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女性の地位はやはり低かった。


 150年の節目の代にあたる者は、記録を暗記するレベルで読み込み、異界からの来訪者を助ける事に、並々ならぬ使命感があると言う。


 そして、聖女の記録のほか、巻き込まれて一緒に来てしまった者の記録もあるらしい。

 初めて巻き込まれが発生した時は、聖女が複数人いる者として扱われたが、本当に何の力も持たず、目覚めずだったそうだ。


「世界を渡ってきたのに、魔法が使えないなんて役立たず、と罵られ、異界の知識は、ここの文化を刺激するものではなかったのか、求められる事もなく、国が保護する事もなく、民衆のストレスの捌け口として、暴力を、罵詈雑言を、受け世界から消された、と記録にありました」


 後に、国が異界からの来訪者を無能と決めつけ、噂をけしかけて、民衆に葬らせた事が露呈して、王家の威信は地に落ちかけた。

 その後は、異世界から喚んだ人は、聖女であろうと、違う人であろうと、国が保護すると宣言したらしい。


 この話は民衆の間には伝わっていない。

 王族とシェリッティア及びスヴァルニーの家だけに、記録が残っている。


 王子と呼ばれてた、青い髪のドヤ顔男は、保護のホの字すら出さなかったし、捨てろ、と人をゴミのような扱いだった事を、楓は思い出した。

 その事をゼランローンズへ伝えると、彼は渋い顔をして片手で顔を覆い、大きなため息を漏らした。


「あのボンクラは、城にある、極めて僅かな聖女の記録にしか興味を示さず、聖女への盲信的な憧れを持っていた。自分が聖女を保護して妃に迎えて、世の平和をもたらす賢王になると、寝言を吐いてる。王族が受ける教育など、最低限しかこなしていないから、貴女がたを保護する事すら、知らなかった。異界から人を誘拐する行為を肯定し、実行した阿呆には賢王などではなく、愚王が似合いだ」


 昨日聞いたボンクラは、王子の事だったようだ。

 そんな王子が居る国に、保護してもらうのはちょっと……いや、かなり嫌だ。楓は呆れの表情を思わず出してしまう。


 話を色々聞いてみると、ファンタジー的なこの世界は、やはり異世界だった。

 魔法もあるし、人の生活を豊かにする魔導具もある。家電のような生活の便利アイテムが、魔導具と呼ばれる物だ。


 種類を聞いたところ、電子制御の家電みたいな魔導具はない模様。

 電話はない。お掃除ロボットもない。パソコンもインターネットもない。テレビもない。

 時計はアナログでネジ巻き式のみ。魔導具時計は存在してるが、魔力が動力となっているため所持者は多くないらしい。

 冷蔵庫と冷凍庫はあるが、水の上位魔法である、氷の魔法が組み込まれた魔導具らしい。

 ミシンは、足踏み式や手回し式の、アンティークミシンなら存在する。これは魔導具ではないらしい。

 電気の代わりに火・水・風・土の魔法で代用できる家電が、魔導具として存在するようだ。


 ゲームやラノベで出てくる、超便利アイテムや、オーパーツ、という訳ではない。


 この部屋にある暖炉も魔導具のようで、暖炉に火の魔法と、風の魔法と、水の魔法が、組み込まれている。

 薪を燃やすのはアナログな暖炉と一緒だが、火の魔法で火を起こして、風の魔法で部屋に風と暖を送り、水の魔法で部屋の湿度を保つらしい。


「貴方がたの保護を受けた場合の扱いは、どうなりますか?」


――もう、何でも訊いて慣れるしかない。どうせ戻れないなら腹を括ろう。助けてくれると言うなら、乗っかろうじゃないか。

 慣れたら働くけど、それまでは、好意に甘えてしまってもバチは当たらないよ、きっと。


 と、半ばヤケな気持ちになっている楓は、自分にそう言い聞かせて、ゼランローンズへ質問を投げかける。

 彼はふっと優しい笑みを返し口を開く。


「でき得る限り、最大限の支援・補佐を致します。学びたい事、身に付けたい事はお教え致します。伴侶が必要であれば紹介も致します」


「「あ、それはいいです」」


 伴侶のくだりで、楓とシロの声が揃う。ゼランローンズは目を見開き驚いた。


 この世界は男性社会で、働く女性は少なく、男性を支える役目の方が強いようだ。

 女性が街に出て働くのは服飾関係が多く、給金も少なめらしい。

 自立してる女性は少ない。家を出てる人は、仕事場の寮で暮らしてる事が多く、1人暮らしの人は殆ど居ない。


 自立をしたいなら支援はするが、厳しい事を伝えられた。

 シロはふっと笑い眉を上げた。


「野郎よりデキる人って事、証明すればいいんだよ」


――そうよ、シロちゃん! よく言った!


 楓も拳を握りしめて大きく頷く。1人暮らしで自立してた身としては、誰かの世話になり続けるのは心苦しいものだ。


「シロならそこらの騎士や兵士より強いから、可能かも知れんが、厳しいものになるぞ?」

「前いた世界でも似たようなやっかみは、沢山受けたから慣れてるよ」

「え? シロが騎士より強いって、何でわかるんですか?」


 会話に疑問を感じ、言葉を挟んでみると、2人の視線が楓に向かう。

 ゼランローンズが、その疑問に答えてくれた。


「シロと今朝、筋トレや組み手を行った。体幹もしっかりしてるし、うちの騎士団にいれば第3席くらいの強さだろう。久々に骨のある者に会えた」


 楓の事はクロ"嬢"と呼ぶのに対し、シロは呼び捨てだ。

 拳で語らいとやらでもしたのか、昨日より2人の距離が心なしか近い。物理的なものじゃなく、雰囲気的なもので感じるだけだが。

 シロからゼランローンズへの言葉も、昨日のぶっきらぼうな口調ではなく、親しさの混じる、砕けた口調になっている。


――恋の予感ではない。甘い空気じゃない。

 もっと砂糖吐き出すレベルの、甘いのが見たいのに。

 彼らの間には、夕陽をバックに「お前やるじゃねぇか」「フッ……お前こそ」な空気しか見えない!!


 ワクドキ展開がないことに、心の中で楓は肩を落とす。


 ひとまず、この2人の保護を受ける事にしよう。

 楓とシロの意見は合致した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「野郎よりデキる人って事、証明すればいいんだよ」 現代でも、できる人が恵まれているかと言うと、そうでもなく、うまく立ち回る人の方が評価されている場合は、多々ある。ましてや、男性絶対の異世界…
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