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備えあれば憂いなし。


 応接間に入り、席につくよう促され着席する。


 壁際にはメイドが数人、ローブを着た人が数人、扉に兵士が2人。窓際にも兵士が2人控えている。


 造りがよいフカフカのソファは、5人くらい横並びで座れそうな長さだ。

 奥――上座に王様、王子、聖女と並びで座っている。


 王の向かいにアレクライトが座り、隣に楓、シロと続いて、ゼランローンズが座る。

 保護対象が逃げ出せない配置な事に、王は内心満足して居たが、実際は女性2人に何かあれば、すぐに庇い、盾になるつもりで彼らは座っていた。

 ついでにシロが暴走したら、物理的に止める役目も影ながら、ゼランローンズが担っている。


 王が立ち上がり頭を下げ出した。


「此度は、愚息により多大な迷惑を被らせてしまって、済まなかった」


 日本人としては、90度に腰を折り「このたびは申し訳ございませんでした!」と言う、謝罪のセリフが聞きたい所ではある。

 やはり王様というだけあって、どこか偉そうな謝罪だ。

 頭を下げる王に、目を見開いた王子は次第に、奥歯をギリっと噛みしめ、シロに向かって怒鳴り散らす。


「貴様! 王に頭を下げさせるなど、無礼、不敬にも程があるぞ、身の程を弁えろ!」

「黙らんか、ヴォンクルー! お前が引き起こした事ぞ!」


 今は王ではなく、父として謝罪をしている最中、それなのに息子が援護()()を行う事に、腹が立ち、一喝する。


「当の誘拐遺棄犯は、反省してないみたいだな?」


 シロは見定めるように、ジッと王子を見る。楓も大きく頷く。

 シロにばかり喋ってもらう訳にもいかない、と楓は口を開く。


 「私たちは元の世界に帰れない。今まで築いてきた殆どのものを、貴方たちに奪われました。家も、仕事も、友達も財産も、奪われたんです。自分がされたらどう思いますか?」


 自分がもしそうなったら……と考えて、王族親子は目を見開いた。

 王族は基本的に望めば与えられる。

 奪われる事などあり得ない立場。

 それ故に自分たちが思うまま、聖女を喚び、平和を求めた。


 喚ばれた人の犠牲は一切頭に無かった。過去の記録にあったとしても、都合よく抜け落ちていた。


 もし、気に留めていたのであれば、喚び出しを安易に行なったりしないだろう。

 そんな中、可愛らしいドレスに身を包んだ少女が、口を開く。


「帰れなくたっていいじゃない。欲しい物はくれるって王子様は言ってたわ! 家族と離ればなれになったけど、どうせいつか家を出て自立するんだし? 学校のつまらない勉強から解放してくれてアタシはありがとうって感じなのよ? 聖女のアタシが満足してるんだから、あんたらが文句言う筋合いないじゃん!」


 顔は可愛らしいくせに、言ってる事は何ひとつ可愛くない。何だ、この傲慢な生き物は……と、向かい側に座る4人は、少女を白い目で見ていた。


「お前が満足とかどうでもいい。勝手に満足してろ。わたしやクロが、困ってるって話だ。すっこんでろ」


 シロによる、遠慮の無い口撃が、傲慢な少女を両断する。

 目の前の少女は顔を真っ赤にして、シロを睨みつける。

 そんな遣り取りに、口は挟みたく無いが、王は口を開く。


「本当にすまなかった。貴女方から、奪ってしまったものを返す事はできぬが、望む物なら、出来る限り与えよう。もちろん、貴女たちを国で保護しよう」


 王は奪った分、補償を行う旨を伝える。

 捨て置けと言わない所まだ、王子よりはましではあるが、ただ"マシ"なだけだ。


「結構だ」

「結構です」


 シロと楓の声が重なる。


「私と、こちらの彼女シロは、元々自分の稼ぎで暮らしていました。親元を離れて尚、誰かに養ってもらうと言うのは、性分として合わないので、此方の世界の環境に慣れ次第、働き自立すると決めています」

「その支援は、スヴァルニー家とシェリッティア家で行いますので、国の手出しは不要です。尽きましては、わたくしとゼランローンズは職を辞しますね」


 アレクライトによる突然の辞職宣言に、王は咄嗟に「ならん!」と声を張り上げた。

 ゼランローンズが厳しい顔つきで王を見て、口を開く。


「隊長や私がいれば、聖女の力がなくとも、平定は問題なく行えた。そして後任の育成も恙無(つつがな)く行い、聖女に頼らず、自分たちが生きる場所を守れるようにと、進言致しましたが、聖女は喚ばれた。つまり私たちは不要、と言う事でしょう?」


 聖女を喚び出してしまう事は、国の平和の為に1人、異世界の人を犠牲にするという事。

 そんなことあってはならないと、以前から伝えていたにも関わらず聖女が喚ばれた。


 聖女が、王の座ってる側にいる事が、王自身、聖女召喚の儀を認めていた証だろう。

 奪う事に躊躇いのない王族へ、愛想が尽きた。


 召喚の儀が行われ、楓とシロが取り残された時点で、2人は騎士を辞めて、王都から出ようと決意してた。


 王は2人の意思が堅いと知るや、溜息を落とし右手を上げた。

 すると、壁際に控えていたローブを着た人が2人、王の後ろに立ち、1人は楓に、もう1人はシロに向かって、言葉を紡ぐ。


《 《汝の名を持って身を絡める糸を紡ぎたまえ! シロ!》クロ!》


 彼女たちの体の周りに、光の紐が浮かび、回転して縮まり、縄のように巻き付き、彼女らを捕縛しようとした所で、光が音を立てて弾け飛ぶ。

 王は保護という名目で、彼女らを人質として捕り、アレクライトとゼランローンズを国に縛ろうとしたが、失敗に終わった。


 名前を呼ぶ事で捕縛する魔法だったが、偽名なので魔法の効果は現れることは無かった。


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