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こっそりデート計画(察してもらえず)


 通りを見ると、まばらに店が出ている。

 国内の商人による飲食店だけが、午前からの営業が許可されている事を、教えてもらいながら歩く。

 無月の祭でのメインは国外の店なのだが、国内であっても遠くから店を出しに来る商人もいる。地方が違えば、特産も異なるので、王都は異国情緒あふれる風景になる。

 それも王都における、無月の祭りの醍醐味だそうだ。


「アレクの故郷である、西の国境付近にも連れていきたい所だが、あちらはとても遠くてな……」

「どちらかと言うと、西の隣国に興味が湧いている」

「故郷の物に類似した物が多いのだから、そうであろうな」


 手に持ってた、食べ歩きのできる串肉やお菓子が、吸い込まれるように消えては、買い求め増えていく。そしてまたすぐ消える。

 2人の食べるペースはとても早い。しかも会話をしながら、いつの間にか食べ物が消えてしまっていた。

 近くを通っていた人が、2度見、3度見するが、そんな事を全く気にせず、2人は食べ歩きを満喫している。


「そういや今日はちっとも寒くないな……。雪も降らないし。ってか、本当に雪がなくなってるし」


 月華は周りの気温・状態にようやく気付く。


「前にアレクが言っていた通りだろう? 無月の間は雪が隠れてしまう。冬の精霊が眠りにつくと言われている」


 昨日まで周りにあった雪がないなら、その話も本当のように感じる。

 雪深い王都から雪が消える。

 実は無月は、王都から出る・王都へ引っ越すのに適している。雪が全て消えるので、移動が容易いのだ。

 出店する商人が短めに期間を申請して、容易に来る・帰る為という人もいるそうだ。




「ホントに寒くないわね……。雪も綺麗さっぱり無くなっているし」


 楓も、冬の精霊が眠っている無月を体感して驚いていた。


「雪が無くなっているけど、無月が終わったら12月の終わりにあったように、元に戻っているよ」


 雪が消えるから、と家の外に物を置いたりすると、1月になって雪の中に埋まってしまう事が多々あるそうだ。

 雪のない地域から引っ越しをしてきた人がやってしまうらしい。


「祭の最終日の夕方以降は、精霊が帰ってくるのに備えて、元に戻すんだ」


 目に見えない精霊の存在は中々信じられはしないが、こんな現象が起きてしまうなら、精霊が居ると信じてしまう。

 まさに異世界……と思うが、そろそろ異世界と思うのをやめないとダメだろう、と楓は思っていた。

 この世界で生きていくのだから、ここがもう自分の世界だろう。

 異世界というのは、地球での事を指した方がいいだろうな、と考えるようになっていた。


 大通りの真ん中である、噴水のあたりまで来た時、空にパパパパン、と花火が上がる。

 日中なので音と煙があるだけだ。


「パレードが始まるみたいだ、横通りに行こうか」


 アレクライトは、さも当然のように、パレードの観覧を避けた。

 花火が鳴ると、大通りの真ん中からサァーっと、人が端側へ避けていく。


 広くなった道の端側を、派手な服を着た騎士が歩いて行く。

 金色の縄のような物を持って、パレード用の馬車が通る道と歩行の道を区切る。3メートル間隔くらいで騎士が縄を持ち噴水まで続く。

 警察や警備員のような役割を持つ、第2騎士団が規制エリアを作っているそうだ。


 急に狭くなった道は、ぎゅうぎゅうに混み合い、路地裏も大通りから逃れた人で溢れ返る。

 アレクライトはそれを見越して、早めに家を出て、食べ歩きをした。

 パレードを見たい人々は、道の端で留まる。そのために人の流れが悪い。


「タイミングはバッチリだったね」


 横通りにすぐ出る事ができて、人の波にのまれる事もなく、スムーズに歩き続ける事ができる位置まで来て、アレクライトは笑顔を楓に向ける。楓もニコリと笑って頷いた。

 次の瞬間、ふっと影ができて、アレクライトの目の前に、何かが降ってきた。


 ゼランローンズと月華だ。

 人混みにのまれる前に屋根に上がり、横通りまで、家々の屋根を飛び渡りやってきたそうだ。


「身体強化ってやっぱすごいな、屋根から屋根にも、屋根から地上への着地も楽々だ」

「心臓に悪いからヤメテ!!」


 屋根を渡るなんて経験のない月華が、テンション高めに言うが、アレクライトの懇願ツッコミが入る。


「な、だから言っただろう。楽しいぞ、と」


 カラカラと笑う大男に、真面目なこいつにも、屋根渡りを楽しむ一面があったのか……とアレクライトにとって新しい発見だった。


「街中で出たスリなどは、路地を縫うように通り抜ける事が多いから、追いかける時、屋根にのぼるとショートカットができて、かなり役に立つ」


 実用的な使い方もきちんと教えるゼランローンズ。

 遊び目的じゃなかった、真面目な理由で屋根に登ってた事に、ガッカリ半分だが、コイツらしいと安心する気持ちも半分あった。


「カエデ、大丈夫?」


 アレクライトが慌てて振り返ると、楓は何事もなかったかのように笑顔で頷いた。


「私は平気よ、だって、上をふと見たら、月華とゼラが飛んできたの見えたから」


 確かに見えていたなら怖くない、驚かない。楓が変にビックリしなかっただけ良しとしよう。とアレクライトは頷いた。


「それでは、俺らは倉庫街に向かうとする」

「ん、わかった」


 ゼランローンズとアレクライトは合流しても、再び別れた。

 今日はデートするのだ、と決めていたから。

 とはいえ、月華はそんな意識してなさそうだな、とアレクライトはゼランローンズに憐れみの目をこっそり送る。


「んー、無月の間は雪がないから、少しさみしい気もするなぁ」


 つい、アレクライトの口から本音が溢れた。

 雪があると楓に腕を組んでもらえる。が、今日の足元は、安全安心なのだ。


「え、アレク、雪そんなに好きじゃないんじゃ?」

「え、あ、あはは……! ほら、白銀の世界ってなんか神秘的でしょ、だから、ね」


 つい漏れ出た本音を、慌てて隠す。楓は雪があまり降らない所にいたから、なんとか誤魔化せるだろうと踏んでる。

 アレクライト自身は、長く根雪が続く風景など、とっくに見飽きているのだ。


「そうね、確かにすごく綺麗だものね」


 誤魔化せた! と、アレクライトは、心の中で盛大に安堵の息を吐く。

 誤魔化さずに、腕を組めないのが寂しい、と言ってドン引きされたくない、自分の情け無さに、ため息も出てしまった。

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