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待って〜〜な〜〜!


 冬の街道を雪飛沫が舞い、荒々しく駆けるのは、ゼランローズの愛馬ローゼリア。その横をあねごが4つ足で駆ける。


『ローゼリアって、早いんだね!!』

『ありがとう。これでも余力を残しておるから、消耗し切ることはないぞ』


 あねごは、ローゼリアにも言語共通化魔法を掛けた。彼の背にいるゼランローズもその声が聞こえている。


「(こんなに早く走るんだな、ローゼリアって)」

「(うむ。人や荷を乗せている時に、力一杯走ることはないからな)」


 背に乗っているのは、普通の人間とは違い頑丈なため、遠慮なく走る馬ともふ。

 普段の旅装とは異なり、ゴーグルを身につけ、マフラーでその下を覆い、ファーのついたフード付きのコートで寒さから守る格好をしている脳筋ふたり。

 普段ならば、このような暖かさ重視の格好はしないのだが、全力で駆ける馬ともふにより、速度が途轍もないもので寒さを感じるのだ。

 そして、タチが悪いことに、愛馬ともふはちょっとだけ張り合っている。


「あねご、大丈夫か?」

『なんともないよー』


 あねごの背には、鞍のような椅子のようなものが着いている。

 月華はそのまま乗っても平気そうだが、月華よりもあねごへの負担を減らす目的だとアレクライトが言って、馬の鞍を参考にあねごの体への負担をなるべく減らすデザインを、月華と導き出して、座面にクッションを縫い付けた、クローチカ用鞍といったところだろう物を作り上げた。

 その鞍があねごの体へ、変な負担をかけてはいないようで、月華とゼランローズは安心した。


「次の町で休憩しよう」


 ゼランローズの言葉に頷いた駿馬と駿もふは、町が見えてくると速度をきちんと落とす。

 馬の休憩所にローゼリアを預け、あねごは月華の従魔として一緒に町の中に入る。

 朝早くから出発したので、まだ午前中ど真ん中といった時間であるが、あねごは体力を使っているし、寒さに耐えている月華とゼランローズも、体力を消耗しているため、食事を取る。

 魔物可能な飲食店は、事前にゼランローズが全て調べてあるそうで、情報は把握していた。

 いつの間に、とあねごは思ったが、自分が世話になる以前から、ヘビ太・カラ助がいたので情報を得る時間はたくさんあったな、と自分の中で納得していた。


「個室で食事が取れるので、人目は気にせず食べられるぞ」

『よかったぁ……』


 カトラリーを使用してご飯を食べる魔物というのは、注目を浴びるだろうし、かといって、床にお皿が置かれた状態で、ご飯を食べて欲しくない月華とゼランローズ。個室があって安心する。

 ゆっくりくつろぎながら、体を休め暖めた。



 また出発して、お昼を過ぎるころ、休憩に立ち寄れそうな村が見えたあたりだか、通過予定である。

 ようやく、ヘビ太とカラ助が追いついた。


「(ツーキーカーちゃーん、待って〜〜な〜〜!!)」


 魔素会話が届いて、月華とゼランローズがびっくりする。

 あねごとローゼリアに速度を落としてもらい、ゆっくり止まってくれた間にヘビ太とカラ助が追いついてきた。


「どうしたよ、一体……?」

「なんか、ゼラのおとんが倒れたの、マジのマジらしいで」

「なぬ?!」


 そして、ヘビ太がお手紙について話をすると、ゼランローズはため息を落とした。


「無視される可能性もあったろうに……」

「そこでゼラのおかんが、お手紙書いたっちゅー感じやろ」


 ゼランローズの顔に焦りが浮かぶも、カラ助が懐に飛び込んでスリスリ体を擦り付けて慰める。


「倒れたのマジだったとはいえ、原因はなんだろうな?」

「うーむ……病であろう、か??」


 病気とは無縁の父を浮かべ、疑問系でしか言葉が出ないゼランローズ。

 しかし、人間は万能ではないのだ。知らず知らずのうちに病魔に蝕まれるなど、よく聞く話でもある。


「ま、なるべく急いだ方がいいだろうなぁ」

「うむ。仕方あるまいが……」


 病気と聞いても、派手に取り乱すことはなく、気持ち急ぐか。といった程度の変化だった。

 離れて暮らす場合は、死に目に会えずとも仕方がないという気持ちが、当たり前のような感覚ているようだ。

 交通手段を考えるとそうなるのだろうなぁ、と月華はほんのり納得する。


 元々さっさと済ませるために、急ぎ気味で向かっているので、行程はそれなりに早い状態である。


「ちゅーか、思ってたより先に行っとんなあ」

「ローゼリアもあねごも、はえーんだ。走れば走るほど元気になってる感じで」

「思いっきり走れて、ロゼりんは嬉しいんやろな……。お顔ツヤッツヤしとるで」


 あねごが頬を膨らませて、カラ助を眺めている。

 睨んでいるわけではなく、眺めているのだ。その視線に気づいたカラ助だが、どういうことかわからずコテンと首を倒す。


『あんだけ、目一杯走ったのに、カラ助が追いついてきたなんて……』

『うむ、某もその点が、やや不服である』


 カラ助は首をプルプル振って、ジェスチャー会話を始める。

 あねごはふんふんと頷きながら聞いているが、ローゼリアはわからないので、ブルルっと鼻を鳴らす。


『午前中の真ん中あたりには、追いつくと思っていたんだってさ。追いつかないし、道にローゼリアとあたしの足跡はあるし、ビックリしながら飛んできたってさ』


 カラ助ジェスチャーを、ローゼリアに伝えるあねご。

 ヘビ太とふたり、まだ追いつかない、そろそろだろ、いない。を繰り返してきたそうだ。

 カラ助とヘビ太をびっくりさせる速度で走ってきたことに、あねごとローゼリアは、ほのかにドヤ顔を浮かべた。

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