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鬼退治に行こう  作者: 夏目 碧央
6/10

女の子

 朝になった。

「ああ、腹が減った。」

目を覚ますなり、生成が言った。俺は腰にぶら下げていたきび団を取り出した。すると、二つしかなかった。

「二つ、だな。」

生成が、きび団子から目を離さずに言った。青竹も目を覚まし、きび団子をじっと見る。ああ、ここは譲るべきか。だが、すごく腹が減っている。きび団子は俺の物だ。だが、きび団子で釣った二人に、ここでやらぬわけにも行かぬ。

「しょうがない、お前らに・・・」

そう言いかけた時、泣き声のようなものが聞こえた。子供か?

 納屋の反対側へ行ってみると、女の子が泣いていた。

「どうしたんじゃ?なぜ泣いている?」

俺が声をかけると、その女の子はびっくりして一瞬泣き止んだ。

「誰?」

「怪しい者じゃねえ。俺は朱李と言って、鬼退治に向かっている者じゃ。ほれ、きび団子食べるか?」

「あー!」

生成と青竹がそう叫んだが、俺はきび団子を女の子の方へ差し出した。

「いいの?」

「いいぞ。」

俺が言うと、女の子は両手で二つのきび団子をそれぞれ取り、がむしゃらに食べた。どうやら腹が減っていたようだ。


 いい事をした気分で、俺たちは出発した。だが、やはり腹が減っている事は否めない。ふと脇を見れば、畑が続く。おお、これは大根じゃ。たくさん埋まっている。

「よし、ここはこの大根をいただくとしよう。」

俺がそう言って、大根に手を伸ばすと、

「おい、人の畑を荒らすのは、鬼と同じじゃないか。」

と、意外にも生成が言った。

「そうだぞ。」

青竹も言う。

「だけどよう、腹が減ってはこの先鬼にも勝てないだろ?」

俺がそう言って尚も大根に手を伸ばすと、生成がそれを止める。押し問答しているうちに、

「はい、もらってきてあげたよ。」

と言って、さっきの女の子が大根を一本抱えていた。

「え?さっきの子?」

青竹が言うと、その女の子は大根を差し出した。俺たちはそれをもらって、三つに割って食べた。

「それで、お前はどうして付いてきた?」

人心地ついて、ようやく女の子に尋ねた。

「だって。どこにも居場所がないもん。」

「お前、名前は?」

青竹が聞いた。

千草ちぐさ。」

「いくつだ?」

生成が聞く。

「八つ。」

「お前の家はどこだ?」

俺が聞くと、

「家はない。鬼に壊された。親も殺された。」

千草は言った。

「え?じゃあ、お前はいつもどこに寝てるんだ?」

青竹が聞いた。

「みんな、食べ物を分けてくれるけど、家には入れてくれない。どこにも寝場所はない。」

千草はまた、目に涙をためた。

「そうかそうか。それは気の毒な事だ。朱李、連れて行ってやろうよ。」

生成が言った。

「だけど、俺たちについてきたら危険だぞ。」

青竹が言った。

「それに、足手まといになるだろうし。」

「お前が言うか。」

俺はそう言って苦笑した。青竹はぷいっと口を尖らせた。言い返す言葉もないらしい。

「わーかったよ。俺と一緒にいればいいよ。な、千草。おれは青竹だ。これが朱李で、こっちが生成。一緒に鬼ヶ島へ行こう。」

青竹がやけになって、かどうか知らんが、そう言って俺たちを紹介したのだった。


 千草はいい仕事をした。ゆく先々で、食べ物を分けてもらってくる。皆、幼い子は可哀そうだと思って、けれども自分の家では引き取ってやれないからと、食べ物を気前よくくれるのだ。千草も良く分かっていて、哀れな表情を浮かべて食べ物をねだる。だが、俺たちと一緒に行動すると、千草の表情はだんだん明るくなってきた。

「千草、疲れたか?おんぶしてやろうか。」

夕方近くなると、俺は千草をおんぶしてやった。なるべく早く鬼ヶ島へ行くために、あまり休まずに歩かなければならない。千草には大変な苦労だろう。

「朱李、そろそろ関所が近づいてきたようだな。店の灯りが見え始めたぞ。」

青竹が俺にこっそり言った。俺は黙って頷いた。


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