やったか…」

 死亡フラグとも取れる一言を呟いた瞬間、体が横に引っ張られた。すごい勢いで。

 くらり。視界が揺らぐ。

 またぶっ倒れるか?これ。

 地面との邂逅を果たす決意をした瞬間、体が横に思いっきり引っ張られた。

「危険な状態ですので、救護します。」

 セノの声だ。どうやら、救生車内に引き摺り込まれたよう...だ。

 意識が朦朧としてきた。

 体がふわふわする。毒が回り始めたようだ。流石にこれほどの毒は俺も耐性を持っていない。

「待ってください。すぐに回復魔法を…。」

 ぐわん、ぐわんと助手席も揺れる。交通安全とは言い難い運転をしているようだ。

 身体中血だらけだったが、あまり痛みを感じられない。

「お願いです。目を閉じないでください…」

 それは…無理かも。

 もう、無理。

 

 圧倒的な眠気に耐えきれず、目を閉じ眠りに入る。そして数秒後…

「眠れねえ!」

 飛び起きた。

「だ、大丈夫ですか?」

「ああ、いや、全然大丈夫じゃない。身体中が痛い。毒はもう効かないみたいだけど…」

「何で毒が効いていないのかはわかりませんが…。とりあえず、このへんであなたの治療をしましょう。」

 救生車がたどり着いたのは、森というか林。俺たちがくる時にバキバキと木々を粉砕したところだ。

「そこの担架に仰向けになってください。治療をします。応急処置ですが、しなければ死にます。」

 ぽわんと、何かの魔法がかかる。痛みが少しだけ引いた。これが回復魔法。

「あなたの状態だと、回復魔法を使ってもここが関の山。ちょっと本当に毒が回ってないか確認するので、触りますね」

 セノが首元に触れる。

 ぺたぺたといろんなところを触られ、出てきた結果は

「毒、回ってますね。何で死んでないのか不思議なレベルで。」

 毒、回ってた。

 しかも死んでないのがおかしいくらいに。

「きっと回復魔法が死を抑制しているのでしょうが…、危険ですね。今すぐ毒を取り出すのがいいです」

「どうやって取り出すんだ?」

「基本的に体液です。血でも、唾液でも、汗でも尿でも。どこを噛まれたかとか場所に限らず体液です。」

 なるほど体液…。しかしどこを噛まれようが血でいいって便利だな。血清とか必要ないじゃん。

「よしじゃあ、血液を……」

「死にますよ?」

「はい、すいません」

 反省。

「じゃあどうやって…」

「1番手っ取り早いのは、その…せ、性行為です…ね」

「え?」

 ダバーと俺の手からは血が出ている。  

 どうやら腕の傷が痛み始めたようだ。これで古傷が痛むって言葉が使えるな。 

 て、おい。全然止まらねえぞどうすんだこれ。

「なんで血が?」

 セノの問い

「坊やだから」

「殴りますよ?」

 本日二度目の反省。


 で、それから少しして。

「とりあえずここでできることはありません。支部へ戻りましょう。あそこなら毒消し系の薬草もあったはず。」

 むっしゃむっしゃ。 

 お、これ薬草では?前世で食った気がする。

「…何食べてるんですか?」

「見覚えがあった葉を食べてる。そしてこれは薬草。多分」

「…。そうですか。って本当にこれ薬草じゃないですか」

 あまり顔色を変えずに声色が少し驚いたように変わる。

 この人、結構感情が表に出ないタイプだな…。

「毒消しではありませんが、貴重な薬草です。ここをマークしておきましょう」

 そう言い彼女は、この地に魔法をかけた。

 きっとメイビーこれが目印となるのだろう。 

「それじゃあ、帰りましょう」

 救生車に乗り込み、俺達は帰路に着いた。

_______________________________________________________

 後日談というか今回のオチ、ではなく、コカトリス含め魔物いっぱい求めていないオールスター大集合が怒ったその日の夜、俺はセノに呼び出されていた。

 そもそも俺が元いた場所がセノの自室だったから呼び出しも何も無いんだけど。

「体は、大丈夫ですか?」

「大丈夫。たとえ死にかけでも多分大丈夫。」

「死にかけなら言ってください。何時でも治しますから」

 騒動の後、セノはすぐさま俺の治療に取り掛かり(1番の重症は俺だったらしい)、その後は負傷者の治療をずっとしていた。

 それについては俺も手伝ったので信ぴょう性はあるだろう。

「この間、ドラゴンを倒してくれたこと、それと、あの時私を守ってくれてありがとうございました。」

「どういたしまして。」

 前者は肉食いたかっただけなんだけども。

「けどなんであそこにコカトリスが?セノの話じゃ、森の奥にしかいないらしいじゃないか」

 そう、そこが俺の中でのネックだった。

 生態系がある以上、余程の事がない限りルーティンを外したりはしない。それに対しての自覚があろうとなかろうと自然はそうやって回っているのだ。それを崩すような行動は、はっきり言って異常と言っていいだろう。

