表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/32

3

ヴァン視点

「黒竜王様!?」

「やあ!フィリナ」


侯爵家の応接室で待っていた俺を菫色の目を見開き佇むフィリナ…いや未来の花嫁。俺は威厳を持って笑い掛け軽く手を挙げる。


今度は俺から求婚しようではないか!俺はポケットに忍ばせた黒竜の指輪をそっと握り締める。


「何故、黒竜王様が侯爵邸に?」

「ああ、君の忘れ物を届けにな」

「忘れ物?」


首を傾げる仕草も美しい。金のサラサラな髪が肩から流れ髪に付いた木の葉が絨毯へと落ちていく……ん?髪の毛に木の葉?と言うか全身葉っぱだらけじゃないか!?


「何故、葉っぱだらけなのだ?」

「申し訳ございません!森から直接飛んできたものですから」

「森?」

「はい。北のムーサル青竜王国の森に住む紋白鳥の羽を捕りに」

「はぁ?」


「お嬢様!先に着替えを」


言葉の意味を理解する前に年若い執事が割って入ってきた。


「えっ…でも…」

「お早く!」

「気にせず行って来たらよい」

「あ…はい。では失礼して」


淑女らしく礼を取り応接室を出る花嫁。再び木の葉が宙を舞う。


「申し訳ございません、黒竜王様。お忙しいのに再びお待たせする事になりまして。こうなる事が分かっておりましたのに、もっと強く辞去を促せば良かったです。あっ今からでも遅くありません!お帰りになりませんか?お忙しいのでしょう?」


ほーう?とっとと帰れと遠回しに言っているな、この執事。と言うか小一時間国王であるこの俺をひとり応接室に放置して悪びれもしないなど…とんだ食わせ者だな。


「気にする事は無い。急ぎの仕事は済ましている」

「そうでございましたか…チッ」


聞こえたぞ、小僧!捻り潰してやる!おっと…いかんいかん。此処は花嫁の実家だった。流血沙汰はご法度だな。コイツの処分は結婚の後にしよう。首を洗って待っていろ、小僧!


「して…フィリナは羽を採取して何をする気だ?」

「はい。売りに行きます」

「はぁ?」

「売りに行きます。もう一度言いましょうか?売りに、行きます」


大声出さんでも聞こえているわ!意味が分からないんだコンチクショー!俺を老人扱いするな!


「何故売りに?」

「侯爵領の資金の足しに」

「はぁ?」

「侯爵領の、資金の、足しに」

「聞こえてるいわーー!」


キレた。胸ぐらを掴み睨み付けると小僧の口がニヤリと歪む。


「噂通り野蛮な人種なんだな!フィリナに近付くんじゃねえ!」

「正体を現したな小僧?従順な振りをしてフィリナに仕えているとは…俺が排除してやる!」

「野蛮な上に頭も悪いのか?何の関係も無い国王なんかに俺とフィリナの仲を引き裂けるとでも思っているのか!」

「なん…だと…?」

「俺達二人の愛の絆は誰にも壊されたりしないんだよ!」


まさかのライバル出現にしばし呆然としてしまった。侍従関係の禁断の恋…良くある話だ。天使のような美しいフィリナだ、誰だって恋に落ちる。そう、この俺が一目で落ちたように…。


「お前とフィリナは…恋人同士なのか?」

「ふっ…想像に任せるよ」


何だその余裕!このまま亡き者にしてやろうか!

いや…惚れた女を悲しませることは出来ない。陰ながらフィリナの幸せを願うとしよう。


「お待たせしました」


薄紫のドレスに身を包んだフィリナが穏やかに微笑み入って来た。

美しい…この姿を見るのも今日で最後か…。


「それで、忘れ物とは一体?」

「いや…もう良いのだ。用件は済んだ」

「ああ、フィーロが代わりに受け取ったのですね?」

「フィーロ?」

「私の弟です。執事の格好をしていますけど」

「ご挨拶が遅れました。マデラン侯爵家の長男、フィーロです。ウチは貧乏侯爵家なもので僕が執事の代りをしているのですよ」


弟じゃねーかー!!!


気を取り直した俺は、やっと出されたお茶を飲み幾分落ち着きを取り戻した。さあ!求婚だ!受け取ってくれ、黒竜の指輪を!


「それはそうと…黒竜の指輪を欲しがっていたな?」

「あの節は失礼致しました。大事な指輪とは知らず不快なお願いをして申し訳ございません」


全く不快では無いぞ!むしろ夢見心地だった。


「何故、黒竜の指輪を?」

「えっと…それは…話せば長くなりますけれど…お聞きになりますか?」


ああ!むしろ長い方がよい。一年でも十年でも、いっそ命が尽きるまで聞いてやろうではないか!


