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1.出会い

 ノックをして入ったそこは、沢山の本に囲まれていた。部屋の中央にはローテーブルと窓際には二人掛けのソファー、そして本棚のそばには二台の机が並んでいた。


「えっ?なにここ……なんの部屋?」

「おいっ勝手に入ってくるな」


 拒絶をされるが構わず部屋の中に入り、大袈裟に息を吸い込む。何か言いたげな視線は気にしない。


「わぁ……本の匂いがする」


 実際に匂いを感じたわけではないが、本に囲まれた状況に懐かしさを感じ思わずそう呟くと、それまで怪訝な顔をしていたその部屋の主人あるじは、少しだけ警戒を解くかのように言葉を返してくれた。


「本……好きなのか?」


ーこれが私と先輩との出会いー

 


 先輩はその部屋で、毎日本を読んだり自分で小説を書いているらしい。

 そして私はその日からその部屋に通い、ソファーで漫画を読んだり昼寝をしたりと好き勝手していたが先輩は私を追い出したりはしなかった。

 

 西陽が少しだけ入るこの部屋は文学部の部室であり、先輩はそこの部長。部員は先輩を入れてたったの三人……らしい。

 らしいと言うのは、未だ他の部員に会っていないから。

 私は大人しくしているぶんには追い出されないのがもう分かっていたので、本を読むふりをして先輩を盗み見る。

 自分でも、何故こんな事をしているのか理由が分からなかった。

 放課後友人からの誘いを断り、用もないはずのこの部屋に足繁く通う自分を不思議に思いつつも、この部屋にゆっくりと流れる時間がとても気に入っていた。


「何か言いたい事でもあるのか?」


 ヤバイ!見つめ過ぎた?私は内心焦ったが、なんでもない事のように答える。


「先輩ってどんな話を書いてるんですか?」

「別に……ありふれたファンタジーかな」

「へー読んでみたいです、読ませてください」

「は?」


 私の発言内容が意外だったのか、顔をあげてこちらを見る先輩が、驚いたような顔でこちらをみている。

 いつも冷静な先輩が、何かを誤魔化すように慌てて自分の眼鏡を外し拭き始めた。


「いや……それは、少し恥ずかしいな……」


 窓から入った風が先輩を通り過ぎる。

 風に吹かれ、あらわになった幼ささえ感じる先輩の初めて見る表情。


ーこれが私の恋に落ちた瞬間ー





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