墓参りは生者の自己満足
そして、箱の下に本があるのをゼランローンズが見つけて、月華に渡した。
月華はその本をパラリとめくると、魔法陣が書かれてある。
今度は父の文字で隠したりなどはなく、白い紙に黒いインクで陣が描かれており、離れたりせずとも、そのままの位置で見える陣が書いてある。
母の美しい字で魔法の効果、魔法陣に注ぐ魔力量が書いてある。
「『応用編:火炎放射器』『応用編:浄化魔法でお風呂上がり気分』『応用編:夏の暑さや紫外線も怖くない』」
パラパラとページをめくっていくと、タイトルが記されている。
「これ、複合魔法……だ」
火炎放射器は火と風、浄化魔法で〜〜は浄化魔法と火、風。夏の暑さ〜〜は、防御魔法に風、水、氷の魔法を同時使用する。
全員で本を覗き込む。
属性が増えれば増えるほど、陣は複雑になり、使用魔力量が増えて、魔力を注ぐ時間が短くなっている。
「『実践編:嫌味な王族だって一瞬で頭と体が分離』……なんつータイトルつけてるんだ……魅力的なタイトルだが」
その効果は、風の刃を圧縮した魔力を爆発させて、刃の速度を音速以上に飛ばし、一瞬で対象を切り裂くもの。
「ツキカのご両親は、魔法陣を自在に操れる人だったのか……?」
「そんな感じよね……」
次々に出てくる魔法陣に、アレクライトは感心しながら口を開くと、楓も同意する。
首を傾げながらゼランローンズは唸る。
「うーむ……全く原理がわからん……」
「理論はわかったよ、これ」
「「「は?」」」
月華は、今までの魔法陣を見て、何となく予想はついていたので、あくまでも予想と前置きして説明する。
魔法陣には、規定の形が定められていて、図形で属性を表し、角度と位置で魔力量と威力が決まり、補助線で属性同士を繋いで記号にて方向性を定める。
補助線と記号が重なって、図形に見えてる部分があるので騙されやすく、計算もあるので面倒になって廃れた気がする、と月華は分析した。
本の最後5ページに、母が割り出した計算式と、法則が記されていた。
魔法陣による魔導具作成を行えば、恒久的に動くのだろうか……とアレクライトが呟くと、ゼランローンズが頷く。
現に、形見の品が入っていた箱は千年以上前に作られた物だ。
1番最後のページに書いてある文字を、楓はまじまじと眺める。
——お金に困ったら、この魔法陣の法則を小出しに売りなさい。
あの人腐れ王族以外になら、誰であっても構いません。
隣国に売るのも、大金を得る事が出来るかもしれないので、世界の情勢を見ながら、お金に換えなさい。
世の中金だ(父の汚い字)
「大和撫子……流石抜かり無しなのね……」
「母様はとても強かだった……」
異世界に来る事など無さそうな感じではあるが、もし来たらのために、金になるものまで残す。
日本語でのメッセージは、楓と月華で噛み締める。
――お金は大事!
異世界にて、もし娘が来たら、と様々な物を残す彼女の行動に、ゼランローンズとアレクライトは母の愛だな、と頷いてる。
そして、シェリッティア家の人たちが、今までお墓を守っていてくれた事に、月華は深々と頭を下げて礼を言う。
「シェリッティア家の自己満足として、墓を残させてくれ」
壊した石を直して欲しいと、ゼランローンズに言われて、月華は頷き、墓石を直した。
楓は直った墓石の前で、膝をつき、手を合わせる。
「私も自己満足だから」
そう言って、花を添えて彼女は笑う。
「月華に支えて貰ってます。素敵なお嬢さんに巡りあわせてくださり、ありがとうございます。ちょっと無鉄砲なところがあるので、見守ってください」
アレクライトも花を添えて、左手を右胸に当てて一礼する。
最後にゼランローンズも花束を置き片膝をつき、左手を右胸に当てて礼をする。
楓もアレクライトもゼランローンズも、手向の花を贈り、弔いの意を示す。
その気持ちが何と言うものなのか、月華は答えが出なかったが、改めて3人へ深々と頭を垂れて礼を口にする。
「そう言えば、癒しの魔女殿は夫と、肖像画を残しておられたな……。記録によると……」
ゼランローンズが顎に手を当てて、ふと思い出したように口走る。
「「「え?!」」」
他の3人が驚き、ゼランローンズを見た後、楓と月華がアレクライトに視線を向ける。何故お前まで驚く……という感想の目を込めて。
「え、オレだって初耳だよ?!」
「俺自身も見た事はない。たしか資料保管庫の奥に、描く許可の取れた方々のみだが肖像画があったはずだ」
「何で?! 見た事ないってどうして?!!」
アレクライトが詰め寄る。聖女や稀人を大事にする人たちなら、見ておきたい物だろうか? と楓と月華が"推しの姿を拝みたいヲタク"とアレクライトを重ねる。
「父上が、先入観で聖女や稀人を見ないように、惑星直列が終わるまで見せない、と幼き頃に言われてな。今思い出した」
帰ったら見てみよう、となって全員墓を後にする。
月華は後ろを振り返り、墓石を見た後、空を見上げて誰にも聞こえない声で言葉を落とす。
「素敵な人たちでしょ、父様、母様。そんな彼らに逢えたわたしはとても幸運なようです。だから安心してください」
空に向かって笑顔を向けた後、いつもの表情にもどりみんなの後を追った。




