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紳士がいたぞぉ!絶滅してなかったぞぉおお!


 外に出ていた2人が、戻ってきたことに気づいた彼もまた、シロの瞳に驚いて声を上げようとしたので、シロは慌てて部屋に押し込んだ。そしてゼランローンズにした説明を行う。


「で、2人は何で、そんなに、汗だくなのかな? 軽く、体を動かしに行くって、言ってたよね?」


 アレクライトの笑顔が怖い。だが、シロは物怖じせずに答えを返す。


「体を動かせばスッキリするし、前向きな気持ちになれる。まだ情報、は嫌と言うほど、手に入れなければならない。今、持っている少ない情報しかない状態だと、不安やこれからの危険ばかり浮かぶ。矢継ぎ早に質問して、情報を得るのは、1人の時にするべきではない。そのため、頭を空っぽにしておける時間が、欲しかった」


 それらを伝えた。怒られる事はなく、納得してもらえたようだ。

 アレクライトが魔法で、服を乾かしてくれた。脱衣所にあったクリーニング魔導具の魔法版らしい。

 その後、ゼランローンズに目の下の手当てをさせてくれと言われた。

 シロは、気づけば勝手に治るものだから、放っておいて問題ないと断ったが、アレクライトが首を横に振って言葉を出す。


「怪我をしてる女性を前にする事が、とても心苦しいのです。お願いですから、手当てを受けてください……!!」

「お、おぅ……」


 気迫に圧倒されて返事をした隙に、ゼランローンズが傷薬を塗り、絆創膏を貼る。

 内出血を治しやすくする成分の軟膏なので、数日は掛かるけど綺麗に治る、と言われたがシロは痕が残っても、気にしない様子だ。


「あ、そうだ。お二方の衣服を用意したいのですが」


 アレクライトは、替えの服が恐らく無いであろうから、と付け加える。

 あと、服自体が、とても目立つようだ。


 男性のような服を着てるシロよりも、見たことも無いデザインの服を着ている楓の方が、目立つらしい。

 主張しすぎない縦ストライプ生地である、タイトスカートのスーツは、ごくごく普通の服装に思えるが、此処ではそうもいかないようだ。


 昨日は暗かったのと、マントで隠したから良かったが、この後、移動する時に目立ってしまう、と。

 シロは少し考えるかのように、片手を顎に持っていき唸る。


「わたしが着れる服……あります?」


 日本にいた時は、フィット感が少し悪かったが、服のサイズバリエーションはかなりあった。

 だが、この小さな町では、様々なサイズ展開はなさそうだ。

 ショッピングモールは勿論のこと、国道沿いにありそうな、大きい店舗の服屋みたいな規模の建物は、一切なかった。

 そして、シロはこの世界の女性から見ると、かなり背が高いらしい。

 街の周りを走っていた時や、公園に行った時に周りを見ていたら、女性が全員、彼女より小さかったのだ。

 大体150センチくらいが女性の平均で、160センチくらいの楓ですら、背が高めな女性らしい。


 アレクライトやゼランローンズが、会った見た事がある女性の中では、シロはダントツに背が高いらしい。

 そんな彼女だ。フィットしそうな服のサイズは、無さそうだ。


 男たちは、どうしたもんかと唸る。


「じゃあ、貴方の服のサイズより、一回り小さい男性物の服を、お願いしていいですか?」


 アレクライトへ伝える。

 今着てる作業着も男性物だ、抵抗は全くない。が、"紳士的な対応のお手本"のような2人は、なかなか頷かない。

 かと言って、代案がある訳もないので、渋々、シロには男物の服を買ってくる事を伝える。

 アレクライトが部屋を出ようとした所で、シロは一旦呼び止める。


「そうだ、クロの服、上半身にゆとり持たせてある形の服を、お願いします。あの子おっぱいデカかったから」


 アレクライトは耳まで真っ赤になりながら頷き、慌てて部屋を出て行った。

 ゼランローンズも、顔を赤く染め上げていた。


「そ、そ、そ、そのような事は、男に伝えてはならんだろう……!」


 ゼランローンズが動揺しながら注意をしたが、シロは眉を捻り首を振った。


「いんや。サイズが合わず、おっぱい部分パツパツの服を着なきゃならない状態になる方が、可哀想だ。せっかく目立たないような服を着ても、別の意味で目立ってしまう。野郎なんておっぱいがデカけりゃ、目で追うだろ? 目を見開いておっぱい追うだろ?」

「おっぱいを連呼するんじゃない!」


 砕けた口調になってくれたというか、砕けすぎて反応に困る。そして、同意してしまうのは、憚られる内容なので、敢えて答えず、を選ぶ。

 これ以上、おっぱいの話をされてはボロが出てしまいそうになるので、無理矢理話題を変える。


「宿屋併設の食堂から朝食を貰ってくるので、お二方の部屋で待っていて欲しい」

「わかったよ」


 シロは部屋へ、ゼランローンズは食堂へ向かった。


「紳士な奴らって、ちょっと面倒だな……わたしにまで女性扱いで、接するとは思わなかった……」


 シロは建築業界にいたので、仕事で関わるのはほぼ男性だ。柔らかいとは言えない口調も相まって、仕事仲間からは女性扱いを受けない。

 現場に出ると、入りたての新人男子からは、最初は姐さんと呼ばるが、いつの間にか兄さんと呼ばれるなんて事もザラにあった。

 ベテラン職人さんからも女性扱いはされない。何故か息子扱いだった。

 そんな環境にいたから、あの2人からの紳士的な扱いが、途轍もなく、くすぐったい。むしろむず痒い。


「生きるって決めたけど、異世界で生きる……事になるのかぁ……」


 隣の部屋までの、わずかな距離に溢れた独り言は、誰の耳にも届かなかった。

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