小人と人間が共存している世界での身体測定の話
「今年は絶対身長伸びてる気がする!」
小学校の身体測定の日、わたしが後ろに並んでるルンに宣言をする。
「ふうん、毎年わたしに負けてるくせにね」
クスッと笑う自信満々のルンだけど、今年はわたしは牛乳をたっぷり飲んだし、背が伸びるストレッチだって毎日やっているから、伸びているはず。小人の中で一番背の高いルンに今年は勝てるはず!
「じゃあ、次はリンさんの番ね」
椅子に座った保険の先生が、わたしのことを前に来るように促す。わたしたち小人は、赤いテープで囲われた一辺50センチくらいの床の上で並んで順番に身長を測ってもらっていた。
わたしの順番が来たから、先に測ってもらう。保健の先生の女性がうつ伏せになって横になるような体勢になって、わたしのすぐ横に定規を当てた。先生の綺麗な長い髪よりもずっと小さなわたしのことを大きな瞳で見つめてくる。
「5.6センチ……かな?」
「やった! 去年よりも3ミリも伸びてるわ! 去年のルンよりも大きいわ! このまま大きくなったら、わたしも人間の仲間入りしちゃうかも〜」
わたしは煽るようにして、ルンの近くで小躍りしながら、はしゃいで見せる。
「まあ、今のうちに喜んでおいたらいいわ。5.6センチなんて、わたしが簡単に超えてあげるから」
ルンがクールに言い放ってから、床に顎を乗せて極限まで姿勢を低くしている保健の先生の元に向かう。そして、あっさり伝えられる。
「5.5センチね」
「ちょ、ちょっと待って! 絶対そんなことないって! わたしもっと大きいから!」
ルンが保健の先生のことを見上げた。顎を床につけている状態の先生を見上げるくらい小さなわたしたちにとっては1ミリの差も結構大きいのだ。
「ううん、間違いなく5.5センチよ。諦めなさい」
「絶対違いますって」
「次の子が待ってるから、早くしてもらえるかしら?」
にこやかな笑みを向けるけれど、どこか冷たい声で言い放たれる。巨大な先生の圧が怖くて、ルンは慌ててわたしの方に戻ってくるのだった。
結果がわかって、わたしはウキウキ気分でルンのいる方へと向かう。
「やーい、ルンの手乗りサイズー! ちびー!」
まあ、わたしも手乗りサイズには変わりないけれど。それでもルンよりも大きい。揶揄いながらギュッと後ろから抱きついてやったら、ルンがわたしを振り払う。
「こんなの嘘よ! わたしの方が絶対大きいわ!」
「でもでも〜、計測結果が全てだし〜」
ププっと笑うと、ルンが顔を赤くして頬を膨らませた。
「違うわ! あんたの方が絶対チビだって!」
「あはは、負け惜しみだ〜」
ルンの真正面に移動して、顔を指差して笑っていると、突然ドンっと思いっきり床を踏み締める音がした。
わたしもルンも体が数センチ浮き上がり、そのまま尻餅をついた。わたしたちのすぐそばにトラックみたいに大きな上履きが踏み下ろされていた。座ったまま、慌てて2人で身を寄せ合いながら、体を抱きしめ合って、震えながら上を見上げる。同じクラスの人間である美羽がわたしたちを見下ろしていた。
「さっきからつまんないこと言ってはしゃいで鬱陶しいんだけど?」
美羽がフンっと鼻を鳴らしてから、わたしたちの上に上履きをかざしてくる。彼女の22.5と数字の書かれた上履きが簡単にわたしたちのことを影に覆ってしまう。
「や、やめてよ美羽。踏み潰したら停学だよ? 中学行けなくなるよ……?」
踏み潰されたところで停学で済んでしまうから、小人の立場はとても弱い。美羽はわたしの言葉を聞いて、ため息をつきつつも、そのままわたしたち2人を跨いで歩き出した。一応、停学という言葉は脅しとして通用するらしい。
「クラスメイトを本気で踏み潰すわけないでしょ? でも、そんなどんぐりの背比べの勝負ではしゃがれたら鬱陶しいからやめて」
そのまま美羽が、大きな身長測定器に登った。それと同時に保健の先生が立ち上がったから、わたしたちは風圧で後ろに転がってしまった。彼女たちの些細な動きは5センチちょっとの小さな2人に大きな影響を与えてしまう。
「もうちょっと静かに立ってほしいよね」とルンに耳打ちをしたら、ルンも頷いてくれた。
「143.2センチね」
「2ミリしか伸びてないなんて嘘よ! 絶対もっと伸びてるわ」
そういえば美羽はクラスの人間の中で一番背が低いんだっけ。だからさっきはあんなにもわたしたちが背の高さではしゃいでいたら怒っていたのか。
「1センチも伸びたらすごいのにね」
ルンがため息をついた。
「そうだね」
わたしたちの1センチは美羽たちにとって30センチ伸びるみたいなもんだから、激変である。計測を終えた美羽が頬を膨らませたままわたしたちのそばでしゃがむ。勢いよくしゃがんできたから、またコロコロと転がってしまう。
「ねえ、立ったり座ったりするときは気をつけてよ……」
わたしもルンも呆れながら美羽に言った。
「うっさいうっさい!」とムッとした調子でわたしたちのことを摘み上げてから、手のひらに乗せる。
「教室戻るわよ!」
美羽はムッとしたまま手のひらにわたしたちを乗せて歩き出したのだった。小人の中で一番背の高いはずのわたしとルンは、人間の中で一番小さな美羽の手のひらにあっさり収まってしまっているのだった。




