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ヴァン視点
「フィリナ、俺も洞窟に同行しよう」
「えっ?いけません!ヴァン様はお忙しい身、私の為に国王の務めを怠るなどしては駄目です!でも…その気持ちは嬉しいです」
なんと!これは昨日俺が妄想していたシチュエーション通りではないのか!?よし、この流れで求婚するぞ!お前の為なら国王など捨ててやる!
「この国の人は幸せですね~国王自ら私のようなぽっと出のトレジャーハンターさえも気に掛けてくださるなんて…素晴らしい国王様です!」
「お…おう…」
「私、頑張りますね!」
「うむ…怪我だけはせぬようにな」
「はい!」
視界の端にグバールの声を殺して笑う姿が見えた…後で潰す!
そして夜になり又しても憔悴しきったフィリナが城へと戻って来た。
「今日も見付からなかったのか?」
「はい…トレジャーハンターとしての自信が早くも崩れ落ちそうです」
「希少な卵だからね~そうそう見付からないよ?気にしないの」
グバール!なに当然のようによしよししているのだ!!触れるな、フィリナが穢れる!
闇トカゲ…我が国の洞窟に生息する生き物。警戒心が強く凶暴だが、その卵から摂れる成分が難病に効くとされ時よりトレジャーハンターの本部に依頼が来る。今の時期は産卵期の筈だが…ひとつも見付からないとなると人為的な何かを感じるな。
絶対、あの腹黒元婚約者が絡んでいる!!!
「フィリナ~明日は野暮用で同行出来ないんだ、ごめんよ~」
「いえいえ!気にしないでください先輩。元々私が請け負った依頼ですから」
「ならば国王として俺が同行しよう!」
「えっ?」
「国王、関係無いよね?」
「何を言う!我が国を訪れた新人トレジャーハンターに協力するのも王の務めだ」
国王の俺が言うんだから間違いない!
「今まで何人も来たけど協力してたっけ?」
「潰す」
「してたね」
「ありがとうございます!私本当は初めての仕事で心細かったんです!ヴァン様が一緒なら達成できる気がします!」
両手を胸の前で組み潤んだ目で見上げるフィリナ。
抱き締めてもいいだろうか?差し伸べた手がグバールによって叩き落とされた…お前もか!コンチクショー!
翌朝グバールは「じゃあ、またねー」と何処かへ飛んで行った。あいつに何か仕事頼んでいたか?と考えていたら愛くるしい笑顔のフィリナが「今日はよろしくお願いします」と駆け寄って来た。
「まだ探していない洞窟が二か所在りますから今日はそこに行きますね」
「待て、フィリナ」
転移魔法を行使しようとしたフィリナを引き留める。あのグバールが見付けられないのだ、おそらく我が国の洞窟には卵は残っていないだろう。
「これは門外不出の極秘事項なのだが…王家が管理する隠された洞窟があるのだ」
俺が住む城とは別に有事の際使われる隠れた離宮が森の奥に作られている。この離宮は王家の血を引く者にしか入れない魔法が施されていて誰も立ち入る事が出来ないのだ。
その離宮の奥に小さな洞窟があり闇トカゲも生息していた筈だ。
「それ…私が聞いて良かったんですか?」
「構わぬ。王家の者しか入れぬ場所だ」
お前も何時か王家に入るのだしな!
「それだと私入れませんよね?」
「俺が手を繋げば入れる」
「まあ!では、お願いします!」
「任せろ」
差し出された小さな手に触れる…柔らかい!すべすべだ!
こらっ!上目遣いで頬を赤らめるな!恥ずかしそうに微笑むな!
マズいぞ!理性が飛んで行きそうだ!!!
「ヴァン様の手、大きいですね…とても安心します」
安心します、安心します、安心します…よし!戻って来た理性!
「手を離すなよ、飛ぶぞ!」
「はい!お願いします」
俺は翼を広げ空高く飛び上がる。フィリナも風魔法を使って浮いているようだ。心地良い風を肌に感じ繋いだ手の熱を拭っていく。「わぁ~鳥になったみたいです」と、はしゃぐフィリナもまた可愛い。
ここでふと重要な事に気付いた…これってデートだよな?俺とフィリナの初デートじゃないか!!!
ああ、幸せだ…このまま世界を一周したい。いっそ新婚旅行にこのまま連れて………。
「私、仕事頑張りますね!」
フィリナの一言で現実に戻された。
「此処が秘密の洞窟だ」
「秘密の洞窟…トレジャーハンター魂が揺すぶられる響きですね」
「そう…か。好きに探検しても構わないぞ」
「ありがとうございます!」
気の所為だろうか?フィリナの目がギラリと光ったように見えたぞ。
「きゃああああ!!」
「ど、どうした!?」
「見て下さい、ヴァン様!虹色苔の群生です!コレクターに高値で売れます!」
「構わぬ、採取しておけ」
「危ない!」
「な、何だ!?」
「毒大ムカデです。噛まれると三日間足の裏が痒くなります。でも体液は薬になるので採取しますね」
「おいおい、素手で掴んでは危ないだろう!」
洞窟に入るや否や大騒ぎのフィリナ。やれ珍しい鳥が居るだの、やれ幻の薬草が生えているだの目をギラギラさせて駆け回っている。「流石、秘密の洞窟」と楽しそうだ。振り回される三十路前の俺は多少辛いものがあるが…。
「見付けましたーー!」
「今度は何だ!?」
「闇トカゲの卵ですよ」
ああ、そう言えばそれが目的だったな…忘れていたぞ。
そこには卵を守る母親の闇トカゲが赤い口を開けて威嚇していた。
「ごめんなさい。ひとつ下さいね」
フィリナが魔法を唱えるとコテンと眠る闇トカゲ。難なく卵を採取出来た。
「任務完了です!ヴァン様、ありがとうございました!」
見返りを求めても良いだろうか?いや、駄目だ!一国の国王たるもの度量が狭くてどうする!
「うむ、王として当然の事をしたまでだ」
帰りの飛行デートで手を打とう!
「今度、お礼に参ります!では!」
「えっ?おい、待て!」
引き留めた俺の声は移動魔法で消えたフィリナには届かず洞窟内に響いただけだった。
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