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黒竜の指輪

ヴァン視点

水害の表現があります。

「黒竜王様で間違い御座いませんか?」

「ああ…如何にも俺が黒竜王だが?」


突然目の前に現れた只人族の少女。透き通る肌、輝く金色の髪、整った美しい顔。ドレスこそ纏って無いが気品あふれる物腰が育ちの良さを醸し出している。そして強い意志を持って見つめてくる菫色の目の鋭さに竜王たるこの俺が一瞬たじろぎそうになった。


「ずっと…ずっと…探しておりました」

「ずっと探してた?」


俺を、か?


まさかとは思うが俺に懸想し追い掛けて来たって事は無いよな?

こんな愛らしい少女が三十路前の俺に懸想するとか………。


あるな!


これでも俺は黒竜王と呼ばれるに相応しい風貌だと言われている。

褐色の肌にひと房だけ赤い黒髪、切れ長の鋭い目、薄い唇。強靭な肉体と威圧感たっぷりの高身長。黒い大きな翼を持ち溢れ出る色気は乙女の腰を砕くと言われるほどの色男!


そして一国の国王だ!


十年前の水害さえ無ければ正妃はもとより側妃の一人や二人居てもおかしくない!


さあ!美少女よ、存分に愛を語るがよい!


「実は…あの…黒竜王様に…その…烏滸がましいお願いがあって来たのですが…」


急にモジモジと顔を赤らめ呟くように言葉を発する少女。間違いなく愛の告白だな!うむ。愛い奴!妃にしてやらんことも無い!


「わざわざ此処まで俺を探してきたのであろう?出来るだけ叶えてやろう。さあ!早く申せ!」


潤んだ目をキラキラと輝かせ、ぱぁ~っと顔をほころばせる少女。なんたる破壊力!忘れかけていた青くて甘酸っぱい恋心を美しい少女の微笑みが鷲掴みする!鼓動が激しく脈打ち体温が上昇している!く…苦しい…だが心地良い…もしかしてこれが一目惚れと言うやつなのか!?今直ぐ少女をこの胸に抱き締めてしまいたい!


「黒竜の鱗で作ったと言われる指輪…」

「黒竜の指輪の事か?」

「はい!きっとその指輪です!」


黒竜の指輪…俺が今、首からぶら下げている指輪は代々王家に伝わる国宝で王族が婚約者に贈る指輪だ。それをどうしようと言うのだ?『その指輪を私にくださいませ!貴方の妻になりたいのです!』って言うつもりか?いや、願ったり叶ったりなのだが…竜王たるもの求婚は俺の方から………。


「その指輪を私にくださいませ!」


逆求婚されたーー!!!


俺の名前はヴァン・タータル。四大陸の南、タータルニア黒竜王国の竜人で国王だ。熱い太陽の光が降り注ぐこの国の住人は気性が荒く粗暴で野蛮だと周辺諸国では噂されている。だがその実態は情に厚く明るくおおらかな国民性を持っているのだ。国王も権力を振りかざす事無く市井に降りては国民たちと触れ合い不満や要望を吸い上げ笑いの絶えない国政を敷いていた。

十年前、十日間降り続いた雨の影響で国の半分が水没する災害に見合わされた。その後起こった土砂崩れや川の氾濫で村や町は流され、国民の救助を指揮していた両親も濁流にのみ込まれ帰らぬ人となったのだ。

何の準備も覚悟も無いまま王位を継承した俺は稀代の国王にならい自ら国中を回り復興の指揮を執った。約十年の歳月を掛け国は再び以前の活気を取り戻し財政も落ち着いてきて『早く伴侶を』『早く世継ぎを』とせっつかれる毎日を送りながら未だに国中を駆け回っていたのだが………まさか美少女に求婚されるとは。


「俺で…良いのか?」

「黒竜の指輪じゃ無いと意味がありません」


それはそうだろう。俺が贈る指輪じゃ無いと意味無いな。何と言っても王族が婚約者に贈る指輪だからな!可愛い顔をして大胆な奴め!もっとおねだりしても構わぬぞ!


「そうか…では…おっと、名前も聞いていなかったな」

「はっ!申し遅れました!私の名前はフィリナ。リオーネル帝国のマデラン侯爵の娘です」


侯爵家。成る程、溢れ出す気品は高貴の生まれの賜物か。


「では、フィリナ。君にこの指輪を贈ろう」

「ありがとうございます。黒竜王様!」


瞳をキラキラさせて贈った指輪を胸に抱き締めている…俺もフィリナを抱き締めたい。今直ぐ城へ攫って行こうか?

いかんいかん、先ずはフィリナの両親に挨拶だ!しかし両親は結婚を許してくれるだろうか?まさかの逆求婚でしかも異種族婚。


この世界には三種族が存在して居る。


只人、竜人、獣人…元は皆同じ只人だったと言う。


遥か昔、次元の狭間から突然現れた数多の竜と異形な獣が人々を蹂躙し町や村を破壊した。逃げ惑う人々の中、光り輝く者たちが現れ竜や獣が殲滅された。

だが竜の血を浴びた人々は背中に翼が生え強靭な肉体を持つ竜人となり、異形な獣の血を浴びた人々は獣の耳や尾が生え動物並みの瞬発力と洞察力を持つ獣人になった。

そして残った只人の一部が光り輝く者によって魔力を注ぎ込まれ魔法使いになったと言う。


これがこの世界の先祖の逸話だ。真意は不明だがな。


只人族と竜人族の婚姻は認められている。だが、子供が生まれにくいとされ、よほど愛し合っていなければ婚姻は結ばれない。


問題無いな!出会った瞬間から俺達は愛し合っている!


「他人行儀だな。ヴァンと呼べ」

「えっと…流石に国王を呼び捨てには出来ません、黒竜王様」

「夫となるのだから構わないが?」

「はい?」


キョトンとした顔も愛らしい。だが、何故キョトンだ?


「夫となるとは?」

「俺がフィリナの夫となる」

「何故?」

「黒竜の指輪は婚約者に贈るものだから…?まさか知らなかったとは言わぬよな?」

「今、知りました…ごめんなさい!忘れて下さい!」


フィリナは指輪を突き返すと一瞬でその姿を消した。

呆然と立ち尽くす俺。


「忘れられるかーーー!!!」



読んで頂きありがとうございます。

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