「それが…、分からないのです。コカトリスは本来森の奥に住み、来たもののみに攻撃をしかける魔物。それがわざわざここまで来るとは考えにくい…。」

 セノが考えてることも同じようだ


「それに、あのコカトリス、圧倒的に強かったんです。普通のコカトリスは強敵と言ってもいいくらいの魔物ではあるのですが、中級者にとっては雑魚当然の魔物。あなたの戦い方を見ても、あそこまで苦戦する要因はほぼないのです。ですが……」

 俺は苦戦した、と。

 実際、戦ったこともない戦闘初心者の俺だから苦戦したといえば話は納得なのだが、戦っている最中、何か違う圧を感じた。

 ドーピングによって増強された力を使っているような、本能的におかしいと思うほどの圧。

 あれが魔力とするなら、たしかに、異常が発生しているのかもしれない。

「まあ、それは置いておいて。私が言いたいのはそれではありません。私が言いたいのはお礼です。」

「お礼ならさっき…」

「いえ、物やサービスなどです。要するに謝礼ですね。」

 謝礼....。大したことしてないし、ドラゴンに至ってはもはや自分が死にそうだから倒しただけだ。

 それで謝礼をもらうのは違う気がする.....。

「いや、謝礼とかは...」

「いえ、これはこちら側からの誠意の証なので是が非でも受け取ってください。じゃないと世間に示しがつきません」

 浅はかだったのは俺のようだ。やはり立場を持っているといろいろなことがるんだな。

「普通ならお金になるのですが、今は団長が居ない状態ですのでその手段は使えません。なのであなたから要望を聞き、私が応えられる範囲での謝礼としようかと....」

「その応えられる範囲ってのは?」

「世界征服とかじゃなければ、あまりに現実味の無いものじゃなければ何でも。お金は先程言った理由でできないのですが.....。」

 なるほど...。

 ここで生きるのに必要なものをお願いするのが理にかなってるだろう。と、なると、うーん。

 そこでよぎる、無職時代の思い出。

「住処を...ください...」

「要望とあらば私そのものでも.....、ってえ?。」

「住処がほしいです」

 そう、家がなかったのだ。

「家、なかったんですか?」

「うん。目が冷めたら森だった。故郷への帰り方もわからない」

「そんな事情が....。それが要望とあらばすぐにでも手配します」

「ありがとう」

 なんとか住処は手に入れることができそうだ。


「それともう一つ。これは私からの個人的な謝礼。負傷者の運搬を手伝ってくれたことのお礼です。私自身ができることなら何でもいいですので、おしゃってください」

 断ろうとも考えたが、これは緩徐が望むことなのだろう。善意を挫くことはできない。

 何でも言ったな....。健全な男が考えることと言ったらただ一つ。彼女は結構スタイルもいいし、やはり健全ならあれを願うことだろう。

「それなら、回復魔法を教えてほしい」

 だが悲しいかな、今の俺は五体満足で無傷、強靭無敵最強というわけでもない、健全の正反対とも言える状態なので、そんなこと思いつかなかった。

 しかもこれだけの頻度でボロボロになるのなら、回復魔法を自給自足できるようになったほうがいいなと思ったのだ。

「わかりました。最善を尽くします」

「ありがとう。」


「住処については、さすがに今すぐとは行かないので、今晩はここで寝てください。」

「わかった」

 こんなすぐに準備できる方がおかしいだろう。

「私も居ますが....。その体で移動するほうが鬼畜なので我慢してください」

 そういや俺まだ怪我完治してなかった。ドラゴンのときの傷も含めて・

「手続きに必要になりますので、あなたのお名前を。」

 そういえば名乗ってなかったか。


「俺の名前はゲントク。名前が聞き取れればすぐ駆けつけるよ」

 彼女は微笑みこう言った。

「ふふっ。そうですか、覚えておきます」 

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