ランタンってテンション上がるよね。
小振りなランタンは、ライト部分の大きさがテニスボールくらいのものだ。そこに傘と持ち手、それに台座がついている。高さにして15センチあるかどうか、といった大きさで、童話などの挿絵で見たランプと比べると小さい物に感じる。
蝋燭を入れるにしてもミニ蝋燭くらいしか入らなさそうなランタンだ。ミニ蝋燭くらいならば、明るさも寝室に設置する常夜灯くらいだろう。
「3つだろ? 効果は」
月華が覗き込んで口を挟む。
「本来の魔導具ランタンとしての灯り、そこから安眠・仮眠魔法効果が出る物の3つを盛り込んだアイテムだと思うけど違った?」
「え? 蝋燭を使うんじゃないのか?」
「アレクっちー、魔導具師なんだから、そこは組み込もうよー」
「このランタン、いくつある? 分解用に買いたい!」
「製作者の前で分解って言わないでー、図面あげるからー」
少年のように顔を輝かせてるアレクライトを見て、魔導具が大好きなんだなぁと微笑ましい気持ちに、楓は包まれつつ、ランタンのステンドグラスを選んでる。小さなガラスに細かく綺麗に貼られた見事な細工だ。
橙色系統で彩られた、秋の風景のようなステンドグラスを見つけて手に取ると、アレクライトはユリウスに値段を訊ね、払ってしまう。
「ア、アレク……!」
楓は慌てて返そうと財布を取り出そうとしたが、彼はニコリと笑う。
「ありがとう……」
払う、と人前で言うのは、なんとなくダメだろうなと感じ取った楓は、申し訳なさがありつつも礼を言う。
楓にも買える値段だが、先に出されてしまった……と思うが、何となく心が温かい。そんな気分になった。
「武器ねぇの? この店」
そんな気分を台無しにする、月華の一言が、楓を我に帰す。
可愛い雑貨が多く並んでる中、武器はないだろうと思いながら店内を見回すが、やはり無い。
ユリウスはカウンターに引っ込み、しゃがんでガタゴト音を鳴らし、顔を見せる。
カウンター下の在庫を取り出したようで、手に木箱が握られている。
「使い方わかんないけど、西の隣国から仕入れた武器ならあるよー」
木箱を開けると、棒状の木で出来た長手部分に、短手として持ち手が垂直にくっついてる物が姿を現した。
アレクライトとゼランローンズが首を傾げる中、楓と月華は声を揃える。
「「トンファー!」」
ケータイアプリや漫画、アニメのキャラクターが使う武器で知っているだけだが、その形状は紛れもなくトンファーだ。
「え? カエデも知ってるって事は、故郷でメジャーな武器だったの?!」
アレクライトがビックリして楓の方を見るが、楓は慌てて掌を振って、物語の挿絵で見た物だと伝える。
月華がトンファーを握ってみると、ゼランローンズは首を傾げる。
「武器……なのか? それは??」
月華の持ち方は、短手部分を持ち、長手部分は肘に向いているのでどう見ても攻撃に向いていない。
月華は肘を折り曲げ、トンファーの長手部分をゼランローンズに見せる。
「これで防御、そして持ち手を回転させて打撃を行うんだ。防御をしてる最中に、蹴りを入れたりもする」
ゆっくりと持ち手を回転させて、長手部分をくるりと回す。ゼランローンズは頷きながら、ゆっくりとしたトンファーの動きを見て納得する。
「この武器に、長手部分に硬質化と先端に重撃、持ち手に衝撃吸収が付与されてれば、なかなか使い勝手が良くなりそうだな」
「硬質化と反射があれば、防御性能は確実に上がるが、二つ組み込むのは贅沢になるかな。これだと長手部分が木だから、魔物叩けば砕けそうだよなぁ」
月華とゼランローンズは武器や付与について話をしだすと、ユリウスが呆れながらアレクライトに訊ねた。
「ツッキーってフツーの子じゃなさげ? ちょっと気の強い子なだけかと思ったけど、どう見てもあれ戦うつもりな物言いだよねー?」
「ツキカの初討伐は赤猪だ……」
「…………乳揉むの諦める。揉んだ瞬間におれがスプラッタな未来が見えたー……」
「ゼラからもスプラッタな攻撃がくるからやめとけ。因みにオレは腕を切り落とすか焼き切るからな?」
何やら恐ろしい宣言をしているのを、楓は知らん顔しておこう、と月華とゼランローンズのやりとりの方へ、目を向ける。
「それならば、ブーツのつま先と踵にミスリルと魔石を混ぜた物をつけて、魔法付与が乗りやすいものにして、使い分けるか?」
「あー、そっちの方が場面で、速度か威力って感じに切り替えできて、よさそうだなぁ」
可愛らしい雑貨の多い店で何を話してるんだろう……と楓は半目で2人を眺めるしかできなかった。
「ゼラっちー、オンナノコにそんな物騒な物あげずに、宝石とかドレス贈りなよー」
ごく一般的な感性の持ち主と思われるユリウスは、当たり前のことを、敢えて言う口調で、ゼランローンズに言葉を投げる。が、言葉を受け取った彼は首を左右に振っている。
「ドレスは布が薄いのと、複数の布地で出来てるにも関わらず、付与効果はさほど乗らん。宝石も付与浸透率が悪い。そんな紙装甲な物を、ツキカに贈るわけにいかんだろう」
本当はドレスを贈りたいけれど、月華の性格を考えれば、付与や装甲に重きを置いた方が喜ばれるという事を、ゼランローンズはしっかり学習済みだ。
月華の喜ぶ顔が見れるならば、贈るものはドレスでなくとも構わない、といったところだろう。
「(いらない部分を、脳筋は汲み取っている……)」
「(月華が喜ぶもの最優先って感じね……もっとこう、可愛いものに興味を持ってほしいわ、月華ちゃん……)」
呆れが全面に出ている念話を送り合うアレクライトと楓は、ゼランローンズの目指す方向がわからなくなっていた。




