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2.レッツゴー救急、いつでも交通安全

 夢を見た。

 無職になって間もない頃の、生きるのになれなくってただ苦しい時期。

無職になった理由は大学でのいじめ。

 きっかけは、気分が乗らずに断った飲み会。断った時は、誰も何も思ってなかったようだが、そこには確かに亀裂と歪みが生まれた。

 悲しいかな、まだ高校を卒業して間もない彼らの心はその歪みを感じ取り、害するものと捉え、排除しようとする。人は簡単には大人になれないのだ。

 

 最初は、暴言だけだった。それもとても小さな声で。だが、耳が壊滅的に悪くなければ、誰でも聞き取れるほどの大きさだった。

 その次は、借りパクだった。俺にわざとものを借り、それを返さない。ペンやキーホルダー。それらは全て食堂のゴミ箱で見つかった。

 何より答えたのが無視だった。もとより友人と呼べる人物はあまりいなかったが、それでも話かけてくれる人はいた。

 だが、その人すらも、俺を無視し始めた。

 孤立は一瞬だった。

 暴言を吐かれようが、ものを捨ててるとこを見てようが誰も、何も言わない。さも自分は見ていない、それどころか、そんな奴排除してしまえと言わんばかりの態度だった。

 自分が関わらない人もそうだった。噂が流れたのか、俺は外を歩くたびに軽蔑の眼差しを向けられるようになった。それは、教授すらも同じだった。

 大学全体が俺を敵だと決めつけ、排除しようとする動き。何をしたか、俺はただ、

 ただ、飲み会を断っただけなのだ。


 やめようと決めたのはいつだったか、その空気そのものが毒のように俺を蝕み耐えきれなくなった時だったと思う。

 それまで泣くことは無かったが、両親に連絡するときは涙を堪えながらだった。

 両親は何かを感じ取り、叱ることなく俺に家に帰るかと提案してきたが、それも断った。

 あってはいけないような気がしたのだ。


 心配性な母はまめに連絡をくれた。

 無愛想だが優しかった父は、何かあったら必ず力になると言ってくれた。


 元々草を食らうのに抵抗はない方だったが、それでも腹を壊した。これからの生活において、どうしても食に割ける金がなくなった1日目は、腹を壊した。

 とてつもない腹痛に苛まれた。

 2日目は激しい吐き気だった。だが、吐くこともできずただひたすらに気持ち悪さと飢えに苦しみ続けた。この世は地獄かと思ったが、残念ながらその状況を作った自分だとわかった。

 3日目はなんとか食べれる草にありつけ、苦しむことはなかった。さすがにどこかで働かなければと思い、面接を受けた。

 なんとか職にはありつけたが、給料は払われなかった。


 それまで、俺を目の前で救ってくれる人は誰もいなかった。今思えば、大学で虐めらていたとはいえ、自分が作り出した状況なのだから、文句は言えないだろう。

 だけど、少なくとも、大学だって、会社だって、救ってくれる人はいなかった。

 怪我でも、精神でも。

 そんな、これまでの人生をまとめたような夢を見た。

____________________________________

 目が覚めた。

 久しぶりに気色の悪くて後味が最悪な夢を見たな。 

 俺はうなされていたのだろうか。そんな些細なことはどうでもいい。

 俺はあの後どうなったんだろうか。


「目が覚めましたか?」

 涼しくも可愛らしい声が響く。

 音の主を見ると、銀髪のショートヘアの美少女が机を挟んで座っていた。

「あなたは?」

「救急団回収係部長、セノ・レティリアです。あなたがモヨデルの森のぶっ倒れていたところを私が回収しました。こう、ごみ収集の要領で」

「あ、ありがとう…ございます」

「あ、敬語はいいです」

「は、はあ」

 なんか句読点多い会話だな…

 

 それから少し会話をして、俺がドラゴンとドンパチやってたと報告を受け、駆けつけたらドラゴンの魔石と俺が落ちていたという。

「で、これが魔石です」

「ほほう....?」

 取り出されたのは歪な赤い結晶。これがドラゴンの魔石、ドラゴンを倒した証なのだという。

「断定はしかねますが、きっとあなたが倒したのでしょう。そこで一つ聞きたいことが」

「?」

「一体どうやってっ倒したのです?」

 これまた返答に困ることを......

