生贄の少女の復讐
「私の命を捧げます」
「そうか」
「その代わり、祖国を滅ぼして欲しいのです」
「ふはははははは!これは傑作だな!我に生贄として差し出した娘の手によって、国一つが滅ぶか!」
「…だって、あの人達私のことを人間とすら思っていないんですもの」
生贄の少女の言葉に、魔王はにんまりと笑う。
「そうだな。そうだろうとも。そうでなければ我に差し出したりせぬ」
「で、滅ぼしてくださいます?」
「もちろんだとも。その代わり…」
「はい、私の命を捧げます」
「いや、我の嫁になれ」
生贄の少女は、魔王の言葉に目を見開いた。
「え」
「お前は面白い。寿命が尽きるまでそばに置いてやる」
「そ、そうですか…」
若干引き気味の生贄の少女だが、魔王は気にしない。
「さあ、契約印を」
「はい、魔王様」
そうして生贄の少女は、正式に魔王の妻となった。
「約束を守ってくださってありがとうございます、魔王様」
「うむ」
結局。生贄の少女を魔王に差し出した国は滅びた。彼女を国にやった元家族も、彼女を見捨てた元友人も、そして彼女を差し出した王家も。
「彼らの悲惨な最期を看取ることが出来て、よかったです」
「我も花嫁が喜んでくれてよかった」
魔王は生贄の少女がすっかり気に入ったらしく、とても可愛がっている。
あまり愛というものに縁がなかった生贄の少女にとっては、こんなにも甘やかされるのは初めての経験だった。
「さあ、我が妻よ。この国は全て我らのもの。お前は次に何を望む?」
「うーん」
次に、といってももう生贄の少女の復讐は果たされた。他に望むことはない。
「なら…」
「うむ」
「お花をたくさん咲かせませんか」
「花?」
「そして、その花畑の中で二人でゆっくりとお昼寝なんて素敵だと思うのです」
生贄の少女のささやかな願いに、魔王は気を良くした。
「そなたがそれを望むのなら、叶えよう」
「ありがとうございます、魔王様」
そして生贄の少女は自分の家のあった場所を花畑に変えてもらい、そこで魔王に腕枕してもらいそっと目を閉じた。
「魔王様」
「ああ」
「私、人生で今が一番幸せかもしれません」
「我のそばにいればもっと幸せにしてやる」
魔王は生贄の少女にそっと口付ける。生贄の少女はそんな魔王に抱きついて、しばらく離れなかった。