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鬼退治に行こう  作者: 夏目 碧央
7/10

 関所の近くになり、店があちこちに並んでいる。今は関所を通る旅人もいないので、閑散としているが、店は営業していた。

「人間が寝静まるまで待って、襲撃しよう。」

俺たちは、関所が見える場所に座って休んだ。

 そろそろだと思った時、

「おい、あれを見ろ!」

青竹が言った。関所を指さしている。見ると、前の関所には鬼は二匹しかいなかったのに、うじゃうじゃと番屋から鬼が出て来たのだ。六匹はいる。

「どうしてだ?鬼ヶ島に近いからか?それとも、俺たちが鬼を倒したという話がもう伝わったのか?」

青竹が小声でまくし立てた。

「青竹、落ち着けって。そうだな、前のようには行かないようだな。」

俺が言うと、

「何とかなるんじゃね?金棒もあるんだし。」

生成が気楽な事を言う。

「いやあ、二匹でギリギリだったぞ。三倍もいたらどうなるんだよ。」

青竹が言う。

「毒でも食べさせれば?」

びっくりした。さっきまで眠っていた千草が起きてきて、急にそんな事を言ったのだ。

「毒だ?そんなものどこにあるんだよ。」

青竹が言うと、

「そこら辺に生えてるよ。」

千草は、てててっと走って行き、草を積んできた。

「よもぎ?」

俺が言うと、千草は頷いた。

「前に、これを鬼が食べて、苦しがって死んじゃったのを見たの。」

「えー!」

俺たち三人は一斉に叫んだ。急いで口を押える。

「鬼にとって、よもぎが毒なのか?それはいい事を聞いたな。」

俺が言うと、

「それじゃあ、よもぎを食べさせりゃいいんだな?楽勝じゃねえか。」

生成が言った。

「だが、既にこれを毒だと知ってるかもしれないぞ。」

青竹が言う。

「よもぎが入っているとは分からないように、食べ物に混ぜればいいんじゃないか?」

俺が言うと、みんなは考え込んだ。

「さすがに草団子じゃだめだよな?」

生成が言った。

「よもぎが入っているのが一目瞭然だからな。」

俺が言った。

「あんこの方に混ぜればいいんじゃないか?大福もちか何かの。」

「おお、生成、いい考えだな。それで行くか。」

「だが、どうやって大福もちを手に入れるんだ?」

生成が聞くので、

「その辺の茶店で大福を買って、よもぎをすりつぶしたものを入れればいいんじゃないか?」

「いや、そもそもよもぎ入りの菓子を買えばいいんじゃないのか?」

などなど、しばらく問答は続いた。


 翌朝、店が開いたら早速あれこれ物色した。よもぎが入っていて、入っているとは分からないものは、当然ながら売っていなかった。それで、普通の大福を六つ買った。

「ああ、鬼に食わすために買うなんて、銭が勿体ないなあ。」

生成が言うと、青竹も千草もうんうんと頷いた。

「俺の金だ。鬼退治のために使う金だ。しょうがないだろ。」

俺は憮然として言った。だが、本当の事を言えば、鬼なんぞに食わさずに自分で食べたいのが事実。

「あれか、二匹なら倒せるから、毒入り大福は四つでいいか。二つは俺たちで分けて食うか?」

誘惑に負けた。他の三人も目を輝かせて頷く。俺たちは、大福二つを半分に割り、四人で分けて食べた。

「うーん、うまい!」

きび団子もいいけれど、大福は何てうまいんだ。そりゃあ、高価な菓子だからな。

 そして、よもぎを摘んできて、石ですりつぶした。千草の細い指で大福に穴を開け、すりつぶしたよもぎをそこから入れ、あんこの真ん中まで入れたら、また元のように餅で穴をふさいだ。

「ようし、四つの毒入り大福、出来上がり。いっしっし。」

青竹が言い、皆でいっしっしと笑った。


 夜になり、人気がなくなった頃、青竹が紙に包んだ大福を持って、関所に近づいた。頬かむりをし、闇に紛れ、番所の前の小机に大福をそっと置いた。

「食べろ、食べろ。」

後ろの方の闇の中で、俺たちはその様子をじっと見ていた。青竹が戻ってくる。鬼たちは何をしているのやら、二匹が外で見張りをする以外、残りは番屋の中にいる。見張りは交代でしているようだった。

「あ、気づいたようだぞ。」

見張りをしていた一匹の赤鬼が、大福を一つ手に取った。すると、もう一匹の見張りの青鬼も近づいて行った。何か番屋の中に向かって赤鬼が叫び、中からもう一匹の赤鬼が顔を出した。そして、大福を見ている。首を振ったりしている所を見ると、誰が置いたのか、知らないなどとやり取りしているのだろうか。

「鬼って、しゃべるんだな。」

生成が言った。

「鬼同士、意思疎通ができているようだな。」

青竹が言った。

 中から顔を出した赤鬼は、残り二つの大福を中に持って行った。見張りをしていた赤と青の鬼は、それぞれ持っていた大福を同時に口に入れた。そして、噛んで、飲み込む。すると、急にその鬼たちはのどを押さえ、腹を抱え、苦しみだした。地面に倒れ込む。

「やったぞ!」

俺たちはこぶしを強く握った。さて、そろそろ出番だ。

「生成、行くぞ。」

「おう。」


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