まだ夏の日
ーこの夏、貴方と出会ったことをとても後悔した。
昨夜からずっと蒸し暑い。
冬用のシーツから変えてないベッドで体を起こす。
部屋が異様に大きく感じた。
セミの声と、体にグッとくるクーラーの涼しさがやけに夏というものを強調してくる。
そういえば、と床に足をつける。
今日は始業式。
重い体を起こし、ゆっくり着替え始めた。
久々にポロシャツに袖を通す。
スカートがやけに小さく感じた。
リビングに行っても父と母はいない。
テーブルに置き手紙があった。
「これ食べて学校頑張れ!」
というメモと共に、サラダとパン、スープがあった。
この何気ない日常にどことない有難みを感じた。
何気ない日常の有難みを噛み締め、玄関のドアを開ける。
「よっ!亜美、お久!元気してる?」
親友の渚が肩を叩く。
「久々で体が重いよ」
とか冗談を言い合った。
駄弁っていたら校門が見えた。
私の夏と夏休みはもう終わりを告げる、そう思うと何だか無性に悲しく感じた。
校長の話はやけに長く感じたものだ。
久々の体育座りに腰がやられたのか、立つ時に大きな伸びをした。
ぼーっと過ぎた1日。
あっという間に下校時間になっていた。
渚との帰り道、ふと思ったことを聞いてみた。
「渚さ、恋愛しないの?」
「私?」
渚は目を丸くする。
私に向けた視線は、目の前の信号に移った。
「興味無いかな」
渚は言いたげだった。
しかしそれを押し殺したようにそう話した。
「…そう」
それ以上多くは聞けなかった。
がしゃん!
どうやらぼーっとしていたようで、自転車のペダルに脛をぶつけたようだ。
痛くてしゃがんで悶える。
「亜美大丈夫?…あんた昔からドジだよね。
ほら見せてみな」
そう言って渚は亜美の足を少し持ち上げる。
「大したことない!皮むけただけだから!」
そう言って渚は絆創膏を貼った。
「…ありがとう」
なんだかその言葉が上手くいえなかった。
「渚!!!」
交差点で去ろうとする渚を止めた。
「…バイバイ」
渚はぶっきらぼうに手を振った。