表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/834

強引の強化版はなんて言葉だ?


 鐘の音に楓と月華は首を傾げると、ディジニールはお昼を告げる鐘の音だと教えてくれる。


 昼を共にする約束をしていないのに、昼時まで居座ってしまった事が気まずくなり、慌てて2人は謝罪をし、帰る旨を伝える。

 半分、無理だろうな。という気持ちが混じってはいるが。


「ちょっとお待ちなさい! 実家から戻ってきたら、アンタたちはこの家に住むんだから、帰る場所なんてここに決まってるでしょう?」

「「聞いていない」」

「それに、もうランチの時間だから、一緒に出かけるわよ。美味しいお店に連れてってあげる」


 今までのやり取りから、昼食を共にする事はなんとなく予想がついていたが、この家に住むなんて聞いていない。

 あとで騎士2人に抗議を入れようと、無言のまま頷き合った。


 そして馬車に乗り込み、ディジニールおすすめの店へとたどり着いた。


 貴族御用達という雰囲気ではないが、居酒屋や定食屋の様な大衆的雰囲気でもない。

 どちらかというと、テレビや雑誌に紹介される、女子向けランチのお店で、入りやすそうな雰囲気でカジュアル感がある。


 その奥に、男2人が居心地悪そうに座ってるのを見つけた月華は、ズンズンと突き進んでいった。


 男2人が着飾った月華に驚いてる中、彼女は左足を前にしっかりと踏み込んで、右ストレートを繰り出した。

 だがその拳はゼランローンズの大きな手に、鈍い音とともに収まってしまった。

 眉間にシワを寄せ、盛大な舌打ちを月華は鳴らした。

 どう見ても、不機嫌が全面に出ている。

 何が起爆剤になるかわからない状況で、言葉を選んでは、捨て、をゼランローンズは頭の中で幾度も繰り返す。


 ディジニールがやってきて、男2人に怒鳴りつける。


「アンタたちなんも説明してないの?! 会ってからここに来るまで、何してたのよ!!」

「ニール君、急に彼女たちに詰め込んで説明をしたって、その場の勢いで納得した風に、なってしまうだろう? だから時間をかけて説明を……」

「おだまり! 1から10まで、事細かに説明しなくても、概要くらい伝えなさいよ!」


 アレクライトは、ディジニールからの説教をコンコンとくらっている。

 お説教を受けてる様子に、月華の溜飲が下がった。

 力が少し緩んだのを見計らい、ゼランローンズは自分の隣に月華を座らせる。


「何でゼラには言わないんだ!? オレだけ説教受けるんだ?? 理不尽だろう」


 矛先を変えるべく、意見を述べるアレクライトを、ディジニールは一蹴する。


「ゼラちゃん言葉が足りないどころか、言葉がない、のは今に始まった事じゃないでしょ! それを知ったうえで、報告・連絡・相談を怠った、上司の責任じゃないのよ!!」


 と、無茶苦茶な言葉をおネェは並べる。

 また、説教を再開しようとしたところで、月華が助け舟を送る。


「姐さん、腹減ったー」

「あぁ、そうね。ごめんなさいね、ここのオススメ沢山お食べなさいな!」


異世界人>>>>知人


 その構図が見て取れて、思わずおかしくなる。

 楓は運ばれてきた紅茶を飲んでクスクス笑う。

 紅茶はガラスのポットに入った、ホットのフルーツティーだ。


 果物の甘さと、紅茶の温かさで、リラックスできる。

 お説教という雑音を横目に、ゼランローンズは、楓と月華へ謝罪の意を述べる。


「本当に言葉が足りず申し訳ない。そしてニールに捕まる可能性を全く考えていなかった……」

「ったく、あんな濃い隠し球持ってるなんてタチ悪いな、クマ兄さんは」

「か、隠していたわけでは……だが、すまない……」


 目も合わせず、独り言のように文句が降ってくる様に、しょぼくれた熊再び……と、楓は心の中でナレーションをつける。

 ひとまず、この状況を紐解くべく、楓は質問を投げかける。


「ゼランローンズさんたちは、どうしてこちらに?」

「あぁ、片付けや引き継ぎを行っていたら、ニールからの遣いがきて、昼休みになったらこちらへ来いと、言付けを受けてな」


 人を使うことに慣れているディジニールは、サクサクと色々な指示を出し、頭の中で予定を組み立てるのが巧い。

 お説教は午前中から決まっていた模様だ。


 ランチが運ばれてきて、一旦お説教は止まり、丸いテーブルに全員がつき、昼食の時間となる。


 ゼランローンズは4〜5人前くらいのデカ盛りで、アレクライトと月華は3人前くらい。

 楓とディジニールは1人前だ。

 アレクライトとゼランローンズはまだわかる。が、月華だ。

 何故その量なのよ! とディジニールは慌てて訊くと、アレクライトは、にこりと笑う。


「昨晩、夕食を共にしたときに、食べる量を見ていたので、適量を頼んであります」


 とは言うが、適量と言うのは1人前なのでは? と楓とディジニールは、アイコンタクトで疑問を投げ合う。


 ものすごく大量に見える食事を、3人はパクパク食べていく。

 下品さは一切なく、見ていて面白いくらいだ。

 早食いのように、水でゴボゴボ流し込むわけではなく、ちゃんと咀嚼して、しっかり味わって食べているのが見ていてわかるから、不快な気分にはならないのだろう。


 テレビでしか見ることのなかった大食いの光景に、楓は唖然としつつも、何とか自分の分を食べ進める。


 デザートを食べつつ、今日の予定をお互い確認しあう。

 楓と月華は世話になってる身なので、口を出すのは失礼だと思い黙って聞いてる。


「カエデとツキカが泊まってるところを引き払ったわ。ウチで寝泊りすればいいんだし。ゼラちゃんとアレクちゃんの部屋も用意しとくわね」

「頼んだ、いつも突然で悪いが」


――え、待って? 宿引き払ったって?

――――落ち着け、あのおネェの手回しの速さと、強引(ごーいん)ぐマイウェイを考えろ、わりと予想の範疇だ。宿代云々より、近くにいて欲しいっていう、ガチ個人願望だ

――お金がないから拒否することもできない。このもどかしさを解消したいわね……

――――とりあえず、さっきのデザインでアイデア量をもぎ取ろう

――情報はお金になるって事ね?


「なーによ? そんなにアタシから離れたいってのー?」


 こそこそ話をしていたが、おネェは遠慮なく割り込んでくる。

 アレクライトは笑いながら、さっきの復讐と言わんばかりに口を開いた。


「ニール君の距離の詰め方に、カエデ嬢とツキカさんがドン引きしてるんだよ。オレらと違って、君は強引に、ことを進めるきらいがあるからね」

「ぐっ……そこは認めるわ。稀人の子たちがとっても可愛くて、飾り甲斐あるから、ちょっと、がっついた自覚はあるもの」

「……ディジニール様、そろそろお時間です」

「え?! あ、オーダー受けてたんだったわね……ゼラちゃんが昨日の時点で手紙くれていれば、早馬でキャンセル出したのにっ」

「いいから、キチンと仕事してこい」


 ゼランローンズは、シッシッと追い払うように手を振り、弟を送り出す。


 引継ぎなしで、さっさと辞めようとした奴が言う台詞か? と、冷たい目を向けられた気がするので、そっと視線を逸らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