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靴履きっぱなしって水虫になりそうだよね。


 ゼランローンズは月華の手を取り、まじまじと見つめる。

 時折、指を撫でてみたり。

 だが、甘い雰囲気ではなく観察だ。

 決して華奢とは言えない、女性にしては大きい、弟と同じくらいの大きさの手を見つめてるところに、部屋の扉からノックが響き、音に応える前にドアが開く。


「カエデ倒れたってどういうことよー!!!」


 おネェが帰ってきた。

 メイドたちは楓用に用意した部屋を、ディジニールに伝えなかった。飛び込んで騒ぐのが目に見えてる。

 なのでゼランローンズの部屋に飛び込んできた。


「あら? ごめんなさい、お邪魔しちゃったかしらぁ?」

「あぁ、うん。うん。すっげー邪魔された」


 月華は軽く返して、楓のところには案内をしない旨を伝える。

 おネェは、すかさず食らいついてくるが、熱の出てる人間のとこに、騒がしい奴は連れて行かないと突っぱねた。

 世話に関しては、メイドさんが慣れてるだろうし、自分たちが行ったところで、楓とメイドさんの負担になるだけ。

 楓が休める環境を整えることの方が大事、と説き伏せる。


「ところで姐さん、絹ってあるのか?」

「ん? 何よ、藪から棒に。あるわよ、それが?」

「絹で作った寝間着は、体への負担が少なく、肌触りも良く、寝心地がとてもいいと、聞いた」


 ディジニールは部屋から飛び出していった。ゼランローンズはその光景に唖然とした。


「よくニールを御する事ができるな……」

「勢いがすごいだけで、根は優しいヤツだからな。勢いのせいで見えにくいけど」

「今日会ったばかりだというのに……よくわかるな」

「悪意がある人はよくわかるから、無い人もわかるって事。あの王族親子、特に親の方は悪意と利己主義の塊だ。国民のために国をよくするのではなく、自分の支持を得るために、自分を崇めさせるために、国をよくするってタイプだ」

「ツキカ……ホントによく見てるな……」

「まぁな。王の顔はもう忘れたけどな。……姐さんは尽くしたいって思いが強すぎて、ちょっと困るくらいかな」

「そこはシェリッティア家全員だから、俺からは何とも言えんな。そういえば、ツキカは部屋で靴を脱がなくても、大丈夫なのか?」

「え、脱いでいいなら脱ぎ捨てるよ? 様式として靴履きっぱだよな?」

「あぁ。ツキカの部屋を、靴を脱いで過ごせるように、整えさせよう。異世界人の殆どが、室内で靴を脱ぎたい、と要望を出していたが……ツキカもそうだったか」



 日本での生活はどういうものだったかと、ゼランローンズが聞いてきたので、月華は1週間の自分のスケジュールを伝えた。


 朝早く起きて、日が沈み切ってから帰る生活。

 現場がある日は、日の出前から起きて現場に向かい、早く終われば事務所で図面を描き……割とハードな生活。

 だが、月華はそれが日常なので、何も気にしてなかった。


 ブラックブラックしてたわけじゃない。

 サービス残業やサービス出勤は絶対にしないし、残業代だってきっちり取っていた。

 拘束への対価を求めて上司と戦った結果だ。

 上からかなり嫌味も言われた。人件費が掛かりすぎだと何度も文句を言われたが、払わないなら働かない。

 働かせるなら払え、と至極真っ当な言い分で、嫌味も文句も乗り越えた。


「だからさ——少しだけ休ませてもらえた、って思おうかな、と」


 働き潰した後、仕事を辞めて少ししてから、仕事を探す。そんな気分でいようと思ってることを、ゼランローンズに伝える。


 日が沈んできたのか部屋が暗くなってきたので、ゼランローンズは、部屋の魔導具ランプに魔力を注いで、あかりを灯す。


 魔力がない人は魔石を買い、魔導具にセットして使うらしい。まるで電池のようだ。

 電池と違うのは、魔力のない魔石をお店へ持っていくと、魔力のある魔石を半値で買えるそう。


 魔導具は頑丈に作ってあり、1回買うと滅多に壊れないので、厳選して良いものを買うらしい。

 魔石は魔力操作が出来る人は自分で魔力を注げるので、買えば一生使える。

 充電を繰り返していくと、劣化していく充電池とは、大違いだ。と月華は感心する。


 自分には魔力など無いのだから、魔石代という出費も加わる。

 電気代の代わりではあるだろうが、そういう出費がある事を頭の中のメモに書き留めた。


 そしてまたもや、ノックなしに扉が開いた。

 やはりディジニールかと2人は一瞥して、また話を再開する。


「どーぉ? シルクのネグリジェ! シルクのナイトウェアって発想がないから、これも画期的な商品になるわ!!」

「あー、そうなのか、よかったな」

「アイデア料ツキカに払うんだぞ」


 あっさりさっぱりと言葉を返した。

 言葉をもらったら満足したのか、ディジニールはメイドさんへ、楓の体を拭いた後の着替えによろしくー、と服を渡していた。

 まだまだ作るわよーと意気込んで、視界から消えた。


 夕食まで時間があるので、紅茶とシフォンケーキが運ばれてくる。

 15時半くらいだ。冬は日が沈むのが早い。

 月華は、予定より早く訪れた冬を感じていた。外は大粒の雪が降りだした景色を見て、大粒の雪も、故郷を離れてから見ていなかったことを思い出した。

 少し懐かしい気持ちになりつつ、質の良い茶葉で淹れられた紅茶をすする。

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