8月31日
カズヤ:(M)目を覚ますと辺りは夜だった。あんなにうるさかった虫の鳴き声も落ち着いている
カズヤ:今…何時だ…?とりあえずナースコールは…
テルミ:今は8月31日の午後7時だよ
カズヤ:えっ…?
カズヤ:(M)暗闇に少し目が慣れたのか声の主をはっきりと理解する。目の前には浴衣を来たテルミが座っていた
テルミ:約束…守ってくれてありがとう…花火、一緒に見よう?
カズヤ:覚えててくれたのか…?ってか面会時間終わってるよな…?
テルミ:もちろん!だって最初に約束したのは私だし!今日だけ特別に許可貰っておいたの!
カズヤ:そうだったのか…でも…今から向かっても間に合わな…
大きな打ち上げ花火が上がり室内を一瞬照らす
テルミ:ここからよく見えるんだって。今ベッド起こすね
輝美は手元のリモコンでベッドを起こす
テルミ:どう?見える?キレイだね…
カズヤ:あぁ…キレイだ…
一際大きな花火が上がり輝美は少し驚く
テルミ:きゃっ、花火ってキレイだけど、ビックリしちゃうよねー
カズヤ:テルミー?ビビってるのー?
テルミ:べ、別にビビってないし!ちょっと驚いただけだし!
カズヤ:ふーん?じゃあ俺の服のスソ離してもらえるかな?
テルミ:ち、違うから!花火が散っちゃうのが切ないなぁって思って掴んでただけだもん!
カズヤ:(M)そんな目を輝かせるテルミを見ながら考えてしまう…『花火はどうして美しい?』と
カズヤ:なぁ、テルミ?
テルミ:どうしたのカズくん?
カズヤ:花火はどうして美しいと思う?
テルミ:簡単よ。花火は夜空に咲くから美しいんだよ!
カズヤ:ふーん、俺は夜空に散るから美しいって思ってるけどー?
テルミ:もー!そんな事言わないでよー!でもカズくんって意外とロマンチストなんだね!
カズヤ:そうか?ただひねくれてるだけだと思うけどな?
カズヤ:(M)正直その答えを聞けて安心した。これで決断出来そうだ
テルミ:でも一緒に見てるからキレイなんだよ!…この時間がずっと続けば良いのに…
カズヤ:テルミ…よく聞いてくれ。俺たち…
花火が上がり如矢の声をかき消す、だが輝美には聞こえていた
テルミ:え…?なんで…?イヤだよ…
カズヤ:何でこんな俺と一緒に居てくれるんだ?いつ死ぬかも分からない男といて楽しいのか?
カズヤ:(M)テルミ…キミという灯りは眩しすぎる
テルミ:楽しいに決まってるよ!カズくんだからそばに居たいって思ってるんだよ!
カズヤ:ふーん、そう言って優しくしてる自分に陶酔してるんじゃないのか?
カズヤ:(M)テルミ…キミという温もりは優しすぎる
テルミ:そんな事ない!私は一生カズくんのそばに居たいよ!カズくんが笑ってくれるなら私何でもするよ…っ!
カズヤ:何でも?なら俺の病気を治してくれ!脚を、身体を自由に動かせるようにしてくれ!
テルミ:そ、そんなコト出来るなら…何でもしてるよ…
カズヤ:(M)テルミ…キミという存在は大きすぎる。だから…
カズヤ:俺たちはこれで終わり
テルミ:カズくん…本心で言ってるの…?カズくんらしくないよ…こんな形で別れたくないよ…
カズヤ:そうか?俺はこんなもんだぜ?ほら、さっさと他の男でも見付けな
テルミ:そんな事…出来ないよ…私…カズくんの理想の彼女になる。だから本当の理由を教えて…やっぱり病気が原因なの…?
カズヤ:違う。俺の病気が原因じゃない
テルミ:じゃあどうして…?
カズヤ:…簡単だよ。ただの価値観の違い。だからこれ以上…。…!?
突然カズヤは胸を抑えもがき苦しむ
テルミ:カズくん…?
カズヤ:…かはっ、む、胸が苦しい…!
テルミ:カズくん!?どうしたの!?だ、誰か早く来てください!
輝美は何度もナースコールを押し続けた