魔女と魔物の本能。
山の麓に着いたことで、楓の魔力範囲からだいぶ離れたのもあり、あねごはなんとか耐えられる程度に治ったものの、ヘビ太・カラ助・超ちびっこは、月華からまだ離れられないようだ。
『むー!!』
月華の頭にだらーんとへばりつき、頬を膨らませる超ちびっこ。
楓に思う存分くっつきまくる事ができないのはたいそう不満なようで、時折月華にひっついたまま、楓に撫でてもらう状態だ。
『家出して、置かせてもらってるんだから、わがまま言うんじゃないよ? ツキカから引き剥がすよ』
『わー、やめてー!! チクチクは嫌だー!!』
「あだだだ! 髪を引っ張るな!!」
ヘビ太はムズムズで、あねごはかゆかゆ。超ちびっこはチクチクのようだ。そして、カラ助はザワザワらしい。
不満そうな超ちびっこだったが、あねごがチクリと叱ると、超ちびっこは慌てて月華にしがみつく。
「あねご、頭の上にいるときは脅さないでくれ! こいつ爪も立てるから地味に痛い!」
ビックリして反射的に爪が出ちゃうのだから、超ちびっこを叱ることはしないものの、間接的に苦情が入る。
『だーかーらー! ツキカはなんでボクに言わないのー!』
「さっきから爪立てるなって、言ってるっての! 聞いてないだろ!」
超ちびっこはペシペシ叩いて抗議だ。このペシペシは肉球がぽよぽよ当たるので痛くないが、爪を立てられたら月華でも痛いようで、お願いしているのだが、聞き届けてもらえておらず、あねごを介してお願いすると、こうやってちょい不機嫌になる。
楓は、月華にも痛覚があったようで安心した。
「ツキカの治癒の魔法を、辺りにばら撒けば、少しの間離れても平気になるとかは、ないのだろうか?」
「無理だな。なんか、意識してないとすぐ消えるんだよ」
「やはり、魔力硬化樹脂で、魔力が残る者と消える者の差なのだろうか……」
魔物たちが離れられなくても、月華は気にせず食事の支度をする。
月華の服や髪の毛のように、当人にくっ付いているものや生えているモノを持っていれば守られるようで、あねごは邪魔にならない範囲で、月華の毛を持ち、カラ助を抱っこしている。誰かしら月華に触れている者に触っているのでもセーフらしい。
「ちゅーても、ちょーっとだけムズムズはすんねんけどな」
定位置である月華の頭の上を取られて、ちょっと不機嫌なヘビ太。あねごの頭の上にいる。
ムズムズよりチクチクの方が辛かろうと、譲ってあげてはいるのだ。
「私が月華に触って、他のみんなに触れたらどうなのかしら??」
「魔力の質が違うと思われるから、どうなのであろうな……」
ふと、思いついたモノではあるが、あねごより場所を取らず月華の近くに居れる楓。
今は魔力を漏らしていることもないため、魔物たちに触れることだってできる。
その辺りを考えて言ってみるが、効果の見えないものであるため、ゼランローズは顎に手を当てて、色々予想してみる。
が、答えは出ない。
食事の支度が終わった後に、ちょっと実験してみる。
ゼランローズが月華の髪を持って、あねごに触れてみる。すると、あねごは痒いと言った。
アレクライトが同じことをすると、痒みはないという。
「うーむ、やはり魔力にも種類がありそうだな……」
「魔力を上手く扱えるゼラの方が、こどもらへ症状が出なさそうなのにな……」
アレクライトの方が、結果に不満が出ているようだ。
魔力の質が違うと思われるアレクライトとゼランローズ。
こども魔物たちへ現れた結果の違いと、魔力の性質が結びつきそうな結果に、ゼランローズはひとつ何かが進んだような気がして、嬉しくなっていた。
「ま、メシ食うか」
「そうね」
できた食事が冷めないうちに、お皿や器に盛り付ける。
みんなに行き渡り、昼食開始だ。
『むー!!』
食事中、超ちびっこはほっぺたを膨らませる。
あねご、ヘビ太、カラ助は、しっぽで月華に触れて、少し離れたところでご飯を食べている。
月華にピッタリくっついていては、月華も自分も食べづらいからだ。
けれど、超ちびっこは体が小さい分、しっぽも短い。なのでみんなのように、気を使ってちょっとだけ離れることができないのだ。
そんな自分に怒っている。
「いいから気にしないで食えよ」
『やだー! ボクだけピッタリってー!』
胡座をかいている月華の足の隙間に、すぽっと入り込んでいる超ちびっこ。明らかに他のこども魔物たちとは違うので、拗ねている。
「じゃあ、大きくなれるように、今はしっかり食べましょ」
『食べるー!』
楓の言葉を、超ちびっこは素直にきいて、ご飯を再開する。
「なんで、こいつほんとに、わたしにだけ当たりが強いんだよ……」
『それは、ツキカが魔女だからだよ。魔女といるのは魔物にとって、安心できるんだよ、本能的にね』
ヘビ太のお爺さんに訊こうと思っていた事柄だったが、あねごが教えてくれた。
本能と言われてしまうと、それ以上は追求しようがないなぁと納得してしまう月華。
『ちなみに、カエデの言うことを素直に聞くのは、カエデに気に入られたいから。いい子に見せたい意地みたいなヤツさ』
あねごが小声で耳打ちしてくる。月華のことを嫌っているわけではないようだ。
人間も遠慮なく言う相手がいたり、ある人には堅い態度だったり、人によって使い分ける己の顔がある。
魔物同士でもそういうのはあるので、そこは気にしないでほしいと言われる。
ただ、決して欺こうとか陥れようとか、そういう風には思っていないので、安心して欲しいとも言われ、月華は納得する。
「まぁ、あれや。ツキカはえぇ匂いしとるから、魔物は落ち着くねん。落ち着く場所に居たい言う感じや。落ち着く場所で気取る必要はあらへん」
「そーゆーもんかー」
また、魔物に諭されているが、これは人間にはできない内容であるので、アレクライトは素直に耳を傾けていた。




