ジュエル
読み飛ばしても大丈夫なやつ。
都内屈指のお嬢様学校に通う巴志野宝石は、大企業の社長である父と、デザイナーの母を持つ。
友人たちの親も、社長であったり、芸能人であったり、有名な人が多い。
そんなお嬢様たちも高校生なので、たまに制服で夜遊びをして、羽目を外す事もある。
テストが終わったし、羽を伸ばしたっていいじゃないか、とグループの誰かが言い出した。
昼前に授業が終わり学校を出て、駅前のモクドナルドでジャンクなランチをする。
味は決して美味しくない。
昨日食べた和牛のステーキの方が美味しい。
モックシェイクとかいう飲み物だってシェフに作らせた方が何倍も美味しい。
だが、友達と買い食いという行為が、味よりも楽しさを膨らませ、気分が高揚する。
美味しくないお昼ごはんを食べた後は、駅前をとりあえずブラブラして、ナンパされてボーリングに行って、友達の2人はそのまま、ナンパしてきた人とまだ遊ぶ、と別れた。
3人になったときに、1人はお迎えの人が来たらしく、帰って行った。
「じゅー、どうするよ?」
「カラオケでもいくー?」
「それなー」
他愛無い会話が続き、カラオケ店へ歩いていると、またナンパに合う。
お嬢様学校ってことで有名だから、街を歩けばナンパが多い。ちょっと世間知らず風に、舌ったらずな口調で甘えると、男はカンタンに奢ってくれる。
ちょろすぎじゃね? って教室だとネタにされてる。
だけど、誰もそれをSNSで発信したりは、しない。
ちょっと本音言っちゃうだけで、すぐ炎上するからだ。
別のお嬢様学校で、過去にそういうことがあったらしく、そこの学校はもう、お嬢様学校認定されなくなっていった。なので母校のブランドイメージを損なう真似は、絶対に誰もしない。
カラオケ店のフリータイムコースで、歌って、食べて、飲んでして、男にボディタッチしてみたり、もたれかかってみたりするだけで、スイーツを注文してくれたりするから、本当にちょろい。
フリータイムが終わって、お腹すいたから帰るね、と伝えると、晩ご飯も奢ってくれる。
遊んで食べて、んで、その後またゲーセン行ったりしてると、すっかり遅くなってしまった。
お嬢様学校の生徒なので、さすがにお持ち帰りされる訳にはいかない。
23時過ぎてしまって面倒な気分ではあるが、帰宅しよう。
――今日はちょろい奴ばっかりだった
気分いいーと友人と笑いながら、駅のホームを歩く。
歩きながらオンスタのチェック、友達へのイイネも忘れずに。
するとジュエルの右肩に、衝撃が走った。
ジュエルが、作業着を着た人にぶつかった事を頭で理解する前に、口が動いてた。
「邪魔なんだけど!」
――なんでそんなところに突っ立ってんのよ、鬱陶しい。
薄汚れた服だし、なんか工事現場にいる荒っぽい人みたいな風態だけど、言い返してこない。怖いのは見た目だけで、中身はただのチキンっぽいわね
勝手に決めつけ、自分がぶつかったくせに、相手からの謝罪を待つ。
その瞬間、目の前にいた怖い顔の女は見えなくなって、変わりに青い髪のイケメンが見えた。
――今日ナンパしてきた奴らなんて、ゴミみたいに見えるレベルのイケメンじゃん!!
即座に思考が切り替わる。
「やりましたぞ、王子! まさに伝承通りのお方です!」
「その白く大きな襟の服を纏ってるということは、其方が伝説の聖女か……よくぞ余の元へ来てくれた!」
――ちょっと何言ってるかわからないけど、あのイケメンがアタシを見て両手を広げてる。微笑みも素敵。フードかぶってるおじいちゃんが、もそもそ喋ってるけどそれより目の前のイケメンを目に焼き付けたい!
「王子、後ろにも誰か居られますが如何致しましょうか?」
「ふん、どうせ巻き込まれたオマケだろう、捨て置け! 聖女を迎えに来たのだ。それ以外はいらぬ!」
――おじいちゃんと打ち合わせが終わったイケメンは、アタシの手を取って優しく笑いかけてくれる。
マジヤバイ、あがるわー!
「こちらです、聖女」
――イケメンの空いていた手が腰にきた! これエスコートじゃん、マジヤバイ
なんかよくわからないけど、石でできた階段を上がったらヤバイ寒さ。イケメンがマントで包んで抱きしめてくれる。
ヤバイこれ、ヤバいイケメンに、ヤバいことされて、マジやばい!
雪道らしくて足元が不安定だけど、イケメンがぴったり寄り添って歩幅を合わせて、小高いところを一緒に降りてくれる。雪ヤバイ、雪ってこんなヤバい状況作り出す?
馬車が目の前にある。
なにこれお姫様扱いヤバイ。馬車にイケメンとなんてオンスタ映えヤバいよね。
イケメンが馬車に乗り込みアタシに向かって手を差し出してくる、ヤバイ。
馬車の中は、フカフカのソファがあったり、奥に寝っ転がれるスペースもある。
外と違ってとっても暖かい。馬車ってこんなふうになってたんだ、初めて乗るけどヤバすぎ!! 上がる!
イケメンの隣に座って馬車が走り出す。
「聖女よ、名を教えてもらえるか?俺はヴォンクルー・イェーザント・ザンディエールだ」
「巴志野 宝石〈ジュエル〉です、えと、名前がジュエルです!」
――たしか英語で名乗るときは、名前が最初で苗字が後だった、そんな事、すっかり忘れてしまうレベルのイケメンが居るんだからやばすぎ! 外人マジやばい!
イケメンがするっと髪を撫でた後、頬に手を添えてニコリと笑う。破壊力ヤバイ!
「やっと逢えた、俺の運命の人よ……」
――イケメンが頬を赤らめてるヤッバ!!!! しかもアタシのこと? 運命の人って!
ヴォンクルーさん?の 顔が近付いてくる! イケメン至近距離!
あ、キスしちゃった! なんか人生で今一番シアワセだわ!
次回も読み飛ばしても大丈夫なやつ