「どう倒したと言われてもな.....。気づいたら手からガラスの破片を出せるようになってたからそれでどうにか応戦したとしか......」

「なるほど。その力を今見せてもらえますか?」

「うーん....」

 手の内は明かさないほうがいいというが、実際どうなのだろ


 白い壁の真ん中にある窓からは温かな日差しが届いている。事実、あまり俺がお目にかかれなかった光だ。

 ここまでしてもらったわけだし、あのまま放置されてたら死んでたわけだしな......

「別に疑ってるとかそういうわけじゃありません。」

「ああ、ごめん。いいよ。見せる」

 念じると、奥でパリンという音が聞こえ、ガラスが生成される。

 先があまり尖ってない安全な形。

 光に反射し、キラキラと輝いてる。

「すごいですね。手品の類では.....」

 あまり顔色を変えずにセノが感嘆の声を上げる


「ありがとうございます。これでギルドの方には報告できそうです。」

 なるほど、きっと倒したという報告をしようにも倒した方法も状況もわからないから報告できなかったのだろう。大変だな。

「あともう一つ....。これは個人的なものなのですが....いいですか?」

「もちろん」

 命を救われたのならそれ相応の働きをするべきだ。この信条が正しいかは救われたことが無いのでわからないが、きっと正しいのだろう。

「この肉....。を包んでる葉、一体どこで手にれたのです?見た感じ殺菌、そして保存することに長けている.....。私は見たことなくて....そんな葉」

「どこと言われても.....。さっきの森でそこら中に生えてた草だぞ」

 もう、そこら中に生えていた。草らしい草だ。

 しかし、同じ草が群生してるわけじゃないので地道に食べて特定したんだけども。

「なるほど。どうすれば見分けられますか?」

 うーん...。これまた難しい....。

 一番いいのは食べて特定なんだけど、食べた感じ毒なんだよな.....。嘔吐系の。

 こんな美少女が履いてるところを俺は見たくない。

「一番いいのは食べること。けど食べた感じ毒だからやめたほうがいいよ」

「毒?あなたは大丈夫なのですか....?必要とあらば救護を....」

「俺は耐性あるから大丈夫」


「なるほど....。新たな薬になりそうだったのですが....」

 ショボンとしてしまった.....。

 だから俺はこう提案する。

「俺が取ってこようか?」

「...!いいのですか?」

「ああ。その程度で役に立てるならね」

「それではぜひ」

 彼女は微笑んだ。可愛かった。

「!しかし、負傷者の気配が.....」

「わかるものなんだ....」

 超人的だ。


「それでは、行って...」

「ちょっと舞った。あ、間違えた、待った。俺も連れてって」

「いいですが....。あなたは....」

「問題ない。無駄にタフだから」

 事実だ。頭から血が流れても動けたし。

「わかりました。ついてきてください」

 彼女をあとをついて行った。

_____________________________________

「これは?」

 眼の前に現れたのは、軍事用救急車とも言うべき姿をした灰色の車。

「救護用救急救命魔道具。通称「救生車」。私の魔法で動いている私専用の魔道具です。これで負傷者の救命をします。コンセプトはどんな場所でも救い出す」

「なるほど」

「とりあえず乗り込んでください。隣でいいです」

 言われた通り助手席に乗り込む。ミラーにはトーストのキーホルダーが。

「発信します。交通安全で!」

 救生車は発進した

_____________________________________

「おおおう!!!」