「構わぬ」


では、と語り始めたフィリナの話では…侯爵領は緑溢れる領地で作物の実りも豊か、商業も盛んで潤沢な運営がなされていた。しかし五年前、マデラン侯爵の領内だけで原因不明の疫病が流行り多くの領民が死んでいった。疫病は封じ込めたが働き手のなくなった領民は日々の生活もままならない状態。

そこで領主であるマデラン侯爵が税金の免除、生活資金を援助した結果、領地を運営する資金が無くなりかけ没落の一歩手前まで貧窮していった。食べる物も食べず夫と共に奮闘していた侯爵夫人は過労と心労で帰らぬ人となった。

妻の死に憔悴しきった侯爵を見て立ち上がったのがフィリナ。

魔法の才能に長けていたフィリナはトレジャーハンターの助手をしていたらしい。


「探索魔法だけ上達していたんです」

「それで黒竜の指輪を探す仕事を請け負ったのか…」


国宝を欲しがるなど何処のどいつだ!万死に値する!


「いえ…黒竜の指輪は別件です」

「別件?」


急にもじもじし始めたフィリナ。隣に座っていた小僧が眉間に皺を寄せる。


「実は私には婚約者が居まして…」

「なっ!」


ガーーーン!誰だ!?俺の頭を殴ったのは!?後ろを振り返ると…誰も居ない。左右も上にも誰も居ない。正面には首を傾げるフィリナ、その横に呆れ顔の小僧。一体誰が…?

いや…分かっている。俺はフィリナの言葉に殴られたのだ。婚約者の存在を認めたく無くて現実逃避していた。


「あの…竜王様、大丈夫ですか?」

「頭…体調が悪いのでしたらお帰りになられたらどうです?」


相変わらず辛辣だな、小僧!


「問題無い。続けてくれ」


断腸の思いで続きを促した。結局、失恋って事か…ハンカチ持ってきていただろうか?


「それで、あの…婚約を解消したくて」

「えっ?」


カラーン、コローン。祝いのベルが聞こえる。白い豪奢なドレスを纏ったフィリナが俺の横ではにかんだ微笑みを浮かべている。俺はそっと頬に手を添え艶めく桃色の唇に口づけを…。


「おい!戻って来いよ、オッサン」


耳元で囁かれた言葉に我に返る。あまりの嬉しさに妄想の世界に浸りきっていたようだ。


「姉上、矢張り竜王様は体調が悪いようですね。此処の気候が合わないのではないでしょうか?直ぐにお帰り頂きましょう」

「まあ!それは大変です。南に比べると此処は若干寒いですから体調を崩されたのですね?」

「そんな事は無い!むしろ今日から住みたいくらいだ!すまない、少し考え事をしていた」

「チッ」


困惑気味のフィリナに笑顔を向けたらホッとした顔で微笑まれた。まさに天使。と言うか、小僧…いや義弟よ!小さな舌打ち聞き漏らして無いぞ!あと、オッサン発言忘れないからな!


「婚約解消と黒竜の指輪がどう関係してくるのだ?」

「黒竜の指輪を手に入れる事が婚約解消の条件のひとつだったんです」


愁いを帯びた瞳で俯くフィリナ。抱き締めても良いだろうか?差し伸べた手が義弟によって叩き落とされた。コンチクショー!


「婚約解消の条件?」

「はい…先ほど申しましたように侯爵家は没落寸前です。私はトレジャーハンターとなり領民を支えていきたいと思い婚約の解消をお願いしました。ですが…私にはトレジャーハンターの仕事など無理だと却下され婚約も解消してくれませんでした。私は婚約者を毎日説得していたのですが、ある日こう言われたのです『僕が指定した秘宝を見付け持って来たならトレジャーハンターの素質があると認めよう。婚約も解消してあげる』と。黒竜の指輪はその秘宝のひとつだったのです」


十中八九その婚約者は黒竜の指輪が門外不出の国宝と言う事を知っているな。手に入れられないと知って敢えてリストに加えたって事は…その婚約者、婚約解消する気などはなから無い!


何処のどいつだ腹黒婚約者!


「では…条件が満たされなかったと…」

「それなら心配ないです。入手不可能な秘宝をリストに入れていた事を非難したら特別に違う秘宝に替えてくれましたから」


心配しか無いぞ!絶対それも入手不可能な秘宝だぞ!毒の霧が充満している死の谷に眠る王冠とか…。


「死の谷に眠る王冠ってご存知です?」

「……」


訂正…鬼畜婚約者だ!


「ひとつ、フィリナに提案したい事が有る」

「はい?何でしょう黒竜王様」


「黒竜の指輪を譲る代わりに素材集めしてくれ」



読んで頂きありがとうございます。

ブクマ、評価、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