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お母さんのお手伝いは将来意外と役に立つ。


「ちょっと待て、タノルよ。母上が薪の補充とはどういう事だ?」

「父ちゃんが冬の間は、北の農家に出稼ぎに行ってるんだよ。春前に戻ってきて、春になったら染め物の草とか花とかを畑で育てて、夏が終わる頃に、北の農家が忙しくなるからそっちに行くんだ」

「この町に男性が少ないのは、そういう事なのか……」

「もうすぐ雪が降るから、冬の植物育ててるおうち以外の父ちゃんは、出稼ぎにいってるんだ」


 この町の男たちは出稼ぎによって、冬の間の収入を賄うらしい。半月後には雪が降り閉ざされがちになるが、植物製品目当てに細々と客が来るのと、冬支度を行ない保存食を沢山作るので、雪の間はなんとか凌ぐらしい。


「ならば、尚更母上の手伝いが出来ねばなるまい?」

「う……うん」

「これから体も大きくなるにつれて、力もついてくる。そうなると、母上や町の人を助けてやれるのだぞ。今のうちから家事を学んで、勉学に励めば、その知識と知恵が土台となりできる事が増えるのだ」


 ゼランローンズが優しく諭す。

 少年は今まで強くなることばかりで、他は疎かにしていた事を指摘されても、逆ギレせずにきちんと頷きながら聞いてくれる。


「出来ないことリストを作って、できるようになった物を紙に書いていけばいい。出来るようになった、の判断は母親にしてもらってな」


 いろんなアドバイスを受けて大きく頷く少年。


「おれにも出来るのは、井戸の水汲んで水瓶にいれることだから、それからやってみる!」

「水を汲むのも、こぼさないように運ぶのも体力が必要になるし、続ければ体も丈夫になる。生活の中に体を鍛える事ができる物は沢山あるのだぞ」


 そう言われて家事を覚える気になった、少年は帰っていった。

 ゼランローンズと月華も、宿に戻り一休みして、町を出る準備をしようと、いう話になり、2人は宿に戻って行った。


 宿に戻ると楓とアレクライトはすでに起きていて、身支度も済ませてあった。


「なんで何処にいても、朝トレしてんだよ!」


 早速のツッコミだ。最早無駄であるが突っ込まずにはいられないのだろう。とはいえ、服と肌に浄化を手早く掛けるあたり、面倒見の良さはある。


「アレクこそトレーニングをサボっているのではないか? いざという時動けなくなっては、最強騎士が名折れするぞ?」


 ゼランローンズが珍しく言葉を返す。


「オレは最強騎士ってわけじゃねぇって。力じゃお前に敵わないんだしな」

「ならば」

「過分な筋トレはしないよ! パワータイプじゃないからな!」


 そんなやりとりも、いつもの風景のように馴染んでしまっている、楓と月華はやれやれと肩を竦める。


———カンカンカンカン

 金属と金属の接触音が、高く鳴り響く。


 朝を知らせる鐘の音にしては、急いでるような音だな、と思って月華は窓を開けて、町の様子を見ると慌ただしく町人が動き出してる。


「お客さん! 魔物がきてるから宿から出ないでよ!」


 女将さんが大声で言い回ってる。

 アレクライトがドアを開けて、女将さんの姿を捉え、声を掛ける。


「今の鐘の音は、魔物の襲来の合図ですか?」

「そうさ、たまに来る魔物は、町の男どもが追っ払うんだけど……出稼ぎにかなりの人数が町から出ちまってるから」


 アレクライトは剣を持ち、ゼランローンズは弓を持った。


「魔物ならば相手をした事がある、我らも助力しよう」

「ホントかい?! たすかるよ! 南側からきてるから無理しない範囲で頼むよ!」


 女将さんは2人にお礼を言いながら、魔物の位置を教えてくれる。


「カエデ、此処にいてね。何かあったら『飛ばして』」


 念話で知らせて、とアレクライトは言うので楓は頷く。

 楓が見た魔物は、事切れた金属の鯨と、スカイサーペントにドリルウサギだけだ。

 未だ魔物の脅威に実感が湧かないけども、自分が行っては足手纏いだということはわかってる。


「気をつけてね」

「あぁ、念の為鍵を掛けておいて。ノックがあっても出ないように。オレらが帰ってきたら『飛ばす』から」


 用心を重ねておけば安心度は上がる。合図は念話で行えば確実だ。3人を見送って楓は鍵を閉める。


「ん?」


 部屋に自分1人という事に気づいて、月華がちゃっかり魔物討伐に便乗していた事に、楓は呆れが出た。



「え?! あ? ツキカ! おまっ!?」


 走りながら月華に気づいたアレクライトが、目を見開く。


「そろそろ実戦も、と思っていたので、丁度良い」


 ゼランローンズがしれっと言う言葉に、アレクライトは彼を驚いた目で見る。

 日々のトレーニングは、実戦のための練習って、どう言う事が起きてるの?! この人は稀人だよ?! と思いながらも、足を進め、町人が集まってる場所に着いた。


「魔物は? 規模は?!」


 アレクライトは町人に聞くと、見張り台にいた人によると、魔物は赤い大きな猪が2頭だとの事。町に突進してくれば被害は大きくなってしまうので、追い払うとの事だ。

 倒せるだけの人数がいないので、追い払う事を優先するそうだ。


「なら討伐しちゃおうか」


 アレクライトは軽い口調で町人に言う。

 町人はポカンと口を開け、アレクライトを見つめたままだ。

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