4
ラストゥル視点
「騙されてるよフィリナ」
満面の笑みで黒竜の指輪を持って訪れたフィリナ。手に入れた経緯を聞いてはらわたが煮えくり返る想いがした。同じ素材で新しい指輪を作るから古い指輪はフィリナに譲っても良いと言われたそうだ。何を考えている黒竜王‼
「騙す?どうして?」
「彼が三十路前だと言うのに独身なの知っているよね?」
「ええ…優しくてとても素敵な方なのに不思議よね」
何で婚約者を前にして他の男を褒めるかな~?お仕置き決定だね。
「彼は男色だって噂があるよ。だから女性には興味無い」
嘘だけど。
「まあ!そうなの?でも分かるわ、魅力的な方だもの。同性でも惹かれてしまうわよね」
チッ!まさかとは思うけど君も惹かれたりして無いよね?
「でも彼は一国の王、世継ぎは必要だよね?きっと家臣から毎日のように小言言われて辟易していたんじゃないかな?」
「うんうん。私もフィーロの小言には辟易しているわ」
姉至上主義のフィーロ…あいつも敵だ!もっと嫌われてしまえ!
「そこに現れた指輪を欲しがる異種族のフィリナ。これ幸いとばかり利用しようとしているんだよ」
「利用?どんな風に?」
「異種族婚は子供が出来にくいだろう?白い結婚だとしても疑われない。君は宮殿の奥に閉じ込められて名ばかりの王妃にされるんだ」
「それは大丈夫よ。指輪を受け取っても結婚の意味は含んで無いってフィーロがしつこく言質を取ったから」
流石、フィーロ。でも…。
「甘いよ!受け取ったと言う事実が重要なんだ。没落寸前の侯爵家が竜王の権力に対抗出来ると思うの!?」
「お前こそ権力を振りかざしてフィリナに婚約解消出来ないようにしているではないか!」
やっとお出ましか黒竜王!さっきから扉越しにチラッチラチラッチラ黒い翼が見えていたよ。それもフィリナが褒めた時だけバサバサと!犬の尻尾か!
「黒竜王様!?」
「フィリナ、そいつの言う事を鵜呑みにしてはならんぞ」
「僕の婚約者を呼び捨てにしないで貰いたい」
「ほーう?条件は満たしたのだから婚約は解消されるのではないのか?」
「僕は指輪を受け取る気なんかありません!故に婚約は解消されないんですよ?」
「くっ…若造が!」
「ちょっと!ちょっと!喧嘩は駄目だよ~国際問題持ち込まないで~」
「娘を巻き込まないで貰いたい」
どっから湧いた!?父上とマデラン侯爵!
「皇帝陛下!?お父様!?」
「やっほーフィリナちゃん。相変わらず美人だね~」
「当たり前です陛下。最愛の妻にそっくりなのですから」
「うんうん。侯爵夫人も美人だったよね~惜しい人を亡くしたよ」
「はい。妻を亡くした時は絶望しか残りませんでした」
「辛かったよね~」
「はい…それはもう…うっ…うっ…」
何の小芝居が始まった!?
「でも、今は元気に見えるけど?」
「悲しみに暮れ没落まっしぐらの私に救世主が現れたのです!」
「おお!それは一体誰なんだい?」
「我が最愛の娘、フィリナです!」
おい!ジジイ共、まだ続けるのか?周りの生温かい視線に気付けよ!
「フィリナはどうやって侯爵を立ち直らせたんだい?」
「私と息子、領民の為に…か弱い体でお金を稼いでくれたのです」
か弱い体?初耳だけど?誰よりも丈夫だよね?
「なんと!一体どうやって?」
「それは…トレジャーハンターの助手として数々のお宝を見付けて来たのです!のです…のです…のです…」
「素晴らしい!らしい…らしい…らしい…」
なに反響効果付けているんだよ!
「私、頑張りました!」
フィリナ、茶番に加わっちゃ駄目だから!
「姉上は僕達の希望の星です!皇帝陛下、どうか姉上にトレジャーハンターの称号をください」
居たのかフィーロ。棒読みだな。
「しかしフィリナは僕の…皇子の婚約者。未来の皇后をトレジャーハンターにする訳には…」
「婚約を解消すればよいではないか」
存在忘れていたよ…黒竜王。
「そうだね~よし一旦解消しようか」
「父上!」
馬鹿なのか、くそジジイ!フィリナを野放しにしたら誰かに掻っ攫われてしまうだろ!特にこの三十路前のオッサンに!
「まあまあ落ち着いてラストゥル。条件を付けるよ?」
「「「条件?」」」
「侯爵家の資金が以前のように潤沢になるまで誰とも婚約を結ばない事。期間は…そうだね~三年!三年以内に回復しなかったらトレジャーハンターを辞めてラストゥルと結婚してね」
「お断りします!」
「何でフィーロくんが返事するの~?」
「十日以上待てません!」
「我儘言わないの、ラストゥル!」
「我が国で補填しよう!」
「他国は干渉しないでね、黒竜王」
「その条件飲みました!願ったり叶ったりです!」
キラキラした瞳でとどめ刺さないでよ、フィリナ!
「トレジャーハンターとしてマデラン侯爵領を支えるのが私の生き甲斐です!三年以内に回復してみせます!」
言ってくれたね、フィリナ…僕を怒らせるとどうなるかまだ分かっていないようだね?
その生き甲斐…気合を入れて潰すよ?フィリナ。
~~~♢~~~♢~~~
タータルニア黒竜王国の洞窟でひとりの男が大量の卵を抱えてブツブツとぼやいていた。
「皇子も酷い事するな~可愛い妹分が可哀そうだよ」
卵をマジックバックに入れポケットに仕舞う。
「後は…北の方にある洞窟で最後か…」
北の空を眺め溜息を吐く。
「ごめんな~フィリナ」
読んで頂きありがとうございます。
ブクマ、評価、よろしくお願いいたします。