 彼女の運転は交通安全が戦っていた。具体的に言うとものすごいスピードで正確無比な運転。ヘアピンカーブもドリフトでなんのその。

 しかしそれでいて一切の危険はない。運転席内部を除いて。

「前!」

「了解です!」

 前には錚々たる木々が乱立していた。

 バキッ、バキュッ。そして救生車はそんなものを無視し木々を粉砕しながらフルスロットルで進んでいる。

 俺は何をしているかというと、障害物を知らせているのだ。彼女も粉砕にはそれなりの準備がいるようで、かなり助かっているらしい。

「横!モンスター!」

 狼型の魔物。銀の毛並みを持つシルバーウルフというらしい。

 何匹かが、体当たりしつつ並走する

「突き抜けます!」

 狼達が吹き飛ばされ、木々にぶつかっては停止していく

 そして俺たちは、救急を待ってる人の元へ急ぐ。

 

 木々も少なくなり、人里が見え始める。どうやら到着は近いらしい。

 だが、

「上と前!」

「難しいかもしれません...!」

「じゃあ上は任せろ!」

 扉を開け、上から襲いかかるモンスターを迎撃する。煌めく結晶、ガラスがバジリスクに突き刺さる

 それと同時に救生車がモンスターを轢き飛ばす。

 キリモミ式に回転しながら、森を突破するクマ型の魔物

 それと同時に俺達も到着だ

 

 ついた場所は、魔物たちが入り乱れる、災害とも呼ぶべき状況。三人の勇敢な者たちが戦っている

 あちこちに負傷者も転がっている。

「到着です。負傷者は!」

「こっちだ!」

 向こうで手を上げてる人がいる。あっちに負傷者がいるらしい。

「モンスターパニックだな....」

「ええ。モヨデルの森が近いおかげでこういうことが多々あるのです。幸い、緊急網という独自システムがあるから戦う人には困らないのでいいのですが......」

 俺も負傷者へ駆け寄る。

 戦士の格好をしている男と、鎧をまとった失神した男だ。

「大丈夫ですか?」

「ああ。こっちは失神。あっちに投げてやってくれ」

「え?投げる?」

「ああ。どうせ回復魔法をかけるんだ少しの傷はあまり変わらんだろう」

 セノもあちらで手を振っている。しかたない。

 負傷者をぶん投げた。負傷者は弧を描きセノにキャッチされ、救生車へ格納された。

 こんなのでいいんだな。

 その後も、ポンポンと負傷者を投げていき、救生車に入れてく。


「これであらかた片付きましたね。お疲れ様でした。いい手際でした。」

「あんなに人を投げたのは初めてだよ....」

 向こうには、魔物を片付けてくれた人たちの頼もしい背中が輝いていた。

「やっぱ、かなり強い冒険者なの?みんな」

 そんな頼もしい背中を容赦なく指さしながら聞く。

 勇者のおとぎ話のように輝くその背中は歴戦の勇士そのものだった。

「いえ。別にそんなことは。あそこのナタを背負った戦士はあっちの食堂の店主です。毒キノコとポイズンニの丸焼き定食が絶品ですよ」

 セノが右を指差し説明する。その方向をみるとたしかに定食屋がある。

 だとしたらあの人はどこに帰っているんだ


「ということは」

「ええ。基本的に個々の住人は強いです」

「なるほど」

「帰りましょうか。」

「そうしよう」

 その時

 ガキッ。空から魔物が襲ってきた。セスめがけて。

「大丈夫?」

「え、ええ。ありがとうございます」

 守るために使った盾のようなガラスは粉々に砕け散る

「キェ―ッ!!」

 鳥型の魔物はこちらを威嚇する。バジリスクよりもより猛禽的な姿で、ヘビを尻尾とする魔物。

 その姿に見覚えがあった。

 だが、その答え合わせはセノがしてくれた

「コカトリス!?なぜここに....!?」

 よくわからないが、激しい戦いの火蓋が切って落とされた

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