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飲み比べの裏事情

※全員ばっちり成人済みです。ピカピカの新成人などとっくに過ぎています。


「ちなみに、接待飲み比べ?」

「いや、ガチンコだ。前の話では、メイド長が勝者となった」


 アレクライトに細々と確認して、月華は席に向き直る。

 楓も聞いていたので仕方ない、と席につく。

 白ワインの様な透明だが、すこし黄色がかったお酒が置かれる。一口舐めてみると、度数の強いお酒にあるビリビリ感はなく、フルーティでのみやすい。

 楓の好みの味で、半分は味わいながら飲む。

 隣の月華は一気に飲み干す。

 飲み比べに負けまいと、メイドたちはガンガン飲んでいく。そして1番先に夫人がギブアップした。


「こんなお酒、普段絶対飲まないわ……」


 口当たりが良く、上品でおそらく上等な物と思われるお酒に、楓は味わいながらも、ペースが早くなっていく。


「……カエデ……ペース早くない? 大丈夫?」


 アレクライトが声をかけるが、楓はニコリと微笑んでなんともない事を伝え、また酒を飲み、ほぅっと感嘆を漏らす。甘めのお酒は、アルコールの苦さを忘れて、グングンすすむ。


「………………………」


 月華は無言でひたすら飲んでいる。

 ひとりひとりと潰れてく中、まったく顔色が変わらない。


「お強いんですね、カエデ様、ツキカ様」


 メイド長も酒を煽りながら、潰れて行くメイド達を見てる。


「おかまいなく……」

「美味しくて美味しくて、止まらないんですぅ!」


 楓の声がワントーン高くなる。月華の眉間にシワが寄る。酔っ払い再びだ。

 酔うと口が軽くなる楓を警戒した月華は、アレクライトに楓を警戒するよう、目で合図する。


「カエデ、一旦お酒以外のものをいれよう?」

「えー? お酒おいしいよぉ?」

「お酒が美味しくなるおつまみが、向こうにあるからさ!」

「ほんとぉ? どこー?」


 楓は食べ物が置いてあるエリアへ移動した。ほっと一安心して月華は再び酒を飲む。この時点で楓は脱落だ。

 楓にとっては飲み比べ勝負ではなく、ただただ、酒を飲んでいただけだが。


「メイド長やっぱつえーなー。メイド長に賭けといてよかったー!」

「ひひっ、ゼランローンズ様の負けっすね。こりゃ」

「何を言っておるか。まだ勝負は見えてなかろう」


 そんな雑音が聞こえてくる。

――クマ野郎! お前も賭けに参加してたのか!

 と思いながら、ひたすら月華は飲む。


「若い子が無理しちゃダメよ〜、体を大事にしなきゃ」


 メイド長が、ちょっとフワフワした口調になっている。厳しそうな顔つきは、お酒で緩んでる。

 月華は普段のメイド長の顔など覚えてないので、まったく気にならないが、周りがちょっとザワザワしてる。


「なるほど、そういう事なのか……」


 月華が納得したように呟くのは、メイド長にしか聞こえない。


「おや? 気付かれました? フフッ」


 メイド長がニコリと笑いながら、一口お酒を飲む。


「王都から離れたこの町は、出会いがあまり無いのよね。東の国境から魔物が入ってくるから、人々もあまり居つかないぶん尚更よ」

「んで、飲みつぶれた女たちを、野郎が介抱して……仲良くなって、交際始めるかも的な感じか」

「そ。だからワタシが、潰れるわけにはいかないのよ」


 月華は、少し離れたところにいる楓をチラリと見ると、アレクライトと楽しく喋ってる。

 ほかのメイドさんたちも、男たちが甲斐甲斐しく介抱してる。

 持ち直したメイドは、お礼を言いつつ介抱してくれた人と仲良くおしゃべりしてるようだ。

 意図は理解したが、月華は困ったように口をへの字にする。


「んじゃ、潰れてもらいますね」

「へっ?!」


 強い酒を持ってきてもらい、あたりは一層盛り上がる。

 メイド長はコメカミをひくつかせながら、グラスに注がれる酒を見つめる。


「月華ホントにお酒強いのね〜。あの子最強じゃない〜?」


 楓は笑いながら月華の様子を見ている。今日は笑い上戸のようだ。

 アレクライトはうっかり暴露を防ぐために、月華から興味を逸らす話題を必死に考える。


「そういや、テラリウムの事なんだけどさ」

「うん? 多肉かあいいよね。ぷにににーってしてそうな見た目で花っぽくて〜」


 語彙がおかしい。がっつり酔っ払いをしてる。ふわふわした楓は、へにゃりと笑いながら、サボテンを思い浮かべているのか、更に顔がふにゃふにゃになる。

 余程多肉植物が好きなのだろう。アレクライトは微笑ましい気持ちになりながら、言葉を続ける。


「ここから北西にある町が、珍しい植物沢山あるらしいんだよね」

「なにそれ、気になるっ!」

「なんか噂だけど、カラフルなサボテンがあるらしくて。王都に戻る前に寄ってみよっか?」

「いいの? ありがとうっ!!」


 楓は嬉しさが余って、アレクライトに抱きつく。

 酔っ払いパワーで、ぎゅうぎゅうに抱きしめて頬ずりまでする。

 いつもこれくらい甘えてくれても、いいのにと思いながらも、女性の持つ柔らかい感触を、こっそりしっかりとアレクライトは堪能する。

 ふと視線を感じると、無敵の酒豪とクマが見える。

 視線で"むっつりスケベ"と言ってるような気がする、いやクマの方は確実に、暗号会話で送っている。


 自分から手を出したわけではない、と謎の言い訳を自分に言い聞かせ、楓の髪を撫でて、ちゃっかりスキンシップをとっていた。

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