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2.始まり


 正直に言うと、読書は苦手。国語は嫌いじゃないけど文字の羅列は眠気を誘うのだ。でも、先輩の書いたものを無性に、とても読んでみたくなった私。


「ど…どうだ?」

「……まだ一枚目です」


 私は原稿用紙をめくり、それに集中しようとするがソワソワとしている先輩が気になり過ぎて内容が全く頭に入ってこない。

 思わず「あなた誰ですか?」と言いそうになるほど、普段の大人っぽい先輩とは違っていて、落ち着かない様子で本棚と机を行ったり来たりしている。


「なぁ、途中まで読んでみての感想をくれないか?」

「え?」


 感想を言えるほど読み込んでいなかった私は、適当な事が言えず思わず言葉に詰まっていると、ドアが開き見知らぬ人が二人、部屋に入ってきた。

 先輩から紹介されたその二人は文学部のまだ見ぬ先輩達であった。

 内心「助かった」と思いつつ一応挨拶をすると二人も返してくれた。初対面とはいえ私の事は先輩から聞いていたのだろう、私の事はさほど気にも留めず先輩と話をし始めた。

 今だ!と言わんばかりに私は先輩の原稿を始めから読み返す。難しい漢字は飛ばしてしまうが集中して読み進めていく。

 自慢じゃないが、私はどんなジャンルも好きだ。キュンキュン恋愛系から、それこそ少年誌で人気のあるバトル漫画や冒険物、ホラーや探偵物もだ。しかしそれは漫画やアニメの話であって、活字溢れる書籍には馴染みがなかった……。

 

「む…難しい……」

 

 当たり前だが文字だけが並ぶ生の原稿、キャラやストーリー、技の説明も全てが文章で説明されている。

 これは読む方にも、ある程度の知識や経験がないと理解するのは無理なのでは?と、自分の理解力の無さから思わず口から出てしまった言葉。


「伝わりにくいか?どこだ?」


いつの間にか隣に座っていた先輩に私は驚くが、先輩はそんな事お構い無しに、小さなソファーの上で距離を詰めてくる。


「せっ先輩?他の先輩達は?」

「ん?話が終わったから帰ったぞ、それよりどこで詰まったんだ?」


 突然の急接近に、嫌悪感ではない別の感情から耐えきれなくなった私は、先輩からの問いに思ったままを答えてしまっていた。


 やってしまった…褒めるでもなく、己の理解力を棚に上げ、先輩の大事な作品を傷付けてしまったかもしれない……。

 どうやって挽回しようかと私があれこれ考えていると、先輩がブツブツと呟き始めた。


「主人公以外の行動やセリフが分かり辛いか……確かに、一人称と三人称の使い分けが曖昧で、視点切り替えも上手くいっていないかもしれない。ああここも説明ばかりで冗漫になっている。テンプレではあるが馴染みのない読者にはこれでは確かに伝わりにくいな。となるとこのバトルシーンもキャラの視点を動かすよりも主人公に固定するか。待てよ、感情移入出来ないのは設定が甘いのか?」

「せっ先輩!待って、ストップ!私そこまで言ってません!」


 先輩がすごい早口で自分の小説を分析し始めたが、私には何が何やら分からず少し引いてしまうが、先輩の小説に対する熱量は伝わってきた。

 私に口を挟まれ我に返った先輩は机に戻り、私など目に入らない程集中して原稿を書き始めたので、邪魔にならぬよう帰ろうとする私に気付いたのか


「お前の素直な意見がとても助かった。本当は自分で気付くべきなんだが…気付けなくなるんだ。なんかかっこいい表現とか技法とか早さとかさ…そっちにばかり気を取られてしまっていた。伝わる事が一番大事なのにな、とっとにかく書き直したらまた読んでくれ……それと、ありがとう」


 私と目も合わせず視線は原稿に落としたまま、でもその手を止めてきちんと言葉で伝えてくれる先輩。

 私はお礼を言ってもらえるような事は何一つしていなかったが、「もちろん」と返事をして部屋を出た。


 いつも口数少なく素っ気ない先輩が、好きな事でお喋りになる所も、照れながらお礼を言ってくれる所も、不器用な所も、素直な所も……。


「どうしよう…私…かなりヤバイかもっ!」


 廊下を走る私をすれ違った先生が注意をするが、私の耳には届いてはいなかった。




 




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