新米ハンターの初仕事
ラストゥル視点
【トレジャーハンター】各地に散らばる秘宝や希少な生物、鉱物などを採取し報酬を得る者たちの称号。危険を伴う仕事だが、その報酬は莫大で秘宝ひとつで巨万の富を得る事が出来ると言う夢の職業だ。探索魔法に特化し、並外れた身体能力を持ち、溢れんばかりの知識と教養を持った者しかその称号は与えられない。今までフィリナがやっていた助手の仕事の報酬はトレジャーハンターの報酬の十分の一で雲泥の差がある。
「見て見て、ラストゥル!夢にまで見たトレジャーハンターのライセンスプレート!」
フィリナの胸元に光る黄金のプレート。
幼い頃から僕の嘘に振り回され、みるみる魔法が上達し身体は強化され知識も増えていったフィリナ。理解している…自業自得だと。
「フィリナ、ちょっと来て」
「近くで見たいのね?ふふふ」
無邪気に近付いて来たフィリナをギュッと抱き締める。
「ななな何!?どどどどうしたの?ラストゥル!?」
真っ赤になって慌てふためくフィリナの耳元で苦し気に呟く。
「どうやら僕は毎日フィリナを抱き締めないと息が出来ない病気にかかってしまったらしい」
これは本当だ。
フィリナが近くに居なければ僕は息が出来ない。
「分かったわ!出来るだけ毎日抱き締められに来るから心配しないで!」
「フィリナは僕が死んでも良いの?出来るだけじゃ駄目だ!毎日来て!」
「それは無理だよ、仕事があるもの。お医者様に相談して?」
チッ!僕より仕事を優先するんだね?知っていたよ!
「じゃあ、キスしていい?それなら三日は耐えられそう」
「キッキッキッキス!?婚約者じゃ無くなったから…ほっ頬っぺたで良いよね?」
「唇だよ」
有無を言わせず口を塞ぐ。目を見開き固まるフィリナ、ここぞとばかりにその柔らかで甘い唇を暫くの間堪能した。
「はぁ…落ち着いたみたいだ」
硬直したフィリナのこめかみにチュッと口づけると、意識を浮上させた彼女が涙目で「これは医療行為」と呟いていた。次は舌を入れて深く口づけてやろうと心に決めた。
「ライセンスプレート触ってもいい?」
「良いわよ」
プレートを受け取ると渾身の攻撃魔法でプレートを破壊した。
「きゃああああああ!!!」
「あ~どうしよう、静電気に反応して攻撃魔法が勝手に」
嘘だけど。
「静電気?ビリッときたのね、ラストゥル」
「そうなんだ。解除しようとしたけど間に合わなくて…」
ライセンスプレートが無ければトレジャーハンターの仕事は出来ない。そしてライセンスプレートの再発行は不正防止で半年かかる。諦めて僕だけのトレジャーハンターになりなよ。
「気に病まなくても大丈夫よ?特別だって十枚のライセンスプレートを陛下に頂いたから」
くそジジイ!僕の行動を先読みしてプレート用意したね?
「じゃあ、行って来ます!」
満面の笑みで消えたフィリナの残り香が鼻腔をかすめる。言いようのない焦燥感が僕に襲い掛かった。
僕は諦めないよ!開放などしてやるものか!
今回のトレジャーハンターの仕事は希少な闇トカゲの卵の採取に赴くらしい。あの忌々しい竜王の住む南の国、タータルニア黒竜王国の洞窟だ。隠密の情報ではあの竜王、日にちを開けず侯爵邸を訪問しているらしい。その都度フィーロに追い返されているらしいが…。
「守備はどうなっている?」
「昨夜、目当ての卵は根こそぎ採取済みですよ」
「よし!引き続き情報を集めておけ」
「りょーかい!」
隠密の気配が消え微笑みを浮かべながら紅茶で喉を潤す。すると頭上から大きな溜息が聞こえた。
「母上!?」
「もう!何やっているの?コソコソと隠れてフィリナちゃんの仕事を潰すなんて!」
娘が居ない母上はフィリナを溺愛している。婚約が解消された時は熱を出して寝込んだ程だ。ちなみに婚約解消を言い放った父上はその日から口もきいて貰えず落ち込んでいるらしい。
「生温いのよ!トレジャーハンターの本部ごと潰さなきゃ!」
はああ~フィリナが絡むと容赦無い。と言うか面倒くさい。
「それは出来ません。他国にも本部は有ります」
「だったらライセンスプレートを粉々に!」
「それはもう行使済みです」
「かくなる上は陛下を亡き者に…」
「落ち着いて下さい、母上。僕の隠密は優秀なトレジャーハンターですからフィリナが報酬を得る事はありません」
「まあ!流石わたくしの息子、頼りになるわ」
「三年後、フィリナは僕の妻です」
「違うわよ!わたくしの娘になるの!」
本当に面倒くさいババアだ。
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