強引の強化版はなんて言葉だ?
鐘の音に楓と月華は首を傾げると、ディジニールはお昼を告げる鐘の音だと教えてくれる。
昼を共にする約束をしていないのに、昼時まで居座ってしまった事が気まずくなり、慌てて2人は謝罪をし、帰る旨を伝える。
半分、無理だろうな。という気持ちが混じってはいるが。
「ちょっとお待ちなさい! 実家から戻ってきたら、アンタたちはこの家に住むんだから、帰る場所なんてここに決まってるでしょう?」
「「聞いていない」」
「それに、もうランチの時間だから、一緒に出かけるわよ。美味しいお店に連れてってあげる」
今までのやり取りから、昼食を共にする事はなんとなく予想がついていたが、この家に住むなんて聞いていない。
あとで騎士2人に抗議を入れようと、無言のまま頷き合った。
そして馬車に乗り込み、ディジニールおすすめの店へとたどり着いた。
貴族御用達という雰囲気ではないが、居酒屋や定食屋の様な大衆的雰囲気でもない。
どちらかというと、テレビや雑誌に紹介される、女子向けランチのお店で、入りやすそうな雰囲気でカジュアル感がある。
その奥に、男2人が居心地悪そうに座ってるのを見つけた月華は、ズンズンと突き進んでいった。
男2人が着飾った月華に驚いてる中、彼女は左足を前にしっかりと踏み込んで、右ストレートを繰り出した。
だがその拳はゼランローンズの大きな手に、鈍い音とともに収まってしまった。
眉間にシワを寄せ、盛大な舌打ちを月華は鳴らした。
どう見ても、不機嫌が全面に出ている。
何が起爆剤になるかわからない状況で、言葉を選んでは、捨て、をゼランローンズは頭の中で幾度も繰り返す。
ディジニールがやってきて、男2人に怒鳴りつける。
「アンタたちなんも説明してないの?! 会ってからここに来るまで、何してたのよ!!」
「ニール君、急に彼女たちに詰め込んで説明をしたって、その場の勢いで納得した風に、なってしまうだろう? だから時間をかけて説明を……」
「おだまり! 1から10まで、事細かに説明しなくても、概要くらい伝えなさいよ!」
アレクライトは、ディジニールからの説教をコンコンとくらっている。
お説教を受けてる様子に、月華の溜飲が下がった。
力が少し緩んだのを見計らい、ゼランローンズは自分の隣に月華を座らせる。
「何でゼラには言わないんだ!? オレだけ説教受けるんだ?? 理不尽だろう」
矛先を変えるべく、意見を述べるアレクライトを、ディジニールは一蹴する。
「ゼラちゃん言葉が足りないどころか、言葉がない、のは今に始まった事じゃないでしょ! それを知ったうえで、報告・連絡・相談を怠った、上司の責任じゃないのよ!!」
と、無茶苦茶な言葉をおネェは並べる。
また、説教を再開しようとしたところで、月華が助け舟を送る。
「姐さん、腹減ったー」
「あぁ、そうね。ごめんなさいね、ここのオススメ沢山お食べなさいな!」
異世界人>>>>知人
その構図が見て取れて、思わずおかしくなる。
楓は運ばれてきた紅茶を飲んでクスクス笑う。
紅茶はガラスのポットに入った、ホットのフルーツティーだ。
果物の甘さと、紅茶の温かさで、リラックスできる。
お説教という雑音を横目に、ゼランローンズは、楓と月華へ謝罪の意を述べる。
「本当に言葉が足りず申し訳ない。そしてニールに捕まる可能性を全く考えていなかった……」
「ったく、あんな濃い隠し球持ってるなんてタチ悪いな、クマ兄さんは」
「か、隠していたわけでは……だが、すまない……」
目も合わせず、独り言のように文句が降ってくる様に、しょぼくれた熊再び……と、楓は心の中でナレーションをつける。
ひとまず、この状況を紐解くべく、楓は質問を投げかける。
「ゼランローンズさんたちは、どうしてこちらに?」
「あぁ、片付けや引き継ぎを行っていたら、ニールからの遣いがきて、昼休みになったらこちらへ来いと、言付けを受けてな」
人を使うことに慣れているディジニールは、サクサクと色々な指示を出し、頭の中で予定を組み立てるのが巧い。
お説教は午前中から決まっていた模様だ。
ランチが運ばれてきて、一旦お説教は止まり、丸いテーブルに全員がつき、昼食の時間となる。
ゼランローンズは4〜5人前くらいのデカ盛りで、アレクライトと月華は3人前くらい。
楓とディジニールは1人前だ。
アレクライトとゼランローンズはまだわかる。が、月華だ。
何故その量なのよ! とディジニールは慌てて訊くと、アレクライトは、にこりと笑う。
「昨晩、夕食を共にしたときに、食べる量を見ていたので、適量を頼んであります」
とは言うが、適量と言うのは1人前なのでは? と楓とディジニールは、アイコンタクトで疑問を投げ合う。
ものすごく大量に見える食事を、3人はパクパク食べていく。
下品さは一切なく、見ていて面白いくらいだ。
早食いのように、水でゴボゴボ流し込むわけではなく、ちゃんと咀嚼して、しっかり味わって食べているのが見ていてわかるから、不快な気分にはならないのだろう。
テレビでしか見ることのなかった大食いの光景に、楓は唖然としつつも、何とか自分の分を食べ進める。
デザートを食べつつ、今日の予定をお互い確認しあう。
楓と月華は世話になってる身なので、口を出すのは失礼だと思い黙って聞いてる。
「カエデとツキカが泊まってるところを引き払ったわ。ウチで寝泊りすればいいんだし。ゼラちゃんとアレクちゃんの部屋も用意しとくわね」
「頼んだ、いつも突然で悪いが」
――え、待って? 宿引き払ったって?
――――落ち着け、あのおネェの手回しの速さと、強引ぐマイウェイを考えろ、わりと予想の範疇だ。宿代云々より、近くにいて欲しいっていう、ガチ個人願望だ
――お金がないから拒否することもできない。このもどかしさを解消したいわね……
――――とりあえず、さっきのデザインでアイデア量をもぎ取ろう
――情報はお金になるって事ね?
「なーによ? そんなにアタシから離れたいってのー?」
こそこそ話をしていたが、おネェは遠慮なく割り込んでくる。
アレクライトは笑いながら、さっきの復讐と言わんばかりに口を開いた。
「ニール君の距離の詰め方に、カエデ嬢とツキカさんがドン引きしてるんだよ。オレらと違って、君は強引に、ことを進めるきらいがあるからね」
「ぐっ……そこは認めるわ。稀人の子たちがとっても可愛くて、飾り甲斐あるから、ちょっと、がっついた自覚はあるもの」
「……ディジニール様、そろそろお時間です」
「え?! あ、オーダー受けてたんだったわね……ゼラちゃんが昨日の時点で手紙くれていれば、早馬でキャンセル出したのにっ」
「いいから、キチンと仕事してこい」
ゼランローンズは、シッシッと追い払うように手を振り、弟を送り出す。
引継ぎなしで、さっさと辞めようとした奴が言う台詞か? と、冷たい目を向けられた気がするので、そっと視線を逸らした。




