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ヴァン視点

「また来たのかよ?」

「今日はフィリナの迎えだ!」


今日は我がタータルニア黒竜王国にフィリナがやって来る。トレジャーハンターとしての初仕事だ。初仕事に俺の国を選んでくれたって事は…伴侶に俺を選んだって考えても過言では無いな!


早く侯爵領を潤わせてフィリナを自由にしなければ!


『フィリナ、俺も洞窟に同行しよう』

『えっ?いけません!ヴァン様はお忙しい身、私の為に国王の務めを怠るなどしては駄目です!でも…その気持ちは嬉しいです』

『俺はお前の為なら国王など捨てる!』

『そこまで私を…?』

『ああ、愛しているよ、フィリナ』

『私もです、ヴァン様』


目を閉じるフィリナ。俺は優しく抱き寄せその唇を………。


「フィリナならライセンスプレートを受け取りに宮廷に行ってるけど?」


はっ!いかんいかん、またしても妄想の世界に…。

その胡散臭そうな奴を見るような目を向けるな、愚弟!


「ああ、そうか…ならば戻るまで此処で待たせて貰おう」

「チッ!どうぞ」


おや?珍しく中に通してくれたぞ。そうかそうか、とうとう俺の誠意が愚弟に伝わったのだな。訪れる度に黒竜国の特産物を持って来たのが功を奏したのかもしれない。次は何を持参しようか?紫色マンゴー?桃色パイナップル?奇をてらって銀色パパイヤはどうだろうか?


コチコチコチ…相変わらずお茶も出ないなこの邸は…。誠意が伝わったと思ったのは気の所為なのか?


コチコチコチ…何故、俺は庭で草むしりをしているのだ?まあ、何か手伝おうと言ったのは俺だが?


コチコチコチ…グゴッ!はっ!薪割りと掃除に疲れて寝てしまっていた!もう日が傾いているではないか!?


「フィーロ!フィリナはまだ戻らないのか?」

「仕事が終われば戻って来るよ」

「なん…だと…?」

「泊まるならテント貸すけど?」


ああああああ!!!何という失態!家に通された時点で気付くべきだった!この性悪愚弟が素直に邸に通す事なんてある筈無いのに!

フィリナに同行出来ないように足止めされていたのか~!!!

俺とフィリナの嬉し恥ずかし初めての共同作業がああああ!!


「覚えていろ、小僧!」


捨て台詞を吐き急いで母国へと飛んだ。入手困難な卵だと聞く。危険な目に遭っていないだろうか?真っ白な柔肌に傷など負っていないだろうか?その時は俺が舐めて治療してやろう!竜人の唾液は炎症を防ぐ効果があるからな!決して下心などでは無い!


洞窟に着いた俺を待っていたのは憔悴しきった顔で野営の準備をしているフィリナの姿だった。


「フィリナ!」

「あっ!ヴァン様」


そうそう、俺は黒竜王様呼びからヴァン様呼びにステップアップしたのだ。どうだ、夫婦っぽいだろう?


「何故、こんな所で野営しているのだ?」

「邸に戻るまでの魔力が尽きてしまって…」

「馬鹿者!こんな場所で乙女がひとり野宿するでは無い!」

「ご…ごめんなさい…」


はっ!心配のあまり、つい大声を出してしまった!

ああああ…フィリナの顔色がみるみる青ざめてきている。

馬鹿!馬鹿!俺の馬鹿!

ひとり魔力も尽きて不安だったろうに…追い打ちを掛けるように怒鳴り付けるとは…何て事をしてしまったんだ!


「大丈夫ですよ?俺が一緒ですから」


後悔に圧し潰されそうになった時、後ろから声が聞こえた。

振り返ると俺の良く知る顔がニヤリと笑っていた。


「あっ…お帰りなさい、先輩」

「先輩?」


フィリナが先輩と呼んだ男は我が国の密偵、グバールだった。

どう言う事だ?


「彼は私が助手をしていたトレジャーハンターのグバール様です」

「初めまして、竜王様。グバール・ミゼナラです」

「ほ~う?トレジャーハンターのグバール?」

「ちょっ…痛っ!王様…やめ…て…」


差し出された右手を握り潰しながら「後で話聞かせろ」と囁いた。


「フィリナ!侯爵令嬢のお前をこんな所で野宿させたとあっては竜王の名が廃る。我が城に招待するから付いて来い」

「えっ?慣れているので大丈夫ですよ?」

「フィリナ!ここは竜王様のご厚意に甘えよう?」

「先輩がそう言うなら」


俺よりグバールの意見を尊重するのか?覚えておけ、グバール!


グバール・ミゼラナ…数年前から我が国の密偵をしている只人族。

萌葱色の長髪を後ろでひとつに纏め、何時でも口角を上げ不敵な笑みを浮かべているが糸目の奥の藍色の瞳は笑ってはいない。中肉中背で魔力含有量が膨大で使える魔法も数知れない。年齢不詳だが醸し出される雰囲気は俺より歳を重ねているように見受けられる。

いきなり俺の前に現れて「何か仕事ちょーだい」と言ってきた。

抗えない力を感じ取った俺は「遣い走りでもしていろ」と言ったが、その能力は絶大で今ではこの国に欠かせない密偵となった。

まさか、トレジャーハンターの称号まで持っていたとは知る由も無かったのだが。


「初耳だが?」


執務室に入って来たグバールに開口一番言い放った。


「言って無かったっけ?彼方此方探るにはトレジャーハンターの称号は便利だから貰ったよ」

「フィリナとは何時知り合った?」

「四年前になるかな?リオーネル帝国のトレジャーハンター本部の紹介?面倒だなと思ったけど可愛かったし能力半端無いから即採用!フィリナが一緒だと仕事が楽しくって~此処辞めようかとおも………ちょっと~威嚇しないでよ、王様~」


いつの間にか瞳孔が縦に割れて威嚇していたらしい。


「手を出したら潰す!グチャグチャに!」

「こっわ!マジ洒落にならんわ」

「して、闇トカゲの卵は手に入れたのか?」

「いいや、ひとつも見付からなかったよ。誰かに先を越されたかな~」

「そうか…よし!見付かるまでこの城に引き留めておこう」


「撃退魔法掛けといてあげよう…」


新婚生活の予行練習みたいだなと浮かれていた俺にはグバールの呟きは聞こえなかった。



読んで頂きありがとうございます。

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